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[選手権予選注目校]“強化ゼロ年目”、滋賀の歴史を変える近江

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 滋賀県で、これまでに私立高校が選手権に出場したのは2013年の綾羽高のみ。公立高校の影響が強い上、全国に出るのは草津東高、野洲高、守山北高など湖南エリアにある高校ばかり。そんな滋賀県の高校サッカーシーンに新たな息吹をもたらそうとしているのが彦根市にある私立の近江高だ。

 11度の甲子園出場経験を持つ野球部、春高バレー、インターハイともに12年連続30回の出場という金字塔を打ち立てた男子バレー部などが知られるが、これまでサッカー部の成績は振るわず。だが、2024年に開催予定の滋賀国体のメイン会場が、学校隣にある彦根総合運動場に決定したことを機に、今年から強化が始まった。

 白羽の矢が立ったのが、元Jリーガーの前田高孝氏。清水で2年間プレーした後に、シンガポールやドイツでプレー。23歳の時に教員免許を取得するため、関西学院大に進んだ異色の経歴の持ち主だ。学生生活を送る傍ら、2012年からは関西学院大のコーチとヘッドコーチを歴任し、昨年は、インカレ(全日本大学選手権)準優勝に貢献している。「新しいチャレンジがしたい」という思いを強めていたタイミングで舞い込んできたオファーは、同氏にとって願ってもないモノ。自身も彦根市に近い長浜市出身だが、2つの市が位置する湖北エリアには、サッカーが強い高校はなく、前田氏自身も高校時代は草津東まで通う日々を過ごした。「僕が生まれ育った地域から、プロになったのは僕と、一歳年下の橋本和だけ(浦和所属のDF)。“サッカー不毛の地”と言われるエリアにある高校から声をかけてもらい、自分がやらないという思いが強かった」。

 今年春に就任して、まず取り掛かったのは選手集め。湖北エリアに住む選手はもちろん、県の様々な中学生をチェックすると同時に、「湖北の子どもたちは、性格がおとなしかったり、自分を表現することが苦手」という選手たちに刺激を与えるため、サッカーだけでなく、私生活でも「ガンガンいける」県外の選手たちの勧誘も行った。声