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[国体少年男子]「彼らは素晴らしい選手」個性磨いた神奈川県が5年ぶりの全国制覇!

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[10.21 国体少年男子決勝 神奈川県 1-0 群馬県 雲仙市国見総合運動公園多目的芝生広場]

 第69回国民体育大会「長崎がんばらんば国体2014」サッカー競技少年男子は21日、決勝を行い、神奈川県が前半8分にFW渡辺力樹(横浜FMユース、1年)の決めた1点によって1-0で勝利。5年ぶり5回目の全国制覇を果たした。

 AFC U-16選手権日本代表でもある神奈川MF田中碧(川崎U-18、1年)が「日本で一番いいサッカーできたと思います」と胸を張った。そして「上手い選手が集まったからできたサッカーだった。自分たちのサッカーがどれだけ通用するか試せたし、それができたことが優勝に繋がったと思います。みんなのおかげです」。優勝を決めたイレブンは試合後の整列に向かう前に、後半31分に2枚目の警告を受けて退場した田中の下へ駆け寄り、次々と声をかける。「碧!ナイス!ナイス!」。肩を震わせ、目を真っ赤にして喜ぶ田中、そして神奈川イレブン。準決勝まで相手を大きく上回るシュート数、決定機の数など“横綱相撲”をとって勝ち上がってきた神奈川は、1人少なくなっても状況に応じて勝ち切る術と強い結束力を持っていた。

「個のところしかやっていない」と神奈川の選手たちを育ててきた山本義弘監督(川崎市立橘高)は、「チームに貢献して、ムードも、プレーも引っ張ってくれた碧がああいう形で退場になったら逆に残った選手たちが集中したかなと。10人になったことでラスト5分くらいやることがはっきりした。そういう賢さもついているチームなので。数的不利なら何をするか、ゲームの流れとか、人数とかそういうところも含めて我々としては準備をしてきたし、言わなくてもパッパッと反応出来るそういう個人たちをつくってきたつもり。彼らは素晴らしい選手です」と目を細めていた。

 関東勢対決となったファイナル。4-5-1システムの神奈川はAFC U-16選手権日本代表GK千田奎斗主将(横浜FMユース、1年)、4バックは右から常本佳吾(横浜FMユース、1年)、CB有馬弦希(横浜FMユース、1年)、CB板倉洸(横浜FMユース、1年)、平澤拓巳(横浜FMユース、1年)。中盤は田中とMF齊藤未月(湘南ユース、1年)のダブルボランチでトップ下がAFC U-16選手権日本代表MF渡辺皓太(東京Vユース、1年)。そして右MF西川公基(桐光学園高1年)、左MFは今大会4戦6発の服部剛大(横浜FCユース、1年)、1トップは渡辺力が務めた。

 一方の群馬は4-4-2システムでGK平田陸(前橋育英高2年)、4バックは右から萩原大河(前橋育英高2年)、浅賀祐太(前橋育英高1年)、田沼和樹(桐生一高1年)、綿引康(前橋育英高2年)。中盤は大黒柱のMF尾ノ上幸生主将(前橋育英高2年)と大塚諒(前橋育英高1年)のダブルボランチで右MF佐藤誠司(前橋育英高2年)、左MF須藤祐(前橋育英高2年)。そしてFW荒木慶彦(前橋育英高2年)とFW池田啓佑(前橋育英高1年)が2トップに構えた。

 立ち上がりからいきなり互いにシュートシーンをつくり合った。群馬は1分に池田が右足シュートを放つと、7分にも荒木がターンから左足を振りぬく。対する東京も2分に左サイドを切れ込んだ渡辺皓から渡辺力を経由して最後は服部がフィニッシュ。5分にも右CKの流れから板倉がヘディングシュートを放った。そして8分に早くもスコアが動く。神奈川は左サイドからPA内の深い位置までボールを運ぶと、ゴールライン際でルックアップした渡辺力が選択したのはクロスではなく、右足シュート。「クロス考えていたんですけど、(ゴール前に誰も)いねぇ。打とう!」と判断良くインフロントにかけて放った右足シュートは、ニアサイドを抜けてゴールネットへ吸い込まれた。

