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山本昌邦のW杯分析「進化する戦術。戦術を超えたメンタル」

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 決勝トーナメントに突入したW杯。世界の強豪がしのぎを削る熱戦が連日繰り広げられている。02年日韓W杯日本代表コーチや04年アテネ五輪U-23日本代表監督などを歴任した山本昌邦氏が、世界のスタンダードとは何かを解説する。

戦術の進化を見たチリのディフェンス

 決勝トーナメントの幕開けとなったブラジル代表チリ代表は、ブラジルが辛くもPK戦を制して準々決勝に駒を進めたが、チリの素晴らしい戦いが光った。

 ブラジル戦のスタメンを見ると、GKを除いたフィールドプレイヤーで180cmを超える選手はゼロ。チリは出場32か国で平均身長が最も低く、高さに不安を感じさせたが、その弱点を補う守り方を周到に準備していた。

 象徴的だったのが、ブラジル戦での得点シーンだ。自陣深い位置でのスローインでFWフッキがDFマルセロへとバックパスを出す瞬間、チリのFWエドゥアルド・バルガスが猛然とダッシュしてボールを奪うと、ダイレクトでPA内のFWアレクシス・サンチェスへとつないでブラジルゴールを破った。これをフッキのパスミスによるラッキーなゴールだと片付けることは本質ではない。あくまでチリの狙い通り、バルガスも、サンチェスも、準備をしていたからこそ得点に結びつけることができたのだ。

 パスをつなぐチームに対して、チリの狙いを絞った守備はうまくはまっていた。ボールホルダーには常にプレッシャーをかけ続け、パスの受け手もマンツーマンでマークする。FWネイマールはマークを外せず、いいカタチでボールを受けることがほとんどできなかった。この守備にブラジルは多いに苦しめられ、グループリーグでは王者スペインが屈した。

 相手がボールを保持していても、攻撃の意識を持っていれば一瞬でチャンスに変わる。偶然ではない必然のゴールに、戦術の進化を見た。

メンタルは戦術をも凌駕する

 チリの守備力は素晴らしかった。それでも勝ちきることができなかったのは、弱点である高さで失点したこと、そして、ブラジルが気持ちで上回ったことだ。

 PK戦ではGKジュリオ・セーザルが2本ストップし、勝利の立役者となったが、この試合で見せた好プレーの数々は彼の強い気持ちの表れだろう。前回南アフリカW杯で、ブラジルは準々決勝でオランダに屈したが、セーザルの飛び出しが味方とかぶって同点を許している。その試合の雪辱に燃える気持ち、チームメイトへの恩返しの思い……、そういったことが「ここで俺が止める」という気迫につながっていたように思う。気迫だけではない。PK戦では誰よりも落ち着いて見えた。

 ルイス・フェリペ・スコラーリ監督の采配にも、メンタルへのマネージメントが感じられた。途中出場したFWジョーは、戦術的には機能していなかったが、別の効果を発揮した。試合会場であるベロオリゾンテを本拠地とするアトレチコ・ミネイロ所属のジョーが入ったことで、会場のムードは一気に高まった。サポーターの声援に触発されない選手はいない。そこまで考えて交代のカードを切るのが監督の仕事だ。

 日本もコロンビアのホセ・ペケルマン監督に卓越した手腕を見せつけられた。43歳のGKファリド・モンドラゴンが途中出場したが、2点差になった時点ですぐさま準備をしていたところを見ると、点差が開いたら出場する約束になっていたのだろう。前半終了間際に日本に追いつかれ、ハーフタイムに選手の心に火をつける手段として、W杯最年長記録がかかったベテランGK出場の話をした。控えのGKであるモンドラゴンは、後半から出場したMFハメス・ロドリゲスにとってシュート練習をともにした存在。その恩返しに燃えるハメスは後半の3得点すべてに絡んで試合を決めてしまった……。ペケルマンはワールドユースでアルゼンチンを3度の世界一に導いている監督。このあたりのマネージメント能力は、さすがの一言につきる。

 いいサッカーをしていても勝てないのがW杯。決勝トーナメントに入ったこの先、戦術を超えた要因が勝敗を分けることもあると思っている。

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