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[MOM950]青森山田GK田中雄大(3年)_視覚に聴覚に威圧感与えたPKストップ

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[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[1.2 全国高校選手権2回戦 米子北1-1(PK4-5)青森山田 等々力]

 守護神の気迫が上回った。1-1のままもつれ込んだPK戦。青森山田(青森)のU-18日本代表候補GK田中雄大は勝負どころを抑えていた。互いに3人目まで全員が成功。迎えた先攻・米子北(鳥取)の4人目がエースのFW小川暖(3年)だった。

「自分たちのプランは相手のエースを、小川暖を抑えることだった。80分間の中でエースを完璧に抑えられなかった。ここで自分がエースを止めるんだという強い気持ちで入った」

 右に飛び、小川のキックをしっかりとキャッチ。「小川暖という選手のプレースタイルから性格も予想していた。エースは強いキックで自分の右方向に蹴ってくることが多い。自分の勘を信じた結果だった」。青森山田は5人全員が成功。PK5-4で競り勝った。

 1人目、2人目は逆を突かれていた。助走を長く取り、蹴るまでの“間”を長く取る米子北のキッカー。タイミングをズラし、GKが先に動くのを待とうとする相手に対し、PK戦の最中に修正した。

「ああいう相手に対して自分の足を止めると、体が傾く。足踏みして、自分のリズムを取ってやることを意識した」。ギリギリまで我慢し、助走からコースを読む。「強いボールを蹴ってくると聞いていたけど、意外とGKを見ているのが分かった。3本目からは自分の間合いを信じていこうと思った」。3人目、5人目は決められたが、飛んだコースは合っていた。必然のPKストップだった。

 前回大会でも1回戦の野洲戦、2回戦の修徳戦と2試合連続でチームをPK戦勝利に導いた田中。「去年の選手権も自分を信じてやった」という原点への回帰は、昨夏の全国高校総体での苦い経験も生きていた。全国総体3回戦の流通経済大柏戦は1-1のままPK戦に突入。しかし、1本も止めることができず、PK3-5で敗退した。

「あのときは周りから聞かされたデータとかを考えてやってしまった。本来のプレーをして負けたわけじゃなくて、モヤモヤがあった。今日もPK戦の前にいろいろ言われたけど、1、2本目で逆を突かれて、そこからは自分を信じてやろうと思った」

 静まり返るPK戦の中、唯一、ピッチに響き渡ったのが田中の声だった。「よっしゃ、来ーい!」「さあ、来ーい!」。さらには両手を大きく叩き、「パーン!」という音も響く。「視覚、聴覚、すべてで相手に威圧感を与える。自分が止めなくても、相手が外せばいい。×が付けばいいし、相手が成功する確率を少しでも下げるようにやっている」。大きな声と手を叩く音で相手の聴覚に訴えれば、視覚でも相手にプレッシャーをかけた。

「相手がボールをセットするときは、ゴールマウスの中の一番後ろに立つんです。そのときは小さく見えるけど、相手が助走で下がって顔を上げたときにはゴールライン上に立つ。そうすると大きく見える」。両手も大きく広げて構え、184cmの体を少しでも大きく見せる。ヒントは昨年12月29日に行われた天皇杯準決勝だった。「広島の西川選手がやっているのを見て、自分もやってみようと思った。練習でやってみたら『大きく見える』と言われたので」。PK戦で3本セーブした日本代表GK西川周作の動きを取り入れ、さっそく実戦で生かした。

「PK戦は1本1本ではなく、全部が生き物というか、続いている。自分の中ではPKでも1失点。全部止めるという強い気持ちでやれば、自然と止められると思っている。得意も不得意も、自分の中にはない」。自信に満ち溢れる守護神が、3回戦以降も青森山田のゴールにカギをかける。

(取材・文 西山紘平)

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