beacon

[NIKE CHANCE]CB楠本が最終日3本のゲーム無失点、FW瀧本初戦V弾もあと一歩…日本人初のナイキアカデミー入りならず

このエントリーをはてなブックマークに追加

 勝者5選手との差はわずかだった。だが日本人が初めてナイキアカデミーへ入ることはできなかった。世界で戦える選手を発掘する世界規模のスカウトプロジェクト「NIKE CHANCE」は9日、イングランド代表のトレーニングセンターであるセント・ジョージズ・パークで33か国43プレーヤーによる「グローバルセレクション」最終日を行い、ナイキアカデミー入りする勝者5名を発表した。MFウィーラン・ロール(南アフリカ)、GKジョエル・ドロメル(オランダ)、MFディロン・ボーンズ(ニュージーランド)、MFアイデン・オースティン(イギリス)、そしてDFブルーノ・コバス(ブラジル)の5選手を選出。ジミー・ギリガンヘッドコーチが「きょうも考える候補に入っていた」と説明したDF楠本卓海(大成高→東京国際大)、FW瀧本高志(履正社高)の“日本代表”2選手は落選し、イングランド代表の本拠地でプロレベルの指導を受け、多くの選手が欧州プロへ羽ばたいているナイキアカデミー入りのチャンスをつかむことはできなかった。

 負けた気がしなかったのだろう。セレモニーで勝者が発表されたあと、日本人2選手の表情には悔しさが溢れ出ていた。「何で?」という思いももちろんある。ただ2選手は自己分析し、力不足、アピール不足を認めていた。楠本は「セレクションに落ちる経験が久々。相当悔しいっすね。ほかより目立つプレーがなかったので……。そこらへんにいそうなレベルでしかできなかった」と唇を噛み、瀧本は「悔しいですね。自分のところを出せなかった。もっと自分出さないかんなと思います。もう終わったんですけど、ヤツらには負けたくないんで、プロ目指して頑張りたいです」と今回の勝者以上の選手になることを誓っていた。

 3日間行われたグローバルセレクション最終日の午後は参加43プレーヤーを3チームに分け、これにナイキアカデミーチームを加えた4チームが11対11の30分ゲームを総当たり形式で行った。楠本と瀧本は同じチームに入り、1本目は楠本が4-4-2システムのCB、瀧本が2トップの一角として先発。瀧本は安定したカバーリングでCBのパートナーのミスを上手く埋めつつ、自身の役割もしっかりと果たして相手にチャンスをつくらせない。そして前夜に「あすは点を取る」と誓っていた瀧本が魅せる。12分、左SBクリストス・パスカラキス(ギリシャ)とのパス交換でDFを攻略した瀧本が中央から右足でゴール。有言実行の一撃でアピールする。1本目は鉄壁の守りを見せるCBブルーノに苦戦した瀧本だったが、22分にも楠本の中央突破を起点とした攻撃からループパスに反応して決定機に絡んだ。2点目を奪うことはできなかったものの、少ないチャンスで結果を残し、チームの1-0での勝利に貢献した。

 2本目の相手は目標とするナイキアカデミーチーム。徹底したエリートトレーニングの成果から身体の厚さが明らかに違う相手との試合だったが、この試合でもCBで先発した楠本は相手攻撃陣を無得点に抑える。得意の対人で相手を潰すようなシーンはほぼなかったものの、押し込まれる展開でも決定的な一撃を打たせなかった。ただスカウト陣の目は厳しい。やや深いポジションどりでリスクを消しながら守っていた楠本だったが「アカデミーとの対戦のところでちょっとまごついた。テンポとかペースとか速い中でついてこれないかなと思った。パスとかボールを動かすところはよかったが、でもディフェンスはボールを取ることをしなければいけないし、タイトに寄っていくこともしなければいけない」と語ったジミー・ギリガンHCらスカウト陣は「対応できていない」と厳しい判断。無失点で終えたものの、大一番で好印象を与えることができなかった。また16分から交代出場した瀧本もこの試合ではパスを引き出すことができず「何もできなかったですね」。0-0の試合でインパクトを残すことができなかった。

