beacon

山本昌邦のW杯分析「未来のために日本人代表監督も視野に」

このエントリーをはてなブックマークに追加

 ブラジルW杯準決勝は、ドイツ代表アルゼンチン代表が制した。02年日韓W杯日本代表コーチや04年アテネ五輪U-23日本代表監督などを歴任した山本昌邦氏が、準決勝第2試合のオランダ代表対アルゼンチンを鋭く解説する。

優勝ラインまで成長したアルゼンチン守備陣

 20回目のW杯決勝へと駒を進めるのはどちらか。準決勝のオランダ対アルゼンチンは、スコアレスの末にPK戦で決着を見たが、サッカーの奥深さが見えた素晴らしい試合になった。

 W杯も準決勝までくると、「不安」や「恐怖」との戦いになる。その上、前日に行われたブラジル対ドイツが1-7という衝撃的なスコアになったことで、両チームが慎重になってしまった感は否めず、互いの良さを消し合う展開に。大会6試合目で疲労はピークに達しているはずだが、それでも両チームが集中力を欠くことはなかった。体は動かず、思考も鈍っている中で、どうにかして点を取りたい、でも点は与えたくない。そんな極限状態の戦いを乗り越えたチームのみ、決勝の舞台に立つことが許さるのだと痛感した一戦だった。

 カウンターを警戒するアルゼンチンは、バイタルエリアにボールを入れず、オランダが敷く3バックのサイドのスペースを狙った。リスクを負わず、いかに勝利するか。アルゼンチンは6試合目にして初めてポゼッションで相手を下回ったが、自分たちの良いところを出せなくても勝つ方法を、チーム一丸となって実践していた。W杯で勝ち上がることは、良いサッカーをすることとイコールではない。

 アルゼンチンのグループリーグでの戦いを見て、正直、優勝は難しいと思っていたが、チームは試合を重ねるにつれて成長を見せている。6試合で喫した3失点は、すべてスルーパスで崩されたものだが決勝トーナメントでは見事に修正した。その結果、決勝トーナメント3試合での失点は「ゼロ」。私が考える優勝ラインの「1試合平均0.5失点」をクリアしている。優勝2回を誇る南米の雄は、ついに決勝までたどり着いた。アルゼンチンの強さを支えているのは、FW リオネル・メッシ、FW セルヒオ・アグエロ、FW ゴンサロ・イグアインら攻撃陣ではなく、大会を追うごとに安定感を増している守備陣である。

「ピークは初戦にあらず」。これが強豪国の戦い方だ。

ロッベンですら手が届かないトロフィー

 前日練習で別メニューだったFW ロビン・ファン・ペルシー、負傷明けのMF ナイジェル・デ・ヨングをスタメン使ったオランダ。途中から出して体力的に持たなかったらさらに交代のカードを切らないといけなくなるだけに、起用するならスタメンしかない。ルイス・ファン・ハール監督としては、90分ないし120分で勝負を決めたかったはずだが、PK戦までもつれてしまった。延長前半を終える前に交代枠を使い切っていたため、コスタリカ戦でPKを2本止めたGK ティム・クルルの出番はなかった。

 なぜクルルがコスタリカ戦でPK戦を任されたのか。正GKのヤスパー・シレッセンは過去に一度もPKを止めたことがないが、クルルは2度止めており「ゼロより2のほうが良い」とはファン・ハール監督の弁だ。アルゼンチンの選手からすれば、クルルが出ないことでさぞや安心しただろう。自信を持ってPK戦に臨めたはずだ。結果的に、ファン・ハール監督は自らの采配で首を絞めることになってしまった。

 前回南アフリカW杯の決勝でFW アリエン・ロッベンはGKと1対1の決定機をものにできず、優勝を目前で逃している。その悔しさを糧に4年間でさらなる成長を見せたロッベンは、鬼気迫る活躍でオランダの快進撃を牽引してきたが、それでも手に入らないのがW杯のトロフィーだという、想像を絶する戦いを見せつけられた。

自国の監督のみW杯を制することが許される

 ドイツのヨアヒム・レーブ、アルゼンチンのアレハンドロ・サベジャ、ブラジルのルイス・フェリペ・スコラーリ、オランダのファン・ハール。彼らベスト4に残ったチームの監督に共通することは何か? それは全員、母国の代表チームを率いているということだ。過去19回のW杯でもすべて自国の監督が優勝に導いており、今大会もそのジンクスは守られることになった。

 日本では新監督候補に外国人監督の名前が挙がり、メディアを賑わせている。確かに、世界で結果を出してきた彼らから学ぶべきことは多いと思うが、その国のサッカーの歴史や、選手やスタッフの想い、そしてサポーターの想いをひとつにできるのは、自国の監督なのではないだろうか。「誇り」や「魂」といった目に見えない要素になってしまうが、W杯で勝ち残るには不可欠だと私は思っている。20年後、50年後の日本サッカーのためにも日本人監督の起用も視野に入れた監督人事をぜひとも進めてもらいたい。

★大会日程やTV放送、最新情報をチェック!!
2014W杯ブラジル大会特設ページ
★全64試合の公式ダイジェスト動画を配信!!
2014W杯ブラジル大会動画ページ

TOP