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権田が語るザックジャパンGK3人衆の関係性

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 日本代表の2014年初陣となるニュージーランド戦(3月5日、国立)のメンバーが発表され、FC東京のGK権田修一がGK川島永嗣、GK西川周作とともに選出された。ザックジャパンの常連ながら、試合出場は国内組で臨んだ昨年7月25日の東アジア杯・オーストラリア戦に限られている権田。“第3GK”という一見、困難な立場にも見える24歳のGKはW杯イヤーを迎え、どんな心境でいるのか。ゲキサカが直撃インタビューした。

―いよいよW杯イヤーですが、今はどんな心境ですか?
「オリンピックやアジア杯など、大きな大会はいろいろありますが、サッカー選手にとってW杯は世界で最も大きなイベントです。W杯イヤーというのは4年に一度しかありませんし、今まではそんなに意識したことはなかったんですが、想像以上に意識するものなんだなというのが今の正直な気持ちです」

―それは手の届く位置にあるという実感からでしょうか?
「前回の南アフリカW杯のときは(2010年1月の)イエメン遠征で一度代表に呼んでもらったことはありましたが、ずっと代表チームに選ばれて、代表のやり方も分かっている状態でW杯イヤーを迎えるのは初めてです。手の届くところにあるというより、今までよりは可能性があるかなというぐらいですね。シーズン開幕の最初の2か月ぐらいが勝負だと思います。まずはW杯のメンバーに入ることが大事ですし、しっかりトレーニングをして、今やっていることが、いざ代表に行ったときにつながっていくと思うので、手の届くところにあるというよりは、そこに到達するために、しっかり準備しないといけないという気持ちが強いですね」

―日本代表のGKは川島永嗣選手、西川周作選手、そして権田選手の3人が中心になっていますが、この3人の関係性というのはどんな感じなんですか?
「3人で楽しくリフティングやってます(笑)。それ以外にも林卓人さんや東口(順昭)くんとも一緒にやりましたが、永嗣さん、周作くんと3人でいろんな国にも行きましたし、いろんなチームとも試合をしました。うれしい思いも、悔しい思いもいろいろしましたが、2人ともすごく尊敬できる先輩ですし、今の僕の立場から考えたら、超えていかなくてはならない存在だという意識もあります。最初にリフティングと言いましたけど、やるときは集中してやるし、きつい練習でも盛り上げたり、練習が終わったあとは3人でリフティングをしたり、そういうのも含めて、すごくいいチームができているのかなと思います。僕以外の2人の人間性というのがそういうものをつくり上げている要因だと思いますし、気持ちよくやれていることを僕はすごく感謝しています」

―日本代表では試合に出る機会も少ないですが、そのあたりはどう考えていますか?
「合宿の中での練習や、それまでの所属チームでのパフォーマンスを見て、永嗣さんや周作くんが認められているんだなというのは、自分でも認めている部分はあります。日本代表なので、レベルの高い選手が集まっていますから、普段のチームで試合に出ていても、代表で出られないというのは自分だけでなく、フィールドプレイヤーにもあることです。当然、悔しい思いもありますが、納得というか、受け入れているという言い方のほうが正しいかもしれないですね。それは監督が決めることで、監督が決めたことだから受け入れようというスタンスでいます。そのうえで、『自分だったらこれぐらいできるんだぞ』という見返す気持ちに変えていくしかないのかなと思いますね」

―日本代表とFC東京で、GKに求められていることは違いますか?
「GKは、究極を言ったら点を取られないことが第一なので、点を取られないために、僕は僕の良さ、永嗣さんは永嗣さんの良さ、周作くんは周作くんの良さというのが評価されて、代表にも選ばれているのだと思います。ですから、『代表チームに来たからプレースタイルを変えろ』というのは、特にGKの場合は違うと思いますね。GKにはゴールを守るという一番大きくて、一番シンプルな目的があるので、そのために自分の得意なプレー、自分が所属チームでやっているプレーを代表でも出すことが、チームのためになると思いますし、監督もそれを求めているのかなと思っています。例えば、僕が身長2m以上あって、『背が高いからとりあえず代表に入れておこう』というタイプの選手だったら分からないですが、自分もそこまで大きいほうではないですし、自分の良さというものを監督なり、コーチなりが評価してくれて、呼んでもらっていると思うので、それを発揮したいという気持ちが強いですね」

―自分の良さを分析して、他のGKと違うところはどこだと思いますか?
「僕はゴールマウスにずっと立っていて処理をするというよりは、どんどん前に出ていったり、アグレッシブなタイプのGKかなと個人的には思っています。アグレッシブだけど冷静に判断できるという部分を強みとして持っていたいと思っていますし、そこはまだ冷静に判断できていない部分もあるので、その精度は上げていきたいですね。ゴール前で相手のシュートを止めるというよりも、シュートを打たれる前にクロスボールを取ったり、DFラインの裏に出されたボールに飛び出したり、相手に決定機をつくられる前に自分が防ぐというほうが、自分には合っているのかなと思っています。長所と言えるのかどうかは分からないですけど、タイプで言えば、そういうGKを目指しています」

