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「10歳は年を取った」 ザッケローニ監督会見要旨

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[6.4 W杯アジア最終予選 日本1-1オーストラリア 埼玉]

 W杯アジア最終予選が4日、各地で行われ、日本代表は埼玉スタジアムでオーストラリア代表と対戦した。引き分け以上で5大会連続のW杯出場が決まる一戦。後半36分にまさかの先制点を許したが、後半ロスタイムにMF本田圭佑が同点PKを決め、1-1で引き分けた。6万2172人の大観衆の前で史上初めてホームでW杯出場を決め、開催国のブラジルを除けば、世界最速でのW杯出場権獲得となった。

以下、試合後のザッケローニ監督会見要旨

アルベルト・ザッケローニ監督
(報道陣の拍手で迎えられ)
「ありがとう(日本語で)。ジャージで申し訳ありません。ちょっと事情がありまして(笑)。

 率直な今の気持ちから言うと、ハッキリ言って10歳は年を取ったかなと思う。それでも非常にうれしい。今日はチームの内容もよかったと思う。主導権を握ろう、勝ちに行こうという気持ちで戦ってくれた。相手がオーストラリアということで、国際経験があり、フィジカルが強く、アジアでもトップレベルの実力を持っている相手にそれだけのことができた。

 とはいえ、なかなか簡単にはいかず、相手が引いてきて、ブロックをつくってくる中で、なかなかスペースを見つけられず、スペースを見つけても相手のフィジカルに押される場面があった。前半の25分まではうちのペースで、チャンスも演出できていた。ただ、そこで決め切れないと、ゴールに結び付けないと、オーストラリアのような強い相手にはピンチを招く展開になる。

 本田が少しペースが落ちてきたところで交代のカードも考えたが、そこで空中戦も考えて、彼を外さないチョイスを選んだ。栗原というチョイスをして、香川をトップ下に持ってきて、長友を1個前に上げて、彼のスピードを生かそうと思った。そこで走力のバロメーターがプラスになり、攻撃力も上がったと思う。それでも、終了間際に偶然に近い形でゴールを奪われ、個人的にはほぼ偶然のゴールと思っているが、リードされてしまった。それでもチームとしてあきらめず、サポーターの後押しもあり、相手陣内に押し込んだまま迫力ある攻撃ができた。それがああいう形で同点につながったと思う。この試合、負けで終わっていれば、それは偽りの結果だったと思う」

―後半はカウンターを受けるシーンが減ったが、ハーフタイムの指示は?
「ハーフタイムにそうなったらDFラインを下げて対応しようと具体的な指示を出した。後ろをフィジカルの強いメンバーで固めて、前に当てるカウンターの形が彼らの狙いだった。DFラインには必ずSBのどちらかが残って、CB2人と3枚でリスクマネジメントするように指示を出した。あとはビルドアップのところで不用意なパスをするな、慎重に行けと指示を出した」

―個人的なキャリアにおいて代表でこうした結果を出したことにどんな意味があるか? 本田はどんな意味でチームに違いをもたらす選手か?
「本田についてだが、彼は2つのクオリティーを兼ね備えている。一つは強いパーソナリティーを持っている選手で、もう一つは日本人離れしたフィジカルの強さ。そこでボールが収まることが他とは違うクオリティーなのかなと思う。間違えていなければ、去年の11月を最後に、彼は今日まで90分間やっていないと思う。

 監督としてW杯に参加する意味についてだが、日本に呼ばれたのはW杯に出場するためで、今日それが決められた、ただそれだけ。セリエAでも長い経験があるし、UEFA杯、CLとたくさんの試合を経験した。アジア杯にも参加できたし、これからコンフェデレーションズ杯にも出場するし、あとは南米選手権にも出場する可能性があった。W杯だけが足りなかったので、よかった。あとは欧州選手権だけです。ただ、参加するだけでは満足できない。コンフェデレーションズ杯、W杯と、参加するだけにとどまらず、そこでいい思いをしたいし、そのためにまた向上心を持ってやっていくだけだと思う」

―次の目標はコンフェデレーションズ杯になるが、同じグループにイタリアがいるが?
「まずはコンフェデレーションズ杯に行く前に、まだW杯予選があと1試合残っている。当然、そこも大切に戦っていきたい。考えないといけないのは、これから20日間ほど選手と一緒に入れる。理想としている姿がどこにあるか、現実がどこにあるか、個人的には把握している。理想としている姿に向けて、課題の修正なり向上なりをしていかないといけない」

―就任して3年近くになるが、一番苦しかった時期は?
「考えたくないですね(苦笑)。とても快適に、いい生活を送れている。日本代表をやったあとにどこの国にいこうか、そういう言葉が出てくる。当然、プロの世界だから次に何が起こるか分からないが、日本の長所や素晴らしいところを知って、他のところに目を向けるのは難しい。試合が終わって、ピッチを一周しているときに、実はスタッフとそういう話をしていて、これだけのサポーターに囲まれている風景を考えると、ちょっと次は難しいなと思う」

