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[MOM923]広島ユースMF野口翼(3年)_必殺パスの3Aで逆転演出

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[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[12.21 Jユースカップ準決勝 川崎F U-18 3-4(延長)広島ユース 金鳥スタ]

 たった1本のパスで試合をひっくり返した。2点ビハインドの後半9分、広島ユースはMF野口翼(3年)のロングパスでFW諸岡佑輔が抜け出し、反撃の狼煙となるゴールを挙げた。試合は前半45分を川崎F U-18のペースで終え、広島は後半開始直後に追加点を奪われたばかりだった。敗戦が脳裏をよぎっても不思議のない時間帯だったが、野口は密かに相手の急所を狙い続けていた。

「苦しい時間帯が続いていたので、中盤の選手としても、主将としても、自分のストロングポイントであるスルーパスで局面を打開したいと考えていた。苦しい時間に1本のパスで点を取れるとチームに勢いを与えられるので良かったと思う。仲間には『落ち着いて自分たちのサッカーをやろう』と声をかけていたけど、局面では狙うイメージを持っていた。味方や相手の動きを見て常に狙っているし、動き出しが良ければ出せる」

 自他ともに認める最大の武器は、長短自在。相手の隙を逃さずに縦につけるパスはとにかく鋭利だ。1点を返した4分後、野口は再びロングパスで相手の守備ラインを襲った。長距離のパスはコントロールが難しく、少しでも乱れれば味方はトラップに手間がかかる。しかし、野口のパスは前線の選手にとって非常に収めやすい。1年生FW加藤陸次樹は自身をめがけて飛んできたパスを前方へ走りながら受けられると判断すると、後ろ向きの状態からターンをして相手を置き去りにしながら、ちょうどよくスピードの落ちた球をトラップ。GKとの1対1を冷静に決めてみせた。

 絶対不利の試合をわずか2本のパスで振り出しに戻す様は、相手チームにとっては脅威以外の何物でもない。試合は3-3で延長戦にもつれ込んだが、最後に見せたのも野口だった。相手からボールを奪い取ると、前方での諸岡の動き出しを見逃さずに縦パス。これが決勝点のアシストとなった。野口は今季、MF川辺駿やMF宮原和也がプロ契約を交わしてトップチームに合流する中、主将としてユースチームをけん引してきた。その中で強い責任感を身につけた部分も勝負強さとして還元している。試合後には「相手の先制点は、自分のパスミスからだった。チームの中心である自分が相手を勢いに乗せてしまったので、取り返せてほっとしている部分もある」と前半に背負い込んだ責任から解放された安堵の気持ちも言葉にした。

 高校卒業後は、出身地の茨城県を活動拠点としている流通経済大に進学予定だ。この日は流経大サッカー部の大平正軌コーチも視察。タレント性豊富なチームを長く見ている大平コーチだが「野口君? うちに来るんだよ。今日は普段に比べるとミスが多い部分もあったけど、とにかくミスが少なくてサッカーをよく知っている。1年生のときは左のワイドをやっていたけど、突破を仕掛けるタイプではないのでどうなるのかと思って見続けてきた選手。前線にポンと長いパスを通せるし、短くも刻める。メンタルも強くて、今日はミスから失点したけど、最後には自分がボールを取り返して決勝点を演出してみせた。うちでは、即戦力ですよ」とベタ褒めだった。

 野口は「高卒プロを目指していたが、何かが足りなかったのだと捉えている。これまではいろいろなポジションをやってきたけど、大学ではボランチ1本で勝負したいと思っている。試合を組み立てるだけでなく、勝負を決められる選手になりたい。さらにレベルアップをしてプロに進めたらいい」と目指す今後の展望を語った。しかし、その前に最後の仕事が残っている。決戦は2日後の23日。将来の話は、プレミアリーグWESTの覇者であるヴィッセル神戸U-18との決勝戦を制し、自分たちの代で取りたいという全国タイトルを獲得してからだ。広島ユースらしい勝負強さを演出した主将は「(夏の日本)クラブユース選手権は決勝まで行ったけど、負けた。プレミアリーグも取れなかった。最後のJユースはしっかりと全員でトロフィーを掲げて帰ることを目標にしている」とタイトル獲りを宣言した。

(取材・文 平野貴也)
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