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[総体]ユース取材ライター陣が推薦する「全国総体一押し選手」vol.5:市立船橋DF藤井拓

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平成26年度全国高校総体「煌(きら)めく青春 南関東総体2014」サッカー競技
特集企画「ユース取材ライター陣が推薦する『全国総体一押し選手』」
第5回:文・平野貴也


 連覇を狙う市立船橋高の「ピッチ上の指揮官」の戦いに期待したい。

 主将を務める藤井拓は、2年生だった昨年にダブルボランチの一角として全国優勝に貢献している。ボール扱い、競り合い、戦術理解とトータルにバランスの取れた選手だ。取材に同行したカメラマンが「オレはアイツのファンだ」と言っていたことがあったが、攻撃で局面を変えたいとき、守備でカバーがほしいときにさっと現れる、気が利くタイプだ。

 昨シーズンの序盤に、参考にしている選手として日本代表の主将である長谷部誠を挙げたのは、うなずけるチョイスだった。最高学年を迎えた今季は、ポジションを最後列に移してチーム全体を動かす役を任された。バランスの良いプレーもさることながら、藤井の最たる才能は、高校年代では稀有な戦術眼とリーダーシップにある。練習中に紅白戦を行えば、朝岡隆蔵監督よりも早く、同じ指摘を仲間にしている姿がある。そのため、朝岡監督も「監督がもう一人いるから楽」と言うほどだ。

 今季のチームは3バックの前にひし形の中盤を組み、ワイドアタッカーと1人のトップを置く「3-6-1」が基本布陣。個人の能力を引き上げるために採用されている一面があるが、守備時にはアンカーの脇を使われやすく、カバーやスライドの意識が求められる。その中で藤井の的確なコーチングは、チームを助け続けている。また、試合中でも相手の動きを冷静に分析している。序盤にプレッシャーをかけてきた相手に対して積極的にロングパスを飛ばして背後を狙う試合があったが、相手のプレスが止まるとすぐに「相手が来なくなったんだから(ショートパスを)つなげ」と的確に指示を飛ばした。戦術の遂行力が高い選手は高校年代でも珍しくないが、戦術の進行具合を確認しながらプレーできる選手は多くない。後進の選手には参考にしてもらいたいプレーヤーだ。

 昨年から有望株として注目を集めてきた選手だが、どうやら彼がサッカーで大きな輝きを放つのは今年で最後になりそうだ。強豪と呼ばれる大学への進学をやめ、両親に倣って医学の道を歩むことを決意。「かなり迷った。大学までサッカーをやってからでも……と考えたこともあった。でも、それでは(医学の道を進むには)遅いと思った」と覚悟を固めた。サッカーを楽しむこと自体は続けていきたいと言うが、最高学年で迎える今季の高校サッカーは彼にとって一つの集大成となる。そうした意味でも、今大会の注目選手として名を挙げたい。ペースを握った時間に隙をなくし、苦しい時間に逆転の策を練る。市立船橋が連覇を達成するには、この男の存在が欠かせない。


執筆者紹介:平野貴也
1979年生まれ。東京都出身。専修大卒業後、スポーツナビで編集記者。当初は1カ月のアルバイト契約だったが、最終的には社員となり計6年半居座った。2008年に独立し、フリーライターとして育成年代のサッカーを中心に取材。ゲキサカでは、2012年から全国自衛隊サッカーのレポートも始めた。「熱い試合」以外は興味なし。

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【特設ページ】高校総体2014

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