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[MOM1096]野洲FW村上魁(2年)_セクシー軍団の最前線に異能の才

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[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[8.2 全国高校総体1回戦 野洲高 1-1(PK5-4)開志学園JSC高 韮崎市営総合運動場]

 キックオフで味方が軽くタッチしたボールを、野洲高(滋賀)の10番がいきなりドリブルで動かし始めた。“セクシーフットボール”を標ぼうする野洲の最前線に配された異能のドリブラー、2年生の村上魁だ。鋭く切り返すわけではない。スペースに素早く運ぶという形でもない。

 体の強さでゴリゴリと進むわけでもない。細かいタッチでボールを触り、いつ方向転換するか分からないまま次々に相手を置き去りにしている独特のドリブルが魅力的だ。前半23分にドリブルから浮き球のラストパスでチャンスメーク。32分にも同様に好機を演出した。村上は「ドリをすれば相手が来る。そのスペースにパスを出したら上手く行った」といたずらっぽく笑った。

 圧巻だったのは後半12分のプレーだ。ハーフウェーライン付近でパスを受けた村上は、相手チームで最もタイトな守備を見せていた開志学園JSC高の伊藤大貴を振り切ると、さほどスピードを上げるわけでもないまま、敵陣の深くまでたった一人でボールを運んでシュートに持ち込んだ。開志学園イレブンの表情が変わったのは明らかだった。「あいつにボールを持たれたら取れない」という恐怖感を植え付けるには十分なインパクトのあるプレーだった。結局、自ら得点を奪うことはなく、チームはPK戦での勝利となったが、村上は2本目を蹴り、左隅の厳しいコースにすんなりとシュートを決めてみせるなど、強心臓ぶりも発揮した。山本佳司監督は「異彩を放つ逸材。間違いなく、今年、来年の野洲の看板になる選手。どんな相手も怖がらずに仕掛けられる、遊んでいるところがすごい」と大きな期待をかけている。

 大阪府出身だが、父親の勧めで滋賀に拠点を置くセゾンFCに入団。中学卒業前の春休みから野洲の練習に参加していたが、その頃からドリブルの技術は群を抜いていたという。主将の小倉将司は「アイツ、すごいっすよ。なんか(守備側が)取れそうやのに、全部引きずっていってしまう。中3で来たときに、高3のAチームを相手にしてもあんな感じやった。スピードに乗っても、乗らなくても変わらない」と普段は生意気だという後輩が見せる異次元のプレーに首をかしげた。当時はドリブルしかなかったというプレースタイルにも変化が生まれ、この日はパスで多くのチャンスを作り出した。惜しまれるのはシュートシーンでは力がなかったことだ。「シュートは下手くそなんで、もっと練習したいと思う」と話す村上は、164cmの小柄な体格。シュート力まで求めるのは酷だが、この男なら一人で試合を決めてしまうのではないかと思えてくる。

 高校総体は昨年に続いて2度目の出場。「いろんな人が見に来ている大会。活躍したら声がかかって良いところに行けるかもしれない。だから楽しみにしてきた大会」と村上は言う。すでに野洲を見た人の記憶には確実に残っている選手だが、この大会を全国区となるきっかけとしたいところだ。

(写真協力『高校サッカー年鑑』) 

(取材・文 平野貴也)
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