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[MOM1128]市立船橋DF藤井拓(3年)_「後ろで必ず必要」なリーダーシップと読む力

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[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[9.20 高円宮杯プレミアリーグEAST第14節 市立船橋高 1-1 流通経済大柏高 グラスポ]

 昨年、夏の高校日本一に輝いたチームではボランチとしてインパクトあるプレーを見せていた。今年はチーム事情のため、ポジションは3バックの中央やこの日務めた4バックのCB。決してスピードのある選手ではなく、朝岡隆蔵監督も「CBの人間ではない」と認める。それでも指揮官が「藤井のリーダーシップとゲームを読む力は後ろで必ず必要」と語り、その期待に応えるようにディフェンスラインで見せているクオリティの高さは市立船橋高の勝利に欠かせない。名門の頭脳派CB藤井拓主将(3年)が流通経済大柏高とのライバル対決において、攻守両面で存在感を放った。

 この日、マッチアップした相手はプロ入りが濃厚となっている注目選手・小川諒也。こちらは本来DFだが、抜群のスピードを持つ“大型アタッカー”でもある小川との駆け引きで、藤井は相手をスピードに乗らせない。「最初に相手の走るコースに身体を入れることはずっと意識していた。裏取ってくる回数が多かったので、走る瞬間にファーストコンタクトを入れて、走らせないようにして、自分の遠くから出て(パートナーの)白井のことしか見ていない時はオフサイドトラップかけたり、冷静にできたと思います」。混戦から抜け出されるシーンもあったが、読みと動き出し速く間合いを詰めて1対1を制し、ラインコントロールも巧み、そして空中戦でも力を発揮していた藤井の存在は非常に大きかった。

 加えて攻撃面だ。最終ラインから“司令塔”としてグラウンダーの縦パスを次々と入れる藤井を対戦相手は常に警戒して潰しに来る。この日も流経大柏は藤井のキックを“消し”に来ていたが、背番号10のCBはその中でも長短のボールを通して局面を変えてしまう。DFを務めていることでゴールへの距離は遠くなっているが、それでも相手の急所へ難易度の高いパスを通す藤井の怖さは変わらない。1点を追う後半14分には右サイド後方から対角線上のスペースに位置する左MF小林瑞知の足下へライナー性のボールを通す。一瞬で変わった局面。これを受けた小林が一気にPAへ持ち込んでシュートを放つと、こぼれ球をMF古屋誠志郎が押し込んで同点ゴールが生まれた。「アカデミー戦とヴェルディ戦上手くいって、上手く崩せるという感覚をみんな持ってしまって、足元足元になってしまっていた。自分たちのチームは走らないと勝てない。縦パスだったりを相手がパワー持って奪いに来ていたので、相手の矢印を後ろ向きにさせたかった」。狙い通りのパスが起点となり、値千金のゴールが生まれた。

 プロ入りを狙うだけのポテンシャルを秘める注目選手。名門・市船のキャプテンマークを巻く藤井は選手権のヒーロー候補のひとりだが、日本一という夢と同時に自身の将来の夢のために勉強に励んでいる。「部活がある時は(帰宅が)9時過ぎなので10時過ぎくらいからやっていますけど、土日は(試合後などに)塾へ行っています。今年はサッカー優先です」。両親は心臓外科と皮膚科の医師。藤井はサッカーを通して接してきた人たちとの繋がりを活かすため、整形外科の医師になることを目指しているという。Jリーガーを何人も輩出してきた名門サッカー部から医学の道へ。ただ、現在は何よりサッカーに懸けている。「選手権はもちろん千葉優勝して全国でも優勝狙っていきます。プレミアは残留。そして選手権は優勝です」

 この日は試合終了間際に、競り合いで相手と交錯して転倒。その際に負傷した左手首に大怪我を負った疑いがある。昨年は選手権予選準決勝で左肩に重傷を負い、決勝を欠場。「選手権には影響させたくはないんですけど。去年の経験があるので。あれよりはまあいいです」。利き手と逆側で勉強には特別大きな影響はない模様だが、高校サッカー生活の集大成となる選手権は負傷とともに戦う試練の大会になりそうだ。名門にとって「必ず必要」なリーダーシップと読む力を持つ藤井。怪我を乗り越えて目標の選手権日本一、そしてプレミアリーグ残留へ導く。

(取材・文 吉田太郎)

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