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[総体]ユース取材ライター陣が推薦する「全国総体一押し選手」vol.3:仙台育英DF熊谷駿(3年)

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平成26年度全国高校総体「煌(きら)めく青春 南関東総体2014」サッカー競技
特集企画「ユース取材ライター陣が推薦する『全国総体一押し選手』」
第3回:文・大島和人


 何と言っても大きい。仙台育英高DF熊谷駿が持つ190㎝という巨躯は、高校サッカーだけでなく、日本サッカーの宝物だ。

 彼は小中とベガルタ仙台のアカデミーに所属していたが、ユースに昇格しなかった。当時のベガルタユースは東北2部降格が決まり、強化が上手くいっていなかった時期、熊谷、加藤陽介といった主力が多く仙台育英を進路に選んだ。

 熊谷は高1からレギュラーの座を掴み、選手権出場の立役者にもなった。昨冬は東北高に選手権出場を譲ったが、予選終了後にヴァンフォーレ甲府の練習に参加。甲府は仙台育英の城福敬監督の弟・浩氏が監督を務めているという縁がある。「今どう叩くかが大事。熱いうちに叩かないと」(城福浩監督)という熱血指導を受け、課題と収穫をチームに持ち帰った。

 空中戦の強さは圧倒的で、セットプレーでも彼の存在は脅威。加えて前線にパスを付ける能力を持ち合わせ、左利きという希少価値もある。細かい動きへの対応、足の運びには課題も残るが、そこは経験やトレーニングで克服できる要素だろう。城福浩監督も「もっとヒョロヒョロっとした、地に足がつかない感じだと思ったら、意外にそうでもない。改めて人材は全国にいると思いました」と、熊谷のポテンシャルを認めていた。

 190㎝級の長身選手は“上”への成長に筋力アップ、神経系の構築が追いつかず、育成年代では身体的にアンバランスな選手が多い。しかし日本サッカーという視点で見ると、CBはGKとともに大型選手の登場が待望されるポジション。今回のW杯を見れば小柄なアタッカーを揃えていたメキシコでさえ、ロドリゲスのような190㎝超の大型選手を最終ラインに配置していた。彼のような超大型選手は育成に時間がかかっても、育てる価値のあるタイプの才能といっていい。

 ただしポテンシャルは成功の必要条件であって、十分条件ではない。熊谷は複数のJクラブが興味を持つ大器だが、今すぐJの舞台で活躍できるかと言われれば、答えはおそらく「NO」。戦術理解やコーチングといったサッカー選手としての“ソフトウエア”も、日々バージョンアップする必要がある。空中戦という強みも、プロのレベルで見ればまだ絶対的なものではない。

“卒業後”の努力が必要なことはもちろんだが、残り半年の高校生活をどう過ごすかも同じく重要だ。宮城県内でいえば、聖和学園のドリブルサッカーは強力。熊谷はあのドリブルとトリッキーなパスワークに手こずるだろうが、それを工夫と努力で克服する努力が彼を成長させるだろう。夏の総体でどれだけやれるか、出し切れるかも未来への試金石になる。初戦の相手は既に鹿島アントラーズ入りを決めた久保田和音を擁する大阪桐蔭。間違いなく注目の対決だ。

 昨年12月に甲府の練習参加で感じた可能性を、どれだけリアルにピッチで表現できるようになったか? そしてこれから半年でどこまで実力を伸ばせるか? 熊谷駿は今年の高校サッカーで一番”これから”が気になる選手だ。


執筆者紹介:大島和人
1976年生まれ。大学在学時はテレビ局のアルバイトとして海外スポーツコーナーのリサーチ、企画を担当し、スポーツ報道の楽しさと難しさを知る。早稲田大卒業後は外資系損保に就職し、一ファンとして現場に足を運んできたが、2010年からライター活動を開始。育成年代はもちろんヴァンフォーレ甲府、FC町田ゼルビアといったJクラブを取材している。野球、ラグビー、バスケットなどの現場にも足を運び、過去5年間の総観戦数は約1800試合。
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