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[選手権]「優勝以外は無意味」戦後最多タイの6度目Vへ、市立船橋が苦しみながらも初戦突破

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[1.2 全国高校選手権2回戦 中津東0-1市立船橋 フクアリ]

 第92回全国高校サッカー選手権は2日、2回戦を行い、フクダ電子アリーナ(千葉)の第1試合では戦後最多タイとなる6度目の優勝を狙う市立船橋(千葉)と中津東(大分)が対戦。後半28分にDF山之内裕太(3年)が決めた決勝FKによって市立船橋が1-0で勝利した。市立船橋は3日の3回戦で水戸啓明(茨城)と戦う。

 市船のノルマは優勝だけ――。2年ぶり、そして6回目の優勝を狙う名門は中津東の好守の前にとても苦しんだ。ただ試合前に見たOBのJリーガーたちからのビデオメッセージで「市船が選手権で何をやらなければならないか」を感じ取っていたイレブンは終盤の決勝点によって1-0で勝利。目標へまず第一歩を踏み出した。

 決勝FKを決めた山之内は「OBのことばで印象に残っているのは小川佳純選手(名古屋)の『優勝以外は(全部)無意味』。それが印象に残っています。プレッシャーはありますけれど、自分も準優勝とかは意味はないと思う」と語り、主将の日本高校選抜CB磐瀬剛主将(3年、京都サンガF.C.内定)は「(OBのことばで)印象に残っているのは佳純さんの『優勝以外は全部無意味』。自分もそれは強く思うことで、それができなかったら初戦敗退も、2位も一緒だと思っている。自分たちが歴史に残るとか、そういうことを考えると1位しかない。それだけを狙って行きたい」と力を込める。OB、関係者、地域……全国のどのチームよりも勝つことを求められる市船。普段、コーチングスタッフから繰り返し掛けられていた言葉はOBたちのそれと変わらなかった。今大会、磐瀬が「どんなに内容が良くても負けたら次に進めない。内容が悪くても勝つ」と語ったように、勝ち続けることだけを目指していく。

 有力校がひとつ、ふたつと姿を消す中、苦しみながらも勝ち切ったことはさすがだった。中津東は試合開始からエースFW石田雅俊(3年、京都サンガF.C.内定)ら市立船橋のストロングポイントである2列目の選手たちをマンマーク。松田雄一監督は「縦パスでそこから起点になるところを潰さないといけない。縦パスに対するプレッシャーとアプローチというところを徹底して話をしてきました」と説明したが、中津東は縦パスをしっかりと弾きながら中盤でも相手との距離を上手く保ってスペースを与えない。全体的に動きがなく、なかなかパスコースをつくれない市立船橋はオープンスペースへロングボールを蹴り入れてそのセカンドボールから攻撃を展開しようとするが、攻撃は単調。スイーパー気味の位置で的確なカバーリングを見せるCB榎木祥之主将(3年)や局面でしっかりと身体を当ててくる中津東守備陣を攻略することができない。

 市立船橋のファーストシュートは前半24分に石田が放った右足FK。今年の持ち味でもあるダイレクトのパスワークは全く発揮することができず、ロングフィードにもミスが出た。その中で非常に落ち着いたプレーを見せていたCB柴戸海(3年)が時折ドリブルで相手を剥がして一気に前進していたが、得点機と呼べるシーンは40分に左サイドのMF藤井拓(2年)からのパスを受けた室伏がターンから右足を振りぬいた場面くらい。「(13,059人の観衆で)予想以上にお客さんも多かった」(磐瀬)と緊張もあって動きにキレのないチームは非常に苦しい前半となった。

 逆に中津東は前半25分にMF赤岩郁弥(3年)とのワンツーからFW楢崎颯晟(3年)が右足を振りぬき、37分には素早いショートコーナーから惜しいクロスを入れてくる。そしてアディショナルタイム突入後の41分にはショートカウンターから左サイドを突いた楢崎が絶妙なラストパス。これに飛び込んできたMF杉園恭平(3年)が決定的な形で合わせた。市立船橋はDFが何とかクリアしたが、それでも中津東はプラン通りの0-0ターン。指揮官が「いつ取られるかなと思ったけれど、生徒たちがよくやってくれた」と振り返ったとおり、守備面での集中力が素晴らしく、また、攻撃面でもチャンスをつくって優勝候補を十分に苦しめていた。

