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[選手権]“狂うほど”の想いと“プロ並み”の走力強化、流経大柏が日本一へ挑戦

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 12月に入り、流通経済大柏高(千葉)のサッカー部グラウンドには本田裕一郎監督からのメッセージが掲げられていた。ゴールよりも大きなサイズの横断幕に記されたメッセージは「諸君 往け」で始まり、「失敗の連続でいい 執念をもって続けよ 想いの限り狂うほど 諸君は必ず何かを 成し遂げる 諸君 往け」と綴られている。07年度の全国高校選手権や昨年度のプレミアリーグチャンピオンシップで流経大柏を日本一へ導いている名将は、幕末に活躍した山縣狂介(山縣有朋)らが名に入れた「狂」という文字を計り知れないほどの強い想いと重ねた。「『キチガイだよ、アイツは』と言われるくらいの想いがないとダメじゃないのかと。何でもね、サッカーに限らず」。その“狂うほど”の想いが、流経大柏の強さの源になる。

 12月30日に開幕する第93回全国高校サッカー選手権に4年ぶりに出場する流経大柏は、優勝候補の一角だ。全国最激戦区と言える千葉県予選では11年度全国王者の市立船橋高に0-2から大逆転するなど劇的勝利の連続。全国屈指の選手層を持つ名門は底力を見せつけた。流経大柏は全国高校総体への連続出場記録が11で途絶えるなど成績の出なかった今夏以降、練習メニューをガラリと変え、「できるまでやらせていた」(本田監督)トレーニングを5分刻みで次々と変えるメニュー構成に変更した。練習の合間は常にダッシュ。無駄にする時間は全くない。CB山田健人(3年)が「これまでは練習時間が長くて、練習の中で集中力が切れたりしていた。でも今は練習間の移動も速くなったんですよ。それが試合の中の切り替えの速さにもなっています」と説明するように、試合での切り替えが速くなり、集中力も増した。そして驚くようなゴールや、微妙な判定のPK獲得など運を引き寄せたことも「練習から来たものかな」と名将に言わしめる。それほど充実した毎日が、チームに実力と運ももたらした。

 その流経大柏は、選手権全国大会へ向けて“プロ並み”のトレーニングでまた強化されてきた。屈辱の夏に実施された3部練習より「キツかった」と選手たちが振り返る波崎(茨城県)での2部練習。「どんなことやっているのか教えてと。2日くらい来てくれたんですよ」という本田監督は、J1昇格の松本山雅FCに所属するOBのDF飯田真輝の協力を得て、ともに運動量豊富なサッカーを展開する松本や湘南ベルマーレが取り入れているというレベルの走力強化を実行した。50mを8秒以内で走り、24秒の休憩後に16秒以内で100m走、48秒の休憩後に24秒以内で150m走・・・というようにその後200、250、300mと走るインターバル走を4セット行う。「これプロでやっているんだよ。オマエたち、年齢的にはもうプロだよ。こんなことできなきゃダメだ」と言う指揮官、“プロ並み”のトレーニングによって選手たちは徹底的に磨かれた。F東京内定のDF小川諒也やMF渋谷峻二郎(ともに3年)はそのメニューを設定タイム内で完走して見せるなど、選手たちはやり抜いた自信も掴んでいる。

「ボール持って初めてサッカーできるんだからさ。鬼ごっこで追っかけられるのが一番嫌だからね。ボールは一個しかないから、そのボールをいかに早く自分たちのものにするか」(本田監督)。強化された運動量によって、全国大会では相手を飲み込むようなハイプレスがまた進化を遂げているはずだ。チームを立て直す原動力となったCB廣瀧直矢や山田、そしてMF浅沼拓己とMF澤田篤樹のボランチコンビ、左SB大竹陸(全て3年)らの運動量と頑張り。そして小川やMF相澤祥太、MF久保和己、FW高沢優也、FW福井崇志(全て3年)といった試合を決める存在もチームのために走って勝利を引き寄せる構えだ。予選でやや目立った失点を減らさなければならないが、「現時点でのサッカーは走ったチームが勝ちですね」という本田監督の下で走り勝つ準備してきた名門が7年ぶりの全国制覇を勝ち取る可能性は十分にある。

 選手たちにはどこよりも厳しい練習に、執念を持って取り組んできた自負がある。近年、高体連を代表する存在となっている強豪は総体予選での敗戦からプライドを持って必死に立て直してきた。小川は「ずっとインハイは11年連続で出ていて、そこを落としてしまったことでスタッフからも相当言われましたし、流経の名を汚してしまったという思いがあった。このまま終わったら流経の最悪の代と言われてしまうと」。名門の苦悩。ただ、サッカーに懸けてきた選手たちは「どこにも負けたくない」という思いで走り続けた。キャプテンマークを巻く廣瀧は「『やるしかない』というのはみんな口癖のように言っていた」。当時はもう、ひたむきにやり続けるだけだった。

 久保は「夏、負けて3部練だったり、他のチームよりも間違いなくキツイ練習をやってきたので、負けられないというプライドがあった。『絶対俺らの方が走り勝てる』とプライドもある」。注目集まる選手権の全国大会で自分たちがやってきたことを出し切ること。それができれば自ずと頂点に近づくことができる――。そう信じている。廣瀧は「3年間厳しいことをやっているつもりなので、やってきたことを証明して、自分たちが一番努力してきたんだということを証明したいですね。メンバーもたくさんいますし、その中でメンバー争いもしてきた。どの高校よりも自信あります」。どこにも負けない日々を送ってきたことを信じ、作陽高(岡山)との強豪対決となった初戦を突破して「流経は日本一を獲れるということを見せたい」(高沢)という目標へ向けて一歩ずつ歩みを進めて行く。

(取材・文 吉田太郎)
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