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遠藤が担うW杯の使命「日本サッカーの道しるべに」

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 141キャップ――。日本代表遠藤保仁(G大阪)が積み上げてきた国際Aマッチ出場数は、言うまでもなく歴代トップである。W杯4大会連続出場の川口能活(3位、116キャップ)、“アジアの壁”井原正巳(2位、122キャップ)をはるかにしのぐ。

 2002年11月のアルゼンチン戦から始まり、11年半の歳月をかけて「141」まで積み上げてきた。ジーコジャパンでは06年ドイツW杯に出場できず、悔しい思いをしたものの、イビチャ・オシム、岡田武史、そしてアルベルト・ザッケローニの下では、ほぼ出ずっぱり。1年平均12試合以上、代表のユニフォームを着て戦っているわけである。それも10年以上ずっと。

 代表行事にすべて参加できる国内組の立場ゆえ、出場を増やせたことも背景にはあるかもしれない。ただ、そればかりではない。歴代監督の教えを吸収しながら、その要求に応えてきたからこその数字。日本のストロングポイントを生かそうとするオシム、岡田、そしてザッケローニの下で彼は土台づくりの中心を担ってきたのだ。141キャップには、その軌跡が刻み込まれているのである。

 小春日和のある日。遠藤はスマートフォン用サッカーゲーム「バーコードフットボーラー」のCM撮影に臨んでいた。ゲームに興じるシーンの収録でも、カメラを気にすることなく、いつものリラックスした雰囲気でゲームにのめりこんでいたのが、何とも“らしいな”と思えてならなかった。

 CM撮影のインタビューでは、キャップ数をどこまで伸ばしていきたいか、という質問も飛んだ。彼は、こうサラリと答えている。

「絶対に選ばれるという保証が一つもないので、毎回毎回、最後だと思っています。W杯が一つの区切りにはなると思いますが、それでも増やせるだけ、増やしたい」

 毎回が最後。代表に対する彼の思い、覚悟というものが見えてくるような言葉であった。

 34歳。ブラジルで迎える3度目のW杯は、遠藤にとって日本のストロングポイントを追究してきたその成果を示す舞台となる。140を超える対外試合を経て、サッカーの本場ブラジルで日本のスタイルを知らしめていく――。

 撮影を終えてから、少し話を聞くことができた。ブラジルの舞台で、何を表現したいと思っているのか。そう聞くと、真剣な眼差しをこちらに向けて言った。

「きれいにパスをつないで、攻撃的に行くというスタイルをだれもが理想としているので、(今回の大会が日本サッカーにとって)いい道しるべになればいいかなと個人的には思っています。もちろん結果を伴ってですけど、日本はこういうサッカーなんだという道をつくれれば、次につながっていくと思うんです。

 でも、代表だけがやっていればいいという問題ではないし、それがスペインとの差だと思います。日本代表がいいサッカーを出していければ、間違いなくいい影響を与えられると思う。だから僕たちに懸かる役割というものは、相当に大きいと捉えています」

 歴代最多出場キャップを誇る遠藤の野望とは? もちろん本田圭佑や長友佑都が公言するように、彼もまた「W杯優勝」を真剣に狙っている。ただ、野望のその前提にあるのは、まずもって「日本サッカーのスタイル」を見せつけることにある。スタイルというのは簡単に言えば、日本のテクニック、敏捷性、組織性を生かしたパスサッカー。監督によって方法論は違えども、オシム、岡田と同様にザッケローニ監督もこの日本の長所にこだわってチームづくりを進めてきた。

 前回の南アフリカW杯では、志向したパスサッカーを封印して大会に臨んだ。結果を出すために、あえて選んだ道であった。だが、今回は違う。積み上げてきたものを世界相手に表現できる力が付いてきたという感触が遠藤の中にもあるからこそ、その思いを強くしているのだと言える。

「バルセロナのサッカー=スペインのサッカー」であるように、遠藤としてみれば、日本代表のスタイルを、Jリーグや日本サッカーの育成年代にまで影響を及ぼすものにしたいという願いがある。日本流のパスサッカー、攻撃サッカーで結果を残していければ、きっと日本のスタンダードになっていく。遠藤が強い使命感を秘めていることは十分に伝わってくる。

 全体をコンパクトにして細かいパスにもっとこだわっていくところ、ゴールに縦に早く向かっていくところをうまくミックスさせながら攻めていくイメージは、彼の中で整理されてきている。

「あえて(相手に)近づいて、相手を食いつかせるようなパスを出したりとか、よくスペインなんかやりますけど、それがあるからこそバイタルエリアが空いたり、そのバイタルエリアが使えるから裏へ抜け出せたり、いい連動性が出てくると思うので。そのあたりはザッケローニ監督とより密にコミュニケーションを取っていきながら、監督の考えるものを試合で出しつつ、自分たちはこういうこともできるんだということをプレーで示していかなきゃいけないと思っています」

 最後に、チームが勝ち進んでいくために大事なことは何か、と尋ねた。 彼はこう答えた。

「大事なことですか? 試合をやっていく中で出場停止やケガ人が出てきても戦い方を変えないというのが僕の中では一番だと思います。疲れがあるからと言って、引いて守ればいいとは思わない。自分たちが持っている最大の武器、常に相手にとって脅威になり得るという雰囲気を常に出しておかないといけないかな、と。チームがいかなるコンディションであれ、それをチーム全体で確認しておけば自然にできるとは思いますよ」

 ジャパンスタイルの完成形。それは10年以上にわたって土台づくりに勤しんできた遠藤保仁の手によって成し遂げられてこそ価値があり、意味がある。自然体、いや、自分体で遠藤保仁は決戦の地ブラジルへと向かう。

(取材・文 二宮寿朗)

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