beacon

昨シーズン出場4分のカズのホーム2試合連続ゴールは、なぜ生まれたか

このエントリーをはてなブックマークに追加

[4.19 J2第8節 横浜FC2-2長崎 ニッパ球]

 2014シーズンは横浜FCのFW三浦知良にとって、悔しいシーズンだった。出場した2試合いずれも途中出場、合計出場時間はわずか4分に留まった。しかし、2015シーズン、指揮官が山口素弘監督からミロシュ・ルス監督に代わると、先発に定着。8試合中6試合に先発出場し、5日の磐田戦(2-3)、19日の長崎戦(2-2)とホームゲームでは2試合連続で得点を挙げた。

 5日の磐田戦でDFに競り勝つ打点の高いヘッドでゴールネットを揺らしたカズは、長崎戦でもヘディングでゴールを記録。2013シーズン以来の1シーズン2得点目を挙げ、ホームゲーム2試合連続ゴールは実に10年ぶりだ。

 昨シーズン、カズにゴールへのこだわりについて話を聞いたとき、「自分は、もともとストライカーの適性だと思っていない」と言われて驚いた。日本代表で歴代2位となる55ゴールを記録しているカズだが、たしかにブラジル時代は左ウイングを務めるなど、チャンスメークが主な役割だった。日本に帰国後、ストライカーとして、プレースタイルを変更していった過去がある。

 山口監督が率いていた昨シーズンまで、横浜FCは1トップの布陣を採用しており、カズも2列目でプレーすることが多かった。そのためか、普段の発言から得点のこと以上に、攻撃の組み立てやチャンスメークについて話していた。一方のミロシュ・ルス監督は2トップを採用し、カズをFWで起用している。

 長崎戦後、カズは「意識的にゴールに向かおうという気持ちは、ここ数年では一番強く持っています。前に行こう、前に行こう、ゴール前に入って行こう、入って行こうと思っています」と、できるだけゴールに近いPA内でプレーをしようとしていることを明かした。

 監督が代わったこと、また、最前線のターゲットとなるFW大久保哲哉が復帰したことで、横浜FCの戦い方は変わった。カズに求められることも変化している。その要求に応えているカズは、「シンプルにプレーすること」が、ゴール前での決定力を維持する上でも重要だと言う。

「周りには動ける、スピードのある人間もいます。ポストプレーできるジャンボ(大久保哲哉)もいるので、そういう選手を少しでも使って、自分はペナルティーエリア内に入って行こうと思っています。これは全員がですが、監督から常に『シンプルにやれ』と言われているので。その中でも、僕は特にシンプルにやらないと、そこで体力を使ってゴール前に行けないということが一番良くないので。シンプルにやって、PAの中に入っていくのが、一番ゴールを取る上で有効だと思っています」

 また、年齢からくる自身の変化も、フィニッシャーへの再転向を後押ししているようだ。カズはこれまで年齢からくる衰えについて、ほとんど口にしてこなかった。しかし、この日は「あまり、年齢のことだったり、肉体の衰えは自分でいうべきではないかもしれない」と前置きをしてから、「でも、自分で自覚をしながらやらないといけない。それは28歳の選手とは、(年齢が)20歳違う。20代前半の選手とは、それ以上の差がある。スピードという面では、やっぱり勝てませんから」と、本音をこぼした。

 そして、年齢による衰えを初めて感じてから、約18年間、肉体的な衰えと向き合ってきたことを明かしている。

「一番最初に(肉体的な衰えを) 感じたのは、30歳か31歳のとき。それからは、ずっと体と対話しながらやってきました。30歳で最初(の自覚)があって、37歳くらいでもう一回あって、42歳であって、また今48歳で感じるものはありますけどね」。そう言ったカズは、ふと「48歳っていうのも、もう面倒くさいから、50歳って書いていいですよ。中途半端だから(笑)。(チーム広報に向かって)もう50歳でいいよね? 48歳だと中途半端だし、四捨五入して50歳の方がいいでしょ? 早く50歳になりたいです」と言い、重い空気になりかけた報道陣を笑わせた。

「スピードという面では勝てない」だからこそ、その他の面で勝負をしている。「考えるスピード、ポジショニング、一瞬のスピード、ペナルティーエリア内での駆け引き。そういうところで勝負をしないといけない。20メートル、30メートルで競走したら(若い選手には)勝てないから、2メートル、3メートル、5メートルくらいの範囲で勝負しながら、経験を活かしながらやる。それには、今日のアシストしてくれたジャンボだったり、仲間の力も借りないといけない。そういういろいろな駆け引き、考えるスピード、ポジショニングで、良い結果が出ているのではないかなと思います」。

 チームメイトの助けが必要と、カズは言うが、実際に彼らは献身的にプレーしている。象徴的なのが、35歳と自身もベテランの域に入っている大久保だ。最前線を走り続けながら攻撃の基準点にもなり、この日もカズのゴールをアシストした。中盤以下の選手たちもハードワークを続けているが、その消耗は小さくない。磐田戦、長崎戦と、カズのゴールでリードを得ながらも、時間を追うごとに押し込まれて失点を喫したのは、決して偶然ではないだろう。

 今後の連戦や暑さが厳しくなってきたときを含め、リードした際に、どのようにゲームを進めていくのか。それは、今シーズンの横浜FCの順位を左右する大きなポイントだ。

 同時に、カズが出場できない試合も出てくるはず。「開幕からこれだけコンスタントに出て、平均出場時間も70分近くやっている。こういうことは(近年)なかったので、もしかしたらどこかで休まないといけないかなとも思います。1年あるシーズンを考えたら、やっぱり開幕のときよりも少しずつ体は疲れを感じていますし、もしかしたらどこかで飛ばさないといけないときが来るかもしれません」とカズは言い、「見えないところで疲労は溜まってきていますし、負担も大きくなっているのは、正直、感じている部分もあるので。これはやっぱりしょうがないですね。本当はずっと出たいですけど、良いパフォーマンスを続けるためには休むことも必要じゃないかなと思っています」と、シーズンを通して試合に出続けることが難しいだろうと口にした。フィニッシュのうまさでは、右に出るものがいないカズを欠くときにどうするかのプランBも必要だろう。

 監督から求められる役割の変更、カズ自身の工夫、チームメイトの献身。さまざまな要素があって生まれたカズのホーム2試合連続ゴール。得点後のカズダンスについて、「(踊ったら)勝てないんでね。次はやらないようにしようかな…。勝つまで封印しようかな」と、冗談っぽく話したが、カズのゴールを勝利、J1昇格といった大きなものにつなげるためには、まだまだ課題が残されている。

(取材・文 河合拓)

「ゲキサカ」ショート動画

TOP