―川島選手、西川選手についてはどのように見ていますか?
「永嗣さんは海外に行って少し変わった感じがしますね。日本にいるときは、クロスボールにもどんどん出ていくイメージがありましたが、そこの判断というのがすごく洗練されたと思います。気持ちの強さだったり、そういうストロングな部分は昔から変わっていなくて、一言で表すなら『力強い』GKだなと思っています。逆に周作くんは繊細なプレーがすごくうまくて、キャッチング一つを取っても技術の高さを感じますし、足下のビルドアップやキックもすごく精度が高いです。周作くんがどう思っているかは分からないですけど、僕の勝手なイメージでは、繊細で、細かいところにすごく気を使って、しかも笑顔でプレーしているという印象があります(笑)」

―日本代表に入って、価値観など変わった部分はありますか?
「基準は高くなりましたね。僕はオフの時期などに時間があったら、できるだけ海外のチームの練習に行きたいと思っていて、実際に去年もイタリアとドイツに行きました。ずっと同じクラブチームで練習していると、基本的には同じGKしか見れないですよね。でも、代表チームでいろんな選手と一緒に練習することで、それぞれの選手のすごいところが分かって、『こういうところは見習っていこう』と、高いレベルに行けば行くほど、そう思えることがたくさんあります。所属チームに帰ったときも、『今、自分はキャッチしないで弾いたけど、永嗣さんだったらキャッチしていたな』とか、そういう風に考えるようになりましたね」

―これまで海外に行って、印象に残っていることはありますか?
「どこに行っても衝撃を受けるんですが、去年のオフにドイツとイタリアに行ったときは『本当にこれが同じ競技なのか』と思うぐらい練習内容も違うし、考え方も違いました。ドイツは、当てて止めるという感じで、とにかく体のどこを使ってもいいから、“面”をつくってシュートを止めるというイメージですね。体格の大きな選手が多いので、それを前提として、体の大きなGKが効率よくゴールを守るための練習という印象を受けました。逆にイタリアでは、他のGKも僕と身長があまり変わらなかったのですが、そういうチームだと、逆に足を動かしたり、体格は小さいけど一発のパワーをしっかり出す練習だったり、キャッチの繊細さや、取る・弾くの判断、そういうところまで細かく練習していました。どちらがいいというのはないと思うんですが、その2つの国でも本当に練習の違いを感じましたね」

―日本代表のGKコーチもイタリア人のマウリツィオ・グイードですが、どちらかというとイタリアの練習に近いんですか?
「日本人のGKには基本的にそこまで大きな選手というのはいませんから、一回に大きな力を出せるような練習だったり、しっかり足を運んで、ステップの動きを早くする練習だったり、あるいはキャッチにこだわる、セービングでも弾く方向にまでこだわる練習が多いですね」

―日本人に合っている練習だと言えそうですね。
「去年、イタリアのベローナに練習参加に行ったんですが、そこのGKコーチが『GKにはそれぞれスタイルがあるから、チームにいるGKをみんな同じにしてはいけない』と言っていたんですよね。それぞれの選手の良さを引き出せる練習を組んでいるんだと。実際、全体のウォーミングアップは同じなんですが、その後、3人のGKが交代で練習を始めると、本当に3通りの練習をやるんですよ。『お前はここがちょっと足りないから、これをやれ』『お前はこれをやったほうがいいぞ』と、選手によって内容を変えていて、それは新鮮でしたね。全員で同じ練習をして、前の人を見ながら次の人はその真似をして、というのが日本の文化としてあるんですが、イタリアに行ってすごく感じたのは、GKコーチもその選手がどんなスタイルのGKなのかを分かったうえでメニューを組んだり、考えながらやっているんだなと。ですから、もしもマウリ(日本代表のグイードGKコーチ)が例えばドイツ代表に行ったら、ドイツ人に合った練習をするんじゃないかなと思いますね」

―グイードGKコーチも3人それぞれに別のメニューを組んでいるんですか?
「クラブチームと違って、日本代表は練習時間も限られているので、メニューは3人とも同じですが、練習をしながらそれぞれにアドバイスをくれます。『もうちょっとお前はこれを意識したほうがいいぞ』とか、当然、相手によってニュアンスが違う部分もあるので、それぞれの選手の特徴を見て、やってくれているのかなと思います」