―アジア予選の戦いでチームはどう成長したか? 監督自身はどう変わったか?
「チームのベースについては、運よく就任してからすぐにアジア杯があったので、そこである程度のベースを築けたと思う。当時は2010年のW杯で結果を残したメンバーがいて、その前のW杯予選でも活躍したベテランと呼ばれる一つ前のグループがあった。世代交代を図ったのがアジア杯で、それは難しい作業だった。そのころから比べると、縦に付けられるボールが増えたし、相手を飛ばすパスも増えた。SBの使い方にもある程度の整理が付いたと思う。チャンスもより演出できるようになっているし、相手にチャンスをつくらせない中でチャンスをつくるというバランス力が上がったと思う。ここ数日、スタッフとも話をして、就任してからの結果は、今日を入れて62得点17失点。17失点はほとんど形が決まっていて、3つがオウンゴール。今日も似たような形だった。あとはカウンターを食らっていることが多くて、数的優位な状況ながらカウンターで失点している。ただ、冷静にその数字を見ると、ひとえに得点を多く取って、失点の少ないバランスの取れたチームだと思う。これだけチャンスをつくっている中で、決定力、ゴールの確率を上げることは今後の課題だと思っている」

―日本には「しまった」という言葉があるが、選手を代えた直後に失点したときの心境は?
「そこを見るよりも、交代のカードを切ってからチャンスを演出したと考えている。『しまった』という言葉は使ったが、チャンスを外してしまったときに『しまった』と心の中でつぶやいた。そのチャンスのシーンというのは、交代してすぐに長友が裏に抜けてゴールに向かって行き、中で本田がフリーで待っていたシーン」

―合流から日数のなかった本田と岡崎を先発起用したが、多少無理をしても使う必要があるという判断だったのか?
「チームというのは、さまざまな選手の特徴を組み合わせてつくっていくもの。クロスがうまい選手もいれば、パスを付けるのがうまい選手もいれば、ラストパスを出すのがうまい選手もいれば、ゴールに向かうのが得意な選手もいる。本田はうちのトップ下の選手だが、彼が何が違うかというと、前のところでキープできる特徴を持っている。今日の相手はオーストラリアということで、フィジカルの強い相手だった。岡崎に関しては、ザックジャパンの得点王でもあるし、岡崎の場合は疲れているように見えてもゴールに向かえる選手。このチームで一番ゴールに向かうのが多い選手だと思う。岡崎に代えて投入したのは清武だが、その理由は清武のことが大好きだから。代表チームということもあって、集まれる機会も限られる。クラブチームと違って、選手をいじりづらい状況というのはある。交代のカードを3枚切ったが、入った3人は本当によくやってくれたと思っている」

―長友が左足でクロスを上げる場面がブルガリア戦に続いてほとんどなかったが?
「長友の抱えている問題は、合流する前に1か月半ぐらい練習ができていなかったところ。ただ、コンフェデレーションズ杯に行くまでに約10日ある。この10日間で彼のフィジカルコンディションを上げるためにスタッフで仕事をしようと思う。今晩もよく走ってくれたと思う。コンフェデレーションズ杯までに、長友も本田も、シュツットガルトであまり試合に出ていない岡崎もフィジカルコンディションを上げるべきだと思うが、10日間ほど時間がある。一番大変だったのは今日で、合流までに長いフライトもあった。それでもみんな自分たちの仕事をまっとうしてくれた」

―守備陣の評価は? 特にケーヒルを抑えた今野については?
「みんなよくやってくれたが、今野はケーヒルのマークという一番難しい役割を担っていた。ケーヒルは素晴らしい選手で、彼のこれまでの実績は説明する必要もないだろう。そこを抑えてくれた。みんなよくがんばっていたし、途中から入った栗原もいい出来だったが、その中でも今野は見事な仕事をしてくれた」

―試合前に選手にかけた言葉は?
「これまでの戦いや順位表を見れば、自分たちがアジアのNo.1だ。今日の相手は強くて難しい試合だが、自分たちの実力を見せつけて、アジアでNo.1であることをピッチで証明しようと話した」

―W杯までの1年で新しいことに取り組むのか? それとも精度を高めるのか?
「その前に言いたいのは、チーム全体でいかなるときも向上心を持って、成長していく気持ちを持つことが大事。向上心を持っていれば、もし成長できなかったとしても現状はキープできるが、現状をキープしようと思うと、右肩下がりになる。具体的に成長とは何か。チーム力のクオリティーを高めるために、より力のある選手をチームに連れてくることもそうだし、チームとしてのスピード、プレーの精度を高めることも成長。また、新しいことを試す、オプションを増やすことも成長の一つだと思う」

―3年前に日本に来てサプライズだったことは?
「2013年6月4日の午後10時50分になるが、この3年間でサプライズだったことを挙げていったら、2014年のW杯になっても終わらない(笑)」

―オジェック監督は引き分けでも気分がよさそうだった。アンラッキーな失点とPKという2つの現象をどう表現するか?
「これまでたくさんの試合をしてきたが、今日のような2つのエピソードが立て続けに起こった試合は正直言って、覚えていない。オジェック監督が気分がよさそうだったというのはうなずける。彼らは残り2試合、ホームでやれる。今日の試合は負けるリスクもあった。80分に先制して、追いつかれた時間帯は悔やんだかもしれないが、試合が終わって、試合内容と照らし合わせて、引き分けでもOKと思ったのではないか。過去のオーストラリア戦を振り返ると、2つの風景がフラッシュバックする。一つは李忠成が素晴らしいゴールを決めたアジア杯。もう一つはブリスベンでの最終予選で、ないPKを取られたこと。あのPKがなければ、もう少し早く(W杯出場を)決められたと思う」

(取材・文 西山紘平)

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