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4年後のロシアW杯出場を目指す宇佐美貴史「やっぱりW杯は、出ないとダメ」

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 日本人で初めてUEFAチャンピオンズリーグの決勝でベンチ入りし、世界トップレベルの戦いを目に焼き付けたFW宇佐美貴史。自身が2シーズンを過ごした地でもあるドイツが優勝した2014 FIFAワールドカップ ブラジルは、宇佐美の眼に、どのように映ったのだろうか。生き生きと語る宇佐美の口からは、世界一のドリブラーに対する称賛も、溢れ出た。4年後のロシア大会に向けての決意も強くした男の思考に迫る。

―W杯の試合は見ていましたか?
「時間帯がね。練習に支障をきたす時間帯なので、なかなかライブでは見ていません。ダイジェストとかは見ましたけどね」

―ドイツ代表は、調子が悪くても結果が出せます。そういうチームについては、どう考えますか?
「あれは、なんなんですかね。元イングランド代表FWガリー・リネカーの『サッカーは22人の男が90分、ボールを追って、最後にドイツ人が勝つ』という名言もありますが、その通りというか。準決勝の後も、朝、パッと結果を見たら7-1と出ていたんです。それで『ブラジルは2人か、3人、退場したのかな?』と思ったら、誰も退場していない。『えっ?』と思って、詳しく調べたら、警告を受けたのもダンテだけでしたからね。でも、ブンデスリーガもそうなのですが、『ここぞ』っていうところの人数の掛け方、『ここは行きどきだ』っていうのを、多分、感覚として分かっている」

―それは、なぜでしょうか?
「おそらく、小さい頃から、テレビで見ているブンデスリーガのイメージがあるんでしょうね。得点が入るときの枚数とか、ざっくりと頭の中に残っている。だから、サイドにパッとボールが入って行ったら、『ここや』って、人数を掛けて攻める。そういう点の入り方とか、やっぱり最終的に勝っているイメージを持てるのでしょう。逆に、守らないといけないとき、『ここは耐えないといけない』というときの守り方も、感覚的に分かっているから強いんでしょうね。ドイツは、別にスペインのようにボールを回すでもないし、爆発的なドリブラーがいるわけでもない。この選手に任せておけば、点を取れるだろうっていう選手がいるわけでもありません。でも、最終的にはドイツ人が勝つ。だから、なんか悔しいですよ。でも、そういう勝負どころを、生まれながらに分かっているのが、ドイツ人なのでしょうね。だって、普通は無理ですよ。4大会連続でベスト4とかって。前回大会で3位になったときも、最終的にセットプレーからケディラがゴールを決めて、3位になったじゃないですか。これからドイツの時代が始まるんじゃないかな、っていうくらい。だって、まだ主力がすごく若いですからね。トニ・クロース、トマス・ミュラー、メスト・エジル…。彼らは、みんな次のW杯で全盛期を迎える選手ですから、ゾっとしますよ」

―そういう選手たちと一緒にドイツでやっていました。それは財産なのでは?
「そうですね。だからこそ、戦いたいですね。W杯とかでドイツとやれたら、すごい楽しいと思います」

―世界を知ったことで、W杯に対する感覚や意識も変わりましたか?
「今回、やっぱり(ブラジルW杯に)行けなくて、『W杯を見てどうでしたか?』と聞かれても、僕ら選ばれていない選手は『こうこうこうですよね』と言うことしかできません。選ばれた選手にしか、相手の強さとか、W杯の偉大さとか、プレッシャーは分からない。それを肌で感じたいという想いは、より一層強くなりました。W杯に出ずに、W杯のことを聞かれて、W杯関連のメディアの仕事をもらうのも、次は経験したくないですね。試合を見ながら、『ああ、あそこはこうなんですよ』とか饒舌に語っている、オレ。すごい。嫌いです。もう嫌悪感が半端じゃない。日本対コートジボワールの試合のときも、解説のお仕事をいただいて、予想は当たっていたんですよ。『本田圭佑選手が注目ですね』と言っていたら先制点を取りましたし、『1点取ってからは、後半の真ん中が大事ですね』って言ったら、実際に後半の真ん中で2点入れられて…。『ほらね』とか、言っていたんですよ。その仕事が終わって、帰りの車で気づいたんです。『あれ? 僕の立ち位置はどこだ?』って。そこから、すごい嫌悪感に苛まれて…。自分に対してのイラつきが止まらなかったです。やっぱり、W杯は出ないとダメでしょ。

