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ベスト11初選出の森重「キャプテンという立場が自分を変えた」

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 2013シーズン、FC東京のキャプテンを務めたDF森重真人はJリーグのベストイレブンにも初選出され、7月の東アジア杯以降は日本代表にも定着した。ランコ・ポポヴィッチ監督体制2年目のシーズンは8位で終えたが、22日には天皇杯準々決勝も控える。今季限りで退任する指揮官へタイトルという形で恩返しがしたいと話す森重をゲキサカが独占インタビュー。今シーズンを振り返り、天皇杯、そして来年のブラジルW杯に向けた決意を聞いた。

―今シーズンのFC東京は浮き沈みの激しいシーズンでした。
「自分としても『勝ち切れた』と思えるシーズンではありませんでした。いいときには内容も結果も付いてきましたが、いい内容の試合をしても勝ち点を落とす試合も多かったなという印象があります。『すごくもったいなかった』というのが、今シーズンを振り返ったときの印象としてはあります」

―最後のところで点を取り切れない、あるいはやられてしまう。どちらをより課題として感じていますか?
「いいときに失点するというほうが、やっぱり印象には残っています。もちろん、攻撃に人数をかけて、重点を置いているので、どうしてもカウンターは怖いんですが、それを差し引いても、攻撃に主体に置いているチームとしては、まずは攻撃をしっかりやることが重要だと思います。その中で、奪われたときの切り替えやリスクマネジメントの部分をもっと高めていかないといけないのかなと思います」

―自分自身のパフォーマンスはいかがでしたか?
「プレー自体はそんなに悪くなかったと思います。DFとしては、失点に絡むというのはしょうがない部分もあります。そこは同じような失点をしないように自分の経験として取り込めばいいと思うので。ただ、嫌な流れになったときや、チームがあまりうまく機能していないときに、『何がダメなのか』ということに気付ける目だったり、能力、頭脳というのを持てるようにならないといけないと思いました。『ここがよくないからこうやって修正しないといけない』というのが試合中に分かる観察力が欲しいというか、すごく難しいことではあるんですが、それを養えたら、試合の中でも悪い流れからいい流れにすぐに持っていけると思うんです。前半が悪くても、みんなでハーフタイムに話し合ったら後半はよくなったというのはよくある話ですけれど、それを前半の途中でも改善できるようになったら、もっと強いチームになるのかなと」

―そういう意識は今年からキャプテンになったことで出てきたものですか?
「キャプテンになったことがすごく影響していると思います。よりチームのことを考えるようになりましたし、試合が終わったあとも『何で今日はダメだったんだろう』とすごく考えるようになりました。試合ごとに修正していくことができるようになると、今度はそれを試合中にできないかなと、次の欲が出てきました。キャプテンという立場が、自分をそういうふうに変えてくれたんだと思います」

―キャプテンになって、いい経験ができている。
「今までは8割から9割ぐらいは自分のプレーのことを考えていました。でも、自分だけがよくてもチームは勝てない。チームとしてどう勝ちにつなげられるかというのをすごく考えるようになりました」

―今ではチームのことを考える部分のほうが大きくなったんですか?
「そうすると今度は自分のパフォーマンスが落ちていくので、そこのバランスはすごく難しかったですね。まずは自分というのをしっかり持って、自分がいいパフォーマンスをすることを考えて、それでもチームのことも考える。7割は自分のことを考えて、3割がチームだけれど、そこを4割にしてみるというか、全部で『10』じゃなくて『11』にしてみる。自分の容量を超えた感じにしてみたり、いろいろと工夫をしました」

―リーダーシップという意味で意識していることはありますか?
「リーダーシップというのは、どうしても日本人には難しいところがあります。昔はチームに一人、リーダー的存在がいて、そのリーダーを頼りにするという感じだったと思いますが、今の東京はみんながキャプテンというか、一人ひとりがそういう能力を身に付けていったり、そういう選手が増えてきたりすればいいのかなと思いますし、だれか一人がリーダーシップを発揮するのではなく、そういう選手がチームの中に何人もいる集団というのが強いチームなのかなと思っています」

―日本代表のキャプテンは長谷部誠選手ですが、DF陣にリーダーがいないとも言われています。
「後ろの選手には重要な役割があると思いますし、全体が見える中で、気付いたことは試合中もチームに還元していく必要があります。自分自身もそういうタイプではないんですが、そういうタイプがどうしても必要になってくると思いますし、自分自身、そこを変えていかないといけないと思っています。もっとサッカーのことを知りたいという欲がどんどん出てきているので、そういう熱気というか熱い気持ちやパワーが後ろから伝わっていければ、チームも活性化して、強い集団になると思います」

―このリーダーシップを発揮するプレイヤーにふさわしい『NIKE TIEMPO』に新しく変更したそうですが、履き心地はいかがですか?
「フィット感をすごく大事にしていますし、隙間なく自分の足にフィットするスパイクが好きなんですが、そういう意味でも今回の『TIEMPO LEGEND V』はとても気に入っています」

―繊細なボールタッチを実現するというコンセプトのスパイクですが、ビルドアップやフィードを持ち味とする森重選手のプレースタイルにもマッチしていますか?
「キックの感触はとてもいいですね。蹴ったときの感覚で『今のは当たりが悪かったな』とか『次はこうやって蹴ってみよう』とか考えることができます。そういう細かいボールタッチが直接、足に伝わってくるので、その部分の修正もすごくしやすいですね」