 3本目は序盤から瀧本が積極的な仕掛け。3分に右サイドでのターンでDFを外して右足シュートを放つと、4分にもドリブルでPAへ切れ込んだ。そして12分には瀧本の絶妙なポストプレーを起点に決勝ゴールが生まれる。そのほかにもルーズボールをスペイン人DFと激しく奪い合い、PAやや外側でFKを獲得するなど強さを発揮し、シンプルなポストプレーで奮闘した瀧本だったが、ボールをロストする回数も少なくなく、また決定的な仕事をすることができなかった。ギリガンHCが「ゲームに影響をもたらせなかった。テクニカルなセッションではまあまあ良かったけれども、ゲームに影響力を与えられなかった」と厳しく指摘したように、ダイナミックなドリブルなど国内セレクションで見せた圧倒的な存在感を世界で発揮するには至らず。最終ラインでDFをリードしていた楠本も的確なインターセプトで相手にチャンスを与えなかったが、終盤は自陣コーナー付近で相手に身体を入れ替えられてボールを失うシーンがあり、1-0の勝利、3戦無失点にも「DFとしては無失点はいいことだと思います」と語っただけで満足感は見られなかった。

 チームの好成績を支えた2人だったが、合格することはできなかった。ギリガンHCは勝者について「才能がある」「指揮を取れた」「支配力があった」「自分の仕事、ポジションをわきまえてプレーできる」「アカデミーにいないタイプ」など選考理由を説明。落選した日本人選手の課題を指摘したが、一方でポテンシャルの高さを認める。「日本人の選手を見ていると、体も強いし、いい子で行儀もいいし、人の話を聞くし、言われたことをやろうとする。努力は続けてほしいと思います。自分はできると信じてほしいし、彼らが悪いということじゃなくて、今のところ求めている素質ではなかったというだけでいい子だと思います。(2人の課題として)卓海クンは足を速くして身体、足回りを速く動かすこと。しっかりアグレッシブにディフェンスをすること。ストップするとか、タイトに寄っていくとか。高志クンはもっと支配力を持つこと。時にはできましたけれども、もっとボールを呼び込んで、もっと動きを良くすること。ボールを取ってやる。足元は凄くいいと思うんですけど、それから次の動きを読むこと、ボールを取った瞬間に次のプレーを分かっていることが必要」と成長を期待した。

 日本の国内セレクションで評価を勝ち取り、世界に挑戦した2人。確かに勝利することはできなかった。それでもイングランド代表の本拠地で3日間、プロを目指す選手たちとともにサッカー中心の生活をしたことは間違いなく今後のプラスとなるはずだ。瀧本は「短かったですけれども、得たものは大きかったので、自分の高校へ戻っても自分がチームを引っ張っていく。大阪で経験できたのは自分だけ。大阪では飛びぬけた存在になりたい。高卒でプロは狙っているので、帰ってどうプロにつなげられるか」と意気込み、楠本は「初めて会う人に言われたことばは自分に足りない、明らかにダメなところだと思うので、活かしていきたいと思います。(進学する東京国際)大学自体が相当レベル高いんで、トップで試合に出ることが目標ですけど、まずはトップに入ることを目標にしていきたいです」と誓った。

 そして今後「NIKE CHANCE」に挑戦するプレーヤーへ向けて、圧倒的な声が印象的だった楠本は「もし、シャイとか声出しにくい人だとしたら、気にしないでいい。誰も日本語のことは分からないから(積極的に声を出すこと)。プレー面では思っているよりも(日本人は)やれると思います。何も気にしない方が楽だと思います」と語り、瀧本は「自分悔いが残ったというか、ボクは自分を出し切れなかったのでもっと自分を出してプレーすること。そうすれば大丈夫と思います」とエールを送る。この日ゲストとして会場に訪れたイングランド代表MFトム・クレバリーは今回の敗者へ向けて「夢が終わった訳じゃないし、まだまだ夢は続いていると思います。夢を追い続けるかどうかは自分が決めること」と語っていた。今回世界で勝利することのできなかった日本人2選手や国内セレクションで勝利できなかった選手たちも、また参加することのできなかった選手たちも、夢を追い続けて努力し続ければ、再び訪れた「CHANCE」を活かして、サッカー人生を変えることができるかもしれない。

(取材・文 吉田太郎)

TOP