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[関東リーグ]開幕前の目標達成を喜ぶファイルフォックスGK石渡良太「相手がフウガだったから」

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[12.28 関東リーグ第18節 フウガすみだ2-4ファイルフォックス 駒沢]

 リーグ開幕前、ファイルフォックスに所属する元日本代表GK石渡良太は、2つの目標を掲げていた。「一つは、地域チャンピオンズリーグの出場権獲得。つまり関東リーグで3位以内に入ること。もう一つは、フウガすみだに一度でいいから勝つこと。去年も2敗していたし、一度は勝ちたいと思っていたんです」。

 ところがオフが明け、チームの活動が再開したとき、石渡は愕然としたという。ファイルフォックスは、過去4度の全日本選手権を誇る、フットサル界の名門中の名門だ。Fリーグが開幕して主力選手が多数抜けたが、その後も地域リーグの中では、最もレベルの高い関東リーグ1部に在籍し続けている。しかし、今季は監督兼選手だった元日本代表のFP難波田治をはじめ、FP三井健(現・府中)、FP荻窪孝、FP曽根直人(ともに現フウガすみだ)、引退したFP北智之と、主力が多数チームを離れた。世代交代を余儀なくされたチームは、とてもリーグで上位を争えるレベルにはなかったという。

 すぐに石渡は、選手兼監督に就任したFP吉成圭に直談判し、しばらくはチームの練習を休ませてもらうように頼んだ。自身を鍛え直すためだった。「これは自分がやらないと、どうにもならないなって。1か月半、チームの練習を休んで、フィジカルトレーニングに取り組みました。とにかく、自分のフィジカルの状態を上げなければいけないと思っていましたね」。

 Fリーガーを含め、日本国内のフットサル選手のほとんどは、プロ選手ではない。生活のために仕事を持ち、空き時間でトレーニングをしている。走り込みや筋力トレーニングで個人のフィジカルを上げようとすれば、どうしてもチーム練習の時間を犠牲にしなければならない。

 元日本代表の肩書を持つ石渡にしても、一時期は仕事のために、いわゆる『現役生活』から離れていた。それでも、チームの成長を待つよりは、自分のフィジカルを可能な限りベストの時期に戻した方が、リーグ戦の結果につながると考えたのだ。それくらい、シーズン開幕当初のファイルフォックスは、危うい状態だった。

「でも、それが終わってみれば、『個人的に過去最高』と言えるくらいの結果になりました。目標が達成できたシーズンは珍しいというか、目標って高く掲げるし、『8割できれば成功』っていうくらいじゃないですか? それが今年は完璧に目標を達成できましたからね」

 28日に行われた、関東リーグの最終節。ファイルフォックスは、リーグ優勝を決めていたフウガすみだと対戦した。結果は、4-2でファイルフォックスの勝利。過去2年間、関東リーグで無敗だったフウガすみだに土を付けたファイルフォックスは、2位でシーズンを終え、地域チャンピオンズリーグの出場権を獲得した。

 後半から出場した石渡は、際どいコースに飛んでくるフウガすみだのシュートに、ことごとく反応する。さらに自身は「年の功」と笑ったが、その精度の高い長短のスローは攻撃の起点になっただけでなく、相手選手を押し下げるという意味でも、重要な役割を担っていた。

 フウガすみだ戦は、1シーズンでチームが大きく成長したことを示す一戦だったが、同時に石渡は、相手のおかげであることを強調する。「これだけの内容の試合ができたのは、相手がフウガだったからでしょ。中途半端じゃない相手だったから、徹底できたんだと思う。もう、それしかない」と言い、「また、地域チャンピオンズリーグか、日本選手権の予選か、どこかで当たると思うけど、そのときは難しくなりますね。今日、勝っちゃったから」と、笑った。

 この先に控えている上記2つの全国大会に向けても、石渡は高いモチベーションを持っている。現在はフットサルを主戦場にしている石渡だが、来季以降はロービジョンフットサルという異なる競技に転向する予定だからだ。

「以前はブラインドサッカーって呼ばれていて、目の見えない人のサッカーというとわかりやすいかもしれません。でも、あまり知られていませんが、どっちもGKは健常者なんです。その日本代表を強化したいということで、声を掛けてもらって。実は今も選手兼コーチをやっているんです。2015年5月に世界大会があって、そこで結果を出すために頑張ろうと。やり甲斐はありますよ。今年4月に宮城で行われた世界大会では、ウクライナに0-22、ロシアに0-14、イングランドに0-10でしたからね。僕にとっても、すごくちょうどいいんです。まだ動けるけど、こっち(フットサル)は『もういいかな』という気持ちもあるんでね」

 ツイッターのユーザー名を『生涯挑戦者 石渡良太』としている37歳の戦いは、まだまだ続く。

(取材・文 河合拓)

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