―今回の経験で、ここからの4年間に変化はありそうですか?
「変化しそうですね。頭の片隅に、常に、私生活でも、W杯のことを頭において、生活をしていきたいです」

―今大会では、トップ下の選手が活躍する機会が増えています。その流れはどう考えていますか?
「良いと思います。真ん中に一人、自由を与えられた良い選手がいるっていうのは、すごく良いですよね。ドイツでは、エジル。コロンビアではハメス・ロドリゲス。そういうチームが勝ち進むのは、いいですよね。オランダもアリエン・ロッベンがファン・ペルシと2トップを組んで真ん中にいて、生き生きしていますからね。やっぱり、そういうボールを持つと怖い選手は、真ん中に入れないと。サイドに置くのではなく、真ん中でやらないと、ダメなんです。でも、この流れは多分、また一周しますよね。そのうち、また『真ん中は不要』となって、システムでガチガチに守るようになって、ひらめきで変えられる選手が必要だってなって。それで、また、そういう選手はいらないってなって、ガチガチになって…。今大会は、そういう一人だけ自由を与えられている選手が勝っていますからね。FWリオネル・メッシのいるアルゼンチンも、そうじゃないですか。『メッシがいるから苦戦している』なんて報道もありましたけど、メッシが点を取るから勝っているし、決勝まで行けた。メッシが下がってくると、前に枚数が少なくなると批判される。スイス戦とかも、メッシが引き過ぎて苦戦させたって言われていますが、でも最後はメッシが突破して、アシストして、ディ・マリアが決めた。結局、誰も『メッシがいなければ、もっと点が取れる』とまでは言いませんからね」

―楽しそうに話しているところ申し訳ありませんが、そろそろスパイクの話を。
「軽いですね。僕は派手な色が好きなので、派手であればあるほど視界に入りやすいし、派手なところは良いと思います。このバトルグラフィックというデザインも、先住民が狩りに行くとき、顔にしていたペイントデザインがもとになっていて、相手を狩りに行くという考えが落とし込まれているそうなんです。こういう一つひとつ、しっかりビジョンがあるのが、僕は好きですね。そういうビジョンが、一番、大好物です(笑)」

―ボールタッチにこだわりのある宇佐美選手は、肌に近い感覚も大事と話していましたが?
「ありがたいですよ。薄さ、軽さ、そして色。プレーに関してスパイクに求めるのは、その3つなので。その3点全部が凝縮されたスパイクです。デザインが派手な方が、間接視野でしっかり捉えられますし、薄くてナチュラルに履ける方が、正確なボールタッチができます。さらに軽い方が、重さのことも気にしなくて済むのでやりやすい。だから、このゴールで得点を量産して、『点を取れるスパイクだよ』と言いたいですね」

―試合中、何回ボールタッチをしているのか意識しているのですか?
「タッチ数は、多ければ多いほどいい。たとえば、20メートルをドリブルするときは、1メートルで2回ボールに触るとか。相手を抜けているときのタッチ数は良いんです。ボンボンと蹴り出さない。ボンボンと蹴り出すことが必要なときもありますけど、細かいタッチがあってこその大きいタッチというか。大きなタッチだけだと、つかみどころがなくなるので」

―アルゼンチン代表FWディ・マリア選手も『ボールと自分の距離を小刻みに変えて、相手の届かないところに置く』と話していました。
「僕のこと、『ディ・マリア』って呼んでください(笑)。僕は、タッチ数にはこだわっていますが、あとは体の向きとか、フェイントとか、行くタイミング。時間帯もありますし、行くときの(相手守備の)枚数もあります。そういうのを、いろいろ見ながらドリブルを仕掛けていますので、その辺は見る人にも感じてもらえればいいかなと思いますね。でも、ドリブルだけで言うと、世界一はディ・マリアだと思います。バイエルンのとき、UEFAチャンピオンズリーグで見ましたけど、ディ・マリアのドリブルとシャビ・アロンソのキックはえげつなかったです」

―圧倒的に何が違う?
「アジリティの能力もそうですし、相手を抜いていくリズムが、もう独特過ぎて。マネできないと思いますよ。あのドリブルの感じとか。ドリブルをするための人間っていうか。ドリブルで抜いていく感じとか、相手と対峙した時の感覚。ピッチ外から見ていた僕の感想ですけど、ディ・マリアは天才。天才中の天才ですね」

(取材・文 河合拓)
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