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[選手権]8強で緩んだ夏とは全く違う目標、意識、富山一が4-0快勝で13年ぶりの国立4強!

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[1.5 全国高校選手権 日章学園0-4富山一 駒場]

 第92回全国高校サッカー選手権は5日、準々決勝を行い、富山一(富山)が日章学園(宮崎)に4-0で快勝。00年度以来13年ぶりの4強進出を決めた。富山一は11日に国立競技場で開催される準決勝で四日市中央工(三重)と戦う。
 
 富山一の大塚一朗監督は開口一番「出来過ぎです」と口にした。そして左サイドで存在感を放ったSB竹澤昂樹(3年)も「(自分たちが)成長したというよりも出来過ぎっていうか。誰もがビックリしていて、『オレら強すぎだな』と言っていました」と笑った。国立切符を懸けた準々決勝、今夏の全国高校総体では敗退した舞台で強豪・日章学園に4-0快勝。指揮官、選手たちは「出来過ぎ」と謙遜していたが、ピッチで披露したのは盤石の強さだった。

 膠着した序盤、そこから徐々に主導権を握っていたのは攻守の切り替えの速さや個で差をつける富山一だった。日章学園はボールを奪ったと同時に素早く攻撃に移ろうとしていたが、富山一の選手たちは切り替えの速いポジショニングで相手の攻撃のスピードを殺してしまう。加えて1タッチでのパス交換など連動した攻撃で高い位置までボールを運んでいく富山一は、50m走6秒ジャストのスピードと巧みに逆を取るドリブルが武器のFW渡辺仁史朗(3年)や周りを活かす技巧とフィニッシャーとしての怖さも見せるMF大塚翔主将(3年)、キックで違いをつくる竹澤たちが局面、局面で相手を上回り、日章学園を少しずつ押し込んでいく。

 そして21分、スーパーゴールで富山一が先制する。中盤で互いに縦パスをDFに引っ掛けてしまい、セカンドボールの攻防戦となったが、これを制した富山一は大塚が右サイドへ展開。これを受けたMF西村拓真(2年)が中央へ持ちだしてから左足を振りぬく。「練習通り。決まって良かった」という鮮やかな一撃がGKの指先を越えてゴール左隅ヘ吸い込まれた。

 先制された日章学園は31分、クリアボールを拾ったMF藤堂貴久(2年)が右足ミドル。前半23分に投入されたMFの一撃はGK高橋昂佑(3年)の手を弾いてクロスバーを叩いた。注目の司令塔MF菊池禎晃(3年)中心に攻める日章学園だが、早稲田一男監督が「点を取られて浮足だってしまった」と説明したように、細かいミスが出てなかなかPAまでボールを運べず、逆に富山一は奪ったボールを大塚や渡辺がしっかりと収め攻撃につなげてくる。そして後半6分、富山一は右サイドの渡辺を起点にMF野沢祐弥(3年)がヒールで落としたボールをボランチの位置から飛び出してきたMF細木勇人(3年)が、「細木が入れてくれるんじゃないかなと前から言っていたんですけど、それが実って良かった」という大塚監督の期待に応える左足でのゴールで2-0と突き放した。

 富山一はさらに8分、竹澤がDFラインの背後へ入れたボールを対応した日章学園DFとGKが交錯。これを拾った渡辺がGK不在のゴールヘ右足で流し込んで試合の軸を大きく自分たちへ傾けた。日章学園は15分に菊池の絶妙な左FKをファーサイドのFW村田航一(2年)が折り返すが詰めることができず。それでも全くあきらめる様子を見せない日章学園は19分からは3バックにして攻撃の枚数を増やす。ただ富山一は23分、渡辺の力強いキープから投入直後のMF村井和樹(3年)が左足で決めて4-0とした。この後は意地を見せたい日章学園が攻める時間が続いたが、市立浦和との3回戦で3-0から3-2まで追撃されている富山一は最後まで気を緩めない。個々、そしてチームとして声を出し続けて完封勝利で4強進出を果たした。

 今夏も全国8強へ勝ち上がっている富山一だが、夏とは別の姿を準々決勝で披露した。夏は流通経済大柏(千葉)に0-2で敗戦。竹澤は「ベスト8が決まったという心の隙もあったし、個人的にもちょっと心の隙というか、『ここまで(ベスト8まで)来れた』という思いがあった。最初、流経を目標にしてやってきて流経に負けてもしょうがないというか、勝ちたい思いはあったんですけど(満足してしまっていた)」。8強進出で一息をついてしまい、4強を懸けた戦いの前に自分たちで勢いを止めてしまっていた夏。富山一はサッカー部だけでなく、野球部も夏の甲子園準々決勝で敗退している。大塚は「野球の甲子園も宮崎の延岡学園にベスト8で負けて、別の競技でもその壁は高いなと思いました」と振り返る一方、夏からのチームメートの姿勢について「一人ひとりが日本一というのを毎日口にして、意識が変わったというか、成長したと思います」と自信を見せた。

 チームは決定力の差も示した。シュート数は8対9と1本少なかったが、それでもスコアは4-0。高校年代最高峰のリーグ戦であるプレミアリーグWESTでJクラブユース勢を連破するなどインパクトのある戦いを見せている富山一は、シュートについてこだわりを持って練習してきた。プレミアリーグではどうしても相手にボールを持たれる時間が長い。その中でも「得点を奪われる」という怖さを相手に示さなければならない。打てるチャンスは少ないが、速いスピードでシュートまで持っていき、チームは少ないチャンスをものにして勝つということを実践してきた。相手が時間を与えてくれない中で、1タッチでの崩しなどの精度を高めてきた。そして、この大一番でその成果をしっかりとスコアにつなげた。

 就任2年目の大塚監督は「プレミアで戦っている時の試合巧者ぶりを出してくれた。(前監督で部長の)長峰(俊之)先生がベスト4へ行ったというところで、ボク個人もそこに並びたいなという思いがあったので、次はそれを越えたいなというところです」と語り、竹澤は「日本一を目標にしてやってきた。富一は(過去の大会で)決勝まで行っていない。あと1回勝って決勝へ行って、優勝したいですね」と誓った。改修前「最後の国立」へ駆け上がった富山一。だが、国立へ行ったからと言って満足感は全くない。

(取材・文 吉田太郎)
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