 後半も中津東は集中力高く、よく戦っていた。だが市立船橋も少しずつではあったものの、長い距離のランニングなど前へのパワーや連動した攻撃が出てくる。12分にはFW矢村健(1年)のキープから室伏がダイレクトで左中間の石田へパス。これを石田が右足ダイレクトでループシュートを放つ。さらに“切り札”FW横前裕大(3年)投入後の16分には山之内のループパスから、DFの足が届かないように大きくターンした石田が強烈な右足シュートへ持ち込んだ。
 
 中津東は県予選5試合で10ゴールをたたき出している2年生エースFW山本隼斗が力強いキープを見せ、左サイドで赤岩が攻撃力を発揮。22分には楢崎が縦パスで抜け出しかけるが、DFが戻る前に放ったシュートはヒットせず。市立船橋の攻撃のテンポも上がらず0-0のまま迎えた28分、セットプレーで試合は動いた。市立船橋はカウンターからドリブルで持ち込んだ室伏がゴール正面右寄りの位置でFKを獲得。セットしたボールの横には石田と山之内が並び、石田がしきりに蹴る仕草を見せていたが、蹴ったのは自ら立候補していたというレフティー、山之内だった。得意の左足シュートは壁の上方を越えると、GKの手を弾いてゴールへと吸い込まれた。冷や汗をかくようなシーンもあったが、後半、相手をシュートゼロに封じた市立船橋が、相手の運動量が落ちた終盤に奪った1点によって1-0で勝った。

 全国高校総体では前評判の非常に高かった流通経済大柏(千葉)との決勝を4-2で制して日本一に輝き、選手権でも全国最激戦区・千葉県予選の決勝で再び流通経済大柏に1-0で勝利。ライバルとの激闘を勝利してきた市立船橋は、先月中旬のプレミアリーグ参入戦も退場者を出して10人で戦った大阪桐蔭戦(プリンスリーグ関西1位)、アルビレックス新潟ユース(プリンスリーグ北信越2位)との試合もいずれも1-0で乗り切った。シーズン当初は終盤の失点で引き分けに持ち込まれるような試合があったが、現在は流れが悪い試合でも勝ち切るチームになっている。

 全国高校総体優勝、プレミアリーグ昇格。今年掲げていた2つの高い目標を実現した市立船橋が、最後にして最大のターゲットである選手権日本一へ向けてまず初戦突破を果たした。朝岡隆蔵監督は苦戦した初戦について特にメンタル面を指摘し、「心のバランスというか、強さと上手さの兼ね合いというか、そこら辺のバランスを欠いたゲームだったかなと。未熟だなと思います。上手いことをやろうかなというところが見えたので、もう少しダイナミックな試合をすることができればなと思います。(自分たちのキレイにつなぐサッカーを)壊していっても良かったと思います。圧力かけていって守備から入っていくプランも持たないといけないし、セカンドボールの攻防で制圧していくこともひとつのパターン。ただ、キレイにできちゃうところもあるので、そこの加減が今年のチームは一番難しい。そうなった(行き詰まった)ときに壊していくゲーム運びができるのかということが問われたゲームだったと思います」と振り返った。

 今後も自分たちをリスペクトして市船の良さを消してくるチームはあるはず。磐瀬は「自分たちを倒してくる作戦を持ってくる。それがほとんどだと思うけれど、それに負けちゃいけない」。相手の心を折るような強烈プレスや華麗なパスワークなど力技と巧みな技を持ち合わせるV候補。この日は相手を圧倒するような強さを見せることができなかったが、それでも負けない強さを見せた。今後も徹底マークされることが予想されるが、その中でも網を突破してただひとつの目標、頂点を勝ち取る。

(取材・文 吉田太郎)
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