―今季限りで退任するポポビッチ監督はどんな監督でしたか?
「自分にないものを教えてくれた監督だと思っています。監督もDF出身で、ヨーロッパでプレーしていたので、自分にない感覚だったり、ヨーロッパのサッカーというのを教わったのかなと。守備をしていて、自分にない感覚を言われたときには『何でそうなんだろう』と思いますけれど、いろいろと考えていくうちに『よりレベルの高いところに行ったときにはそうしないといけないのかな』と思えたこともありました。自分に足りないものをハッキリと言ってくれる監督だったので、自分をすごく成長させてくれた監督だと感謝しています」

―今までになかったような感覚というのは?
「練習中からDFラインに対して『とにかく下がるな』とよく言うんですが、DFとしてはどうしても裏をやられたくないので、下がってしまうというか、『ミドルぐらいなら打たせてもいいかな』という気持ちになってしまうんです。でも、『そのミドルを打たせる隙も与えるな』と。自分の前で相手に時間やスペースを与えるべきではないというのは分かっているんですが、『今のシチュエーションならしょうがないよな』というときでも『下がるな』と言われます。CB同士で『今は下がるしかないよな』と話していても、それでもやっぱりスペースを与えてはいけないのかなと、そういう風に考えるようになりました」

―天皇杯はポポヴィッチ監督と戦う最後の大会になります。
「どうしてもタイトルを獲って終わりたいですし、ポポヴィッチ監督になってからタイトルを獲っていないので、自分としては形に残るもので恩返しができればいいなと思っています。それはもう天皇杯しかないので、そこは絶対に獲りたいなと思っています」

―7月の東アジア杯以降は日本代表にも定着しました。先月のベルギー戦はフル出場も果たし、世界を知る絶好の機会になったのではないですか?
「第一印象としては『全然できるな』というのが自分の中であります。ああいう試合をもっともっと経験したいと思いましたし、(吉田)麻也はプレミアリーグで同じようなレベルの高い相手と毎試合やっているわけですから、それはすごくうらやましいなと思いましたね」

―10月の東欧遠征では固定されていた先発メンバーがオランダ戦で大きく入れ替わりました。チームに刺激や競争が生まれたと思いますが、いわゆる控え組の一員としてどう感じましたか?
「自分も含めて、チャンスが来てほしいと思っていましたし、常に準備はしていました。だから、急にスタメンと言われても、最初はドキッとしたと思いますけれど、すぐに『やってやるぞ』という気持ちになったと思います。チャンスをもらって、そこで結果を出したいという気持ちがみんな強かったと思いますし、チームとしても、それがいい方向に向かいつつあるのかなと。そうやって刺激し合える、チーム内で競争し合えるチームになっていけば、もっともっとよくなると思います」

―オランダ戦では、ウォーミングアップ中にサポーターがスタンドに批判的な横断幕を掲げました。チーム内でも危機感は感じていましたか?
「セルビア戦、ベラルーシ戦が終わったあとは、みんなが『このままではまずい』と思いましたし、次に結果を残さなかったら、周りが何を言い出すか分からないと思っていました。オランダ、ベルギーという強豪国に対して、きっと周りは『負けるだろうな』と思っていたと思いますが、そういうプレッシャー、いい緊張感の中で、自分たちのやるべきことをしっかりできれば、ああいう相手でも倒すことができるんだというのをみんなが分かったと思います。ただ、『相手も本気じゃなかった』というのは、みんなの心の中にあります。1勝1分で終われて、周りはちょっと落ち着くんじゃないかなと思いますし、それはそれでよかったと思いますが、自分たちは満足していませんし、『これでW杯も行けるぞ』という気持ちにもなっていません。ここでもう一度気を引き締めて、次の招集までに、あるいはW杯までに、もっともっと高めていこうという気持ちになっています。そういう意味で、自分たちにとっても、周りの声を沈めるためにも、あの遠征は意味のあるものだったのかなと思います」

―プレッシャーや危機感があるほうがチームはうまくいく部分もあるのでしょうか?
「そういうのは必要だと思いますし、どうしても慣れのようなものが人間には出てきます。そこはある程度のプレッシャーやいい緊張感というのを持っていたほうがいい結果は出せるんじゃないかなと思っています」

―10月のセルビア戦の前に『代表に長くいればいるほど、ベンチでもいいかなとなってしまう。東アジア杯のころのようなギラギラした感じを持っていないといけない』と話していました。
「それはもちろん思っていますし、慣れたら終わりだなと思っています。もちろん仲はいいんですけれど、自分の中では常に今野(泰幸)さんや麻也に変わってピッチに立つぞという気持ちを持ってやっていますし、東アジア杯のときもそういう気持ちがあったからこそ、ああいう結果も出たと思います。それは自分だけじゃなくて、みんな同じだと思います。オランダ戦、ベルギー戦でも、『ここで結果を出してスタメン組に入り込むぞ』という気持ちがあったからこそ、ああいう結果が出たと思うので、そのときの気持ちを忘れちゃいけないですし、そうやってレギュラーを取るために、自分に何が足りなくて、そのために何が必要なのかを考えながら取り組むというのが今はすごく楽しいですし、充実感もあります」

―この半年でW杯までの距離感、思いは変わってきましたか?
「まだ自分自身、『W杯が近づいてきている』とはあまり考えられないですね。現実味がないというか、目標が先すぎるわけではないんですけれど、まだまだ先のことなので。それよりもしっかり目の前のことを一つずつつぶしていくというほうが目標設定の仕方として自分には合っているのかなと思います。目の前の練習、目の前の試合をこなしながら、一つひとつ課題を消化して、もっともっと成長していきたいと思っています」

(取材・文 西山紘平)

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