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日韓戦直前特別企画(前編)「対日本不敗の英雄、ホン・ミョンボ韓国代表新監督」

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 6月24日、韓国の国民的英雄であり、現役時代はベルマーレ平塚(現湘南ベルマーレ)と柏レイソルでも活躍、日本でもいまだ高い人気を誇るホン・ミョンボが代表新監督に就任した。ブラジルW杯まで1年を切ったこの時期に、韓国は若きカリスマにすべてを託した。

 7月28日に控えた2年ぶりとなる日韓戦を前に、韓国サッカー事情に精通し、ホン・ミョンボ監督と親交のある慎武宏氏にインタビューを敢行。前編は監督・ホン・ミョンボと新生・韓国の実情を伺った。


 東アジア杯に国内組で臨むことになった日本代表。初戦の中国戦(3-3)では、柿谷曜一朗(C大阪)と工藤壮人(柏)、続くオーストラリア戦(3-2)では大迫勇也(鹿島)といったロンドン五輪落選組が活躍を見せた。奇しくも韓国代表も日本と同じくロンドン五輪落選組が中心になっているという。

「今回のメンバーは、“ロンドン落選世代”です。ミョンボが初めて監督を務めたのが、09年のU-20W杯。大会でベスト8入りしたメンバーをベースにロンドン五輪のチームをつくっていくのですが、昨年のロンドン五輪本番では登録メンバーは18名でしたし、オーバーエイジの選手もいたので呼べなかった選手がいます。チョ・ヨンチョル(大宮)やキム・ミヌ(鳥栖)がそうです。彼らJリーグ組が今回のチームの中心になると思います。

 現在、日本で60人近い韓国人選手がプレーしていますが、全員が成功しているわけではありません。高校時代に将来を嘱望された選手が日本に来て、伸び悩んで戻っていくケースもあります。ミョンボも悪い意味ではなく『日本でコンビニ弁当を食べながらプレーしているなら、韓国の宿舎で栄養価のとれた食事を摂ったほうがいい』という旨の発言をしています。韓国でも日本と同じように、海外サッカーといえばヨーロッパ。日本でKリーグの結果が報じられないように、韓国でJリーグの試合結果にスポットライトが当てられることはありません。現在、韓国でプレーしている元鹿島の増田誓志(蔚山現代)は、記者が選ぶシーズン上半期のアジア枠ナンバーワン選手に選ばれました。主力が抜けた蔚山が上位争いできているのは、増田の活躍が大きい。2位は元浦和のエスクデロ・セルヒオ(FCソウル)。韓国ではものすごく評価が高いですけど、日本では知られていないですよね。

 Jリーグでプレーしている韓国人選手はみんな『俺たちがどれだけ苦労しているかわかっていない』という不満を持っています。言葉も文化も違う中でプレーしているわけですから、彼らはすごい努力をしているのにも関わらず、韓国の論調は『Jリーグよりヨーロッパでプレーしろ』という一方的なもの。それに対して『一度見に来てから判断してほしい』とキム・ミヌは語っています。チョ・ヨンチョルも、キム・ミヌも、目標はヨーロッパでプレーすることではなく、『Jリーグで韓国代表に選ばれる』こと。Jリーグはレベルが低いと思われている一方、実際はJリーグでプレーしている選手が韓国代表の中心になっているという現実があります。自分たちの実力を認めさせる意味でも、Jリーグ組の東アジア杯に対するモチベーションは高いです」

 欧州組を呼ばずに国内と日本、中国のリーグに所属する選手で構成された“ミョンボコリア”。国内組で注目すべき選手を挙げてもらった。

「国内の選手だとセンターバックのホン・ジョンホ(済州ユナイテッド)。ロンドン五輪にはケガで出られなかったのですが、ホン・ミョンボ監督が現役のときにセンターバックだったこともあって、下の世代のときから信頼は厚いです。日本のサポーターには初見に近いかもしれません。

 攻撃の選手でいうとブラジルW杯の予選でも代表に入っていた2m近いセンターフォワードのキム・シヌク(蔚山現代)、久しぶりに代表に復帰した左サイドのヨム・ギフン(警察蹴球団)には注目しています。司令塔といえるのは、ハ・デソン(FCソウル)。今大会では10番を背負い、キャプテンも務めています」

 09年U-20W杯でベスト8、12年ロンドン五輪では銅メダルを獲得し、監督として申し分のない実績を誇るホン・ミョンボは、一体どのようなサッカーで日本と対峙するのだろうか?

「システムは4-2-3-1がベースになると思います。U-20やU-23のときもやっていたサッカーはディフェンシブ。まず守備ありきで、負けないサッカーをします(※編集部注:東アジア杯では2戦とも0-0で引き分けた)。以前『攻めと守りどちらが簡単ですか?』と聞いたときに、『守るほうが簡単だろ。11人が守ったらなかなか点をとられない』と答えていましたし、『イタリアのサッカーが理想』と言うくらいですから。

 選手交代が上手いとか、あっと驚くシステムを採用するという監督ではないですね。策士というよりは、モチベーターです。選手が学生の頃に、W杯で活躍したスター選手がホン・ミョンボ。『お前は何で俺の言うことをきかないんだ!』と育てられてきた選手が、国民的スターに敬語で話しかけられるんです。『みなさん、大丈夫ですか?』とミーティングが始まるそうです。それなのに、普段はカリスマ性があって、近寄り難い雰囲気を出している。選手は『監督にためにやらないと!』という気持ちになるそうです。

 ミョンボが監督になってからの変化は、以前は選手が合宿に来るときはそれぞれ私服で、ある意味ファッションショーみたいになっていたのを一切禁止にして、スーツ着用を義務付けたこと。さらに、宿舎の手前でクルマから降りさせて、選手を歩かせるようにしたんです。歩いている間に、代表選手としての覚悟を持って合宿に臨めと。現役のときからクレバーな反面、『俺はチームのために命を懸けるから、お前も懸けろ』というアツい一面を持っています。何よりもチームを大事にしていて、共通の価値観をつくるのが上手いですね。就任会見で掲げたスローガン、“ワンチーム、ワンスピリット、ワンゴール”(One Team、One Spirit、One Goal)に表れています」

 選手として、コーチとして、監督として、主要な大会で対峙したときは、一度も日本に負けていないホン・ミョンボ。昨年のロンドン五輪3位決定戦でホン・ミョンボ監督率いるU-23韓国代表に敗れた齋藤学(横浜FM)、山口蛍 (C大阪)、扇原貴宏 (C大阪)、徳永悠平 (F東京)、鈴木大輔 (柏)、権田修一 (F東京)にとってはリベンジマッチともいえる一戦で、宿敵をくだして東アジア杯初優勝を飾ることはできるのか。運命の日韓戦は、28日20時にキックオフを迎える。

★後編では日韓戦の歴史を振り返ります。


◆プロフィール◆
慎武宏(シン・ムガン)
1971年東京都台東区生まれ。スポーツライター。在日コリアン3世として生まれ、東京朝鮮第五初中級学校、東京朝鮮中高級学校を経て、和光大学人文学部文学科卒。2003年、『ヒディンク・コリアの真実』でミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。最新刊に『増補版 祖国と母国とフットボール』、監訳書に『信じるチカラ』(朴智星著)などがある。

韓国サッカー協会ホームページ日本語版 
http://www.kfa.or.kr/

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