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[皇后杯]“ママさんなでしこ”宮本が現役最終戦でゴール、「神様のプレゼント」

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[12.22 皇后杯準決勝 伊賀1-1(PK3-4)千葉 NACK]

 第34回皇后杯全日本女子サッカー選手権は22日、NACK5スタジアム大宮で準決勝を行い、伊賀FCくノ一はPK戦の末、ジェフユナイテッド千葉レディースに敗れ、優勝した01年大会以来となる決勝進出を逃した。今季限りでの現役引退を表明していた元日本女子代表MF宮本ともみ(33)にとって、これが現役最後の試合となった。

「負けたら泣くのかなと思っていたけど、涙が出てこなくて、すっきりした気持ちで終われた。逆にそんな自分にビックリです」。0-1の後半24分に自ら同点ゴール。「点を決めたい思いは強くあった。最後の試合になったけど、そこで得点を決められたのは神様がくれたプレゼントなのかなと思う」。試合は1-1のまま90分を終了。延長戦でも決着が付かず、PK戦にもつれ込んだ。

 重圧のかかる一人目を務めた宮本の耳に入ってきたのは、スタンドから応援する長男・耀大くん(7)の声だった。「『ママ、がんばれ』って。ここで外したら何を言われるか分からない。心強かったです」。ゴール左隅を狙ったキックはポストをかすめてゴールイン。一時はリードしたが、伊賀は4人目、5人目が連続失敗し、準決勝敗退とともに宮本の引退が決まった。

「PKを外しちゃった子が責任を感じなくていいのに、終わったあとはみんなシーンとしていたので、明るく声をかけました。こういう大きな舞台でここまで来れたことに自信を持って、どんどん成長してほしい」

 99年、03年の女子W杯に出場し、04年のアテネ五輪メンバーにも唯一の既婚者として参加した。05年に長男を出産。産休・育休をへて06年に現役復帰を果たすと、日本女子代表にも復帰。初の「ママさん代表」として07年の女子W杯にも出場した。

 97年に伊賀の前身であるプリマハムに入団してから16年間。産休・育休により選手登録されなかった05年を除く15シーズン、ピッチの上で常に全力でプレーしてきた。「代表に選ばれたり、優勝したりもしたけど、そういう記録より今まで出会った仲間が財産。ずっと大切にしたい」と話す宮本は「出産してなかったら、こんな年齢までサッカーをやってなかった」と笑う。「いろんな人を振り回したけど、こんなにまでやらせてもらえて、家族に感謝しています」と語った。

 宮本以降、出産後も現役に戻る選手はいない。「『出産してもやった方がいいよ』というのは全然なくて、選択肢ができたというだけで十分。出産してもやりたいなら全力でアドバイスしたいけど、やり切ってからでもいいと思う」。率直な思いを語ると、周囲やリーグのサポートの重要性を説いた。

「サッカーは個人競技ではなく、団体競技なので、チームに合わせるのが大変だった。そこの理解や、周りが協力してあげようという雰囲気があったら、ありがたかったかなと思う。例えばベビーシッターをリーグが手配したりしたら、『なでしこリーグはすごいな』ってなると思う。サッカー以外でも、仕事を持っているお母さんはたくさんいる。そういう最先端をサッカーから発信できたら素敵なことだと思う」

 最後までさわやかに現役生活に幕を閉じた。「いつもと同じ感じで、自分がサッカーを辞めることに実感が持てない」。試合後はスタンドで見守った家族に会い、耀大くんは「『もう辞めちゃうの?』って駄々をこねていた」という。今後は未定。「サッカーを通して成長させてもらった。恩返しできたらと思う」。前例のなかった出産後の現役復帰。時代を切り開いた宮本は笑顔でスパイクを脱いだ。

(取材・文 西山紘平)

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