beacon

会社員からJ2戦士へ…値千金の同点弾、金沢FW辻「元同僚からメールがたくさんきた」

このエントリーをはてなブックマークに追加

[5.17 J2第14節 千葉 1-1 金沢 フクアリ]

 わずか3年前まで、証券会社に勤務しながらサッカーをしていた。しかし今では、当時から目標と公言していたJリーガーとなった。千葉戦の後半アディショナルタイムに同点ゴールを叩き込んだツエーゲン金沢FW辻正男は、「この一瞬の喜びのために練習を積み重ねてきたと思えました」と自身のJ2初ゴールを感慨深げに振り返った。

 後半37分、4試合ぶりに辻がピッチに送り込まれる。与えられた時間はわずかに8分。しかし、同点に追い付くために前線で精力的に動き回ると、後半アディショナルタイムに大仕事をやってのける。相手のクリアボールを拾ったDF太田康介のシュートのこぼれ球に反応すると、右足で蹴り込んで値千金の同点弾を記録した。

 ゴールを決めた辻はすぐさまベンチに駆け寄り、チームメイトと喜びを分かち合う。「リハビリを1年以上続けていたので、トレーナーへの思いや、チャンスを与えてくれた(森下仁之)監督への思いがありました。もちろんチームメイトへの感謝の気持ちがあったので、その気持ちを込めてベンチに走りました」と喜びを爆発させた。

 決して、順風満帆なサッカー人生ではなかった。09年に法政大から当時関東1部リーグに所属していたY.S.C.C.に加入したものの、練習が行われる時間までは横浜市内のスーパーでアルバイトをしていた。そして、「年齢を考えるとプロへの道は厳しいかもしれないし、人間としての幅を広げなければいけないと思った」と10年から都内の証券会社に入社した。

 日中には社員として仕事をこなし、夜はサッカーに汗を流す。会社からサポートを受けながらY.S.C.C.でサッカーを続けると、12年には大きな結果を残した。JFLで20ゴールを挙げて得点王に輝くだけでなく、ベストイレブンに新人賞と個人三冠を受賞。当時、辻は「会社への恩を少しでも返せたと思います」と満面の笑みを見せていた。

 12年の活躍が認められると、翌年から鳥取へ移籍。この移籍を期に退社することとなったが、今でも元同僚との交流は続いているようだ。「今日も点が入った時間かなというタイミングで、元同僚からたくさんのメールが来ていたんです。本当にうれしくて…。会社を辞めてから、表舞台に立つまでは長かったですけど、会社の皆さんがずっと陰で応援してくれていましたし、皆さんの思いも知っていたので、何とかして良い結果を届けたいと思っていました」。

 自分がサッカーで活躍すれば、周囲の人が喜んでくれる。喜んでくれるような結果を届け続けることが、恩返しにつながると信じている。「うまく行かないときでも、支えてくれる人が必ずいるので、そういう人たちの気持ちに応えていきたい」と胸を張って答えた28歳のアタッカーは、「あきらめずに小さいことを積み重ねて、自分の持ち味をJリーグの舞台でもっともっと見せていきたい」と夢舞台でのさらなる躍動を誓った。

(取材・文 折戸岳彦)
▼関連リンク
[J2]第14節 スコア速報

TOP