―日本代表のGK練習はいつも激しそうですよね。
「きついですよ。毎回、筋肉痛になります(笑)。自分の所属チームの練習メニューと違うので、慣れていないというのもあると思うんですが、本当に一発の力を出す練習が多いんですよね。スピードもパワーも必要だし、毎回、すごい筋肉痛になります。マウリの練習は、レパートリーがすごく多いんですよ。(日本代表のGKコーチになって)3年以上経ちますけど、毎回、新しい練習が出てきます。普通はだいたい決まった練習の流れがあるんですけど、3年やっていても、いきなり『この練習、初めてだね』というのが出てくるので。その都度その都度、言われることも違いますし、選手も当然、飽きずにできるので、本当にすごいと思いますね。毎回行くのが楽しみですし、毎回違った刺激が入ってきて、毎回筋肉痛になるという感じです(笑)」

―アディダスの最新スパイク『パティーク 11プロ』の履き心地はいかがですか?
「僕の中で究極のスパイクというのは普通のスパイクだと思っています。履き心地が良いのが一番好きで、その意味でも『パティーク 11プロ』はすごく気に入ってます。GKグローブもそうなんですけど、素手感覚、素足感覚とよく言うじゃないですか。重さを感じないとか、締め付け感がないとか、履いていて違和感がない、わずらわしくないというのが一番いいスパイクだと思っていて、足にストレスのかからない『パティーク 11プロ』はすごく好きですね」

―GKにとってスパイクはどういう役割がありますか?
「GKこそ、シンプルな動きを妨げないスパイクが一番いいと思うんですよね。動きが一瞬ですし、その一瞬ですべてが決まるので、その一瞬に少しでもストレスを感じたらいいプレーができません。ゴールキックにしても、踏ん張ったときにスパイクの中で足がズレたり、どこか痛いとか不快感があるだけでマイナスなので。その意味でも『パティーク 11プロ』は動きの中で横ズレ感もまったくないですし、前後のズレも、突き上げ感もないので、本当に気に入っています」

―昨年12月にはW杯の組み合わせも決まりましたが、どんな印象ですか?
「拮抗したチームが入ったと思いますね。どこが(決勝トーナメントに)上がってもおかしくないし、逆にどこが上がれなくてもおかしくないグループだと思います。難しさはある反面、チームの一体感というか、チームとして全力で毎試合ぶつかっていくことが大事になるグループなのかなと感じました。どのチームにも、すぐにパッと思い浮かぶスタイルがありますよね。フィジカルが強いとか、ディフェンスが堅いとか。そういうストロングがあるチームということなので、ある意味、非常に特長がハッキリしたグループに入ったかなと思いますね」

―クラブチーム、日本代表を含め、2014年の具体的な目標はありますか?
「あまり先を見ないようにしようと思っていて、自分に今やれることをやって、夜、寝るときに『今日は達成感があったな』と毎日思えるように過ごし続けることが、結果的にJリーグの結果だったり、W杯だったりにつながっていくと考えています。当然、最後の大きな目標としては、W杯でも優勝したいし、Jリーグも優勝したいし、ナビスコ杯も天皇杯も、全部優勝したいという気持ちはあります。勝負の世界にいる人間ですから、やるからには全部勝つためにやるんですけど、それは究極の目標であって、遠くばかり見ていたら、ただの夢物語になってしまうので、その過程を大事にして、毎日毎日ベストを尽くしてやりたいなと思っています」

―昔からそういうスタンスだったんですか?
「高校生のときは、ここぞという試合の前に髪を切ったりしていましたけどね(笑)。でも、プロになって思ったのは、大事じゃない試合なんてないということなんですよね。当然、毎試合、お客さんも入っていますし、例えばJリーグは1年間に34試合あって、最後の34試合目が一番大事なように見えますけど、結局はそれまでの過程として33試合があったうえで大事になっているだけの話で、34試合全部が大事なんですよ。そういうふうに考えたら、W杯がある年だから大事なんじゃなくて、そのW杯までの毎試合毎試合を大事に戦うことが大事なんだって。人生ゲームをやっていて、大事なマスを飛ばしちゃうこともあるじゃないですか。『6』が出て、その間にすごく大事なマスがあって、そこで止まりたかったのにって。それをなくしたいんですよね。僕は全部『1』でいいので、一歩ずつ着実に進んでいきたいと思っています」

―『6』が欲しくなるときもありませんか?
「その途中に何かもっといいことがあるんじゃないかって思ってしまうんですよね。人生ゲームでも、先にだれかにゴールされても、その過程でお金をいっぱい稼いでいたほうがいいこともあるじゃないですか? 今すぐには結果が出ないかもしれないけど、長期的に見たら、1マスずつ進んだほうがいいことがあるんじゃないかなと。僕は現役生活をできるだけ長く続けたいと思っていて、そのための準備を日々しているつもりです。だから1マス1マス、1試合1試合ですね。リーグ戦であってもナビスコ杯であっても天皇杯であっても、日本代表の試合であっても、1試合1試合戦って、1マス1マス進んでいきたいと思います」

(取材・文 西山紘平)

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