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完全復活を遂げたF東京DF吉本「悔しさはこれでは返せない」

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[4.6 J1第6節 F東京2-1鳥栖 味スタ]

 ようやく表舞台に戻ってきた――。この試合、FC東京は大黒柱の日本代表DF森重真人を累積警告で欠く苦しい状況だった。確かに攻撃面では森重の不在を感じさせる場面もあったが、守備面ではDF吉本一謙が強烈な輝きを放って最終ラインをまとめ上げた。

 対峙した相手はJリーグを代表するストライカーのFW豊田陽平だった。しかし、強靭なフィジカルを誇る豊田を相手にしても吉本は一歩も引かなかった。特に空中戦での強さは目を見張るものがあり、多くの場面で豊田の上を行くヘディングで相手ロングボールをはね返し続けた。驚異的な高さを誇るヘディングに、吉本は強烈なこだわりを持っていた。

「自分がヘディングで負けたら、『お前、何のために出てるんだ』と言われると思います。そういうタイプの選手なんで。相手は日本代表ですが、いつも通りにやれば全部負けることはないと思っていました。あれくらいできないと僕が試合に出ている意味はありません。それくらいのこだわりを持っています」と自身の最大の武器をはにかみながらも誇らしげに話した。

 豊田に1点を許したことで満足いく結果とはならなかったが、ゴールシーン以外で豊田に放たれたシュートはゼロ。ほとんどの場面で、鳥栖のエースを封じ込めていた証拠だろう。難敵と対等以上にわたり合ったことで十分な手応えを得たのかと思いきや、「ヘディングだけですね。ヘディングでイーブンのボールなら負けないと思いましたが、豊田選手は動き出しがうまいし、そういう部分はマークしにくかったです」と振り返っている。

 ここまで浮き沈みの激しいサッカー人生を歩んできた。F東京の下部組織で育ち、ユース時代には2種登録されてトップチームに帯同した。年代別代表にも選出され、トップチーム昇格を果たした07年には開幕スタメンを勝ち取った。前半途中に交代する屈辱を味わったが、将来を嘱望されていたのは間違いない。

 しかし、その後は苦難の連続だった。思ったように出場機会を得られない状況が続くと09年途中に岐阜に、12年途中には水戸に期限付き移籍した。さらにケガが吉本を襲う。12年に在籍していた水戸で左ヒザ前十字靱帯損傷の大ケガを負い、全治8カ月の診断を受けた。その結果、07年から在籍しているF東京でのリーグ戦での出場は、今季開幕前でわずか3試合にとどまっていた。しかし、前節の清水戦で08年3月以来となるF東京でのリーグ戦先発出場を果たすと、2試合連続でスタメンに名を連ねて完全復活を印象付けた。

 チームの今季初勝利、そして2連勝に大きく貢献したが、まったく満足はしていない。それは、今までの苦しい経験があったからだと話している。「僕はケガが多かったので苦しい時期を過ごしてきました。今年はキャンプからコンディションが良くて試合にも使ってもらっていますが、今まで僕が味わってきた悔しさは、これくらいじゃ取り返せない。今までの苦しい時期の分を今年で取り返すくらいのつもりで、出た試合は全部勝てるように頑張りたい」。

 次節にはキャプテンの森重が復帰する。さらにDF加賀健一も鳥栖戦で吉本とともに豊田封じをこなした。レギュラー争いはし烈を極めるが、ここで立ち止まるわけにはいかない。「良い選手がいっぱいいますが、皆に、監督に認めてもらえるように、とにかく自分が出た試合で結果を残して、『あいつで大丈夫だ』という信頼を勝ち取っていくしかありません。その積み重ねだと思うので、一つひとつの試合、そして練習を大事に続けていきます」。苦しい時期を乗り越えた男は、晴れ晴れとした表情で決意を表明した。

(取材・文 折戸岳彦)

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