 渡辺力の技ありシュートで先制した神奈川は、さらに服部や渡辺皓がシュートシーンをつくり出す。ボールを奪ったら、正確なパスを繋ぎながら中盤、SBがどんどん前に出てくる神奈川。群馬も櫻井勉監督(前橋育英高)が「相手がマイボールになった時に出てくるので、逆に取って前に出たいというのがあった」というように、ボールを奪い返すとすぐさま仕掛けて攻め返す。キレのある動きを見せる佐藤がカウンターから2度、3度と右サイドを攻略。後半開始からは準決勝で同点ゴールを決めているMF高沢颯(前橋育英高1年)、同11分にはFW吾妻怜(前橋育英高1年)を投入して反撃のギアを上げた。

 群馬は浅賀と田沼の両CBを中心に相手の攻撃を良く跳ね返し、左右両足のキックで展開する尾ノ上を軸にボールをサイド、そして前線へと運んでいく。ただ、山本監督が「群馬さんも粘り強く勝ち上がってきている。そういうストロングの部分がある。我々のストロングの部分もあるので、そのストロングの部分を出せと。個人としてのストロング、チームとしてのストロングの部分を出せと(伝えてきた)」という神奈川は後半も自慢の攻撃力で決定機をつくり出す。19分に右サイドを駆け上がった常本の折り返しを服部が決定的な右足シュート。21分には平澤が左サイドから出したラストパスを田中が左足ダイレクトで合わせる。ただ、いずれもシュート精度を欠いて試合を決定づけることができない。

 逆に群馬は21分、交代出場ながら2試合連続で決勝点を奪っている「切り札」FW落合太輝(桐生一高1年)を投入。その落合は27分、右アーリークロスからDFとのスピード勝負を挑んで左足を振りぬく。だが神奈川は最後までDFが身体を寄せ続けて力のあるシュートを打たせない。神奈川は29分に西川に代えてMF石原広教(湘南ユース、1年)を投入。だが31分に中盤の柱である田中が2枚目の警告を受けて退場してしまった。数的優位を得て勢いづいた群馬は、直後の右FKを尾ノ上が蹴り込むと、神奈川DFのクリアボールがあわやオウンゴールに。3分間が表示されたアディショナルタイムには「ここからだぞ!」の声の中、力を振り絞って神奈川ゴールを攻め、神奈川のカウンターを受けても身体を張ってシュートまで持ち込ませない。だが37分に綿引の左クロスがファーサイドの吾妻にまで通ったが、山本監督が「(攻撃力が際立つが)彼らは実はGK中心に粘り強い守備ができる子たちなんです。(1点を争う展開に)そうなっても負けません」と説明する神奈川はMF服部の渾身の守備によってシュートを打たせず。直後に試合終了の笛が鳴り響いた。

 神奈川の主将を務めた千田は「みんなリーダーシップを持っていて、オレは後ろから見ていて声をかけないといけないですけど、オレがCBに声をかけて、CBがその一個前に声をかけて、CBがボランチにかけた声をまた一個前にかける。全員がリーダーシップをとってやっていたのが良かったと思う」。神奈川は個々の技術に優れているだけでなく、リーダーの集まりでもあった。神奈川は神奈川大や桐蔭横浜大といった県内の大学生たちと練習試合を重ねるなど、トレセンでは積極的に個の部分を磨いてきた。山本監督は「去年の段階は高校生と十分にできるようにならなければおかしいし、高校生になったら大学生相手に主導権を握れるようになったり、やらないと日本一は獲れないというつもりでやっていた。彼らもそのつもりでやっていた。(大学生相手に)主導権は握れていなかったけれど、それでも日本一を獲れました(微笑)」

 この後は各チームに戻り、県内のライバルとして切磋琢磨する。渡辺力は「このチームなら(全国制覇)できると思っていた。ここ(日本一)を目指して練習してきた。(今後)高いレベルを目指して練習して。(神奈川県選抜の仲間とは)敵になっちゃうけれどデカい舞台でまた会えたらいい」。目標はJリーグ、そして日本代表。神奈川の各選手は磨いてきた個性をまだまだ磨いて将来、光らせる。

(取材・文 吉田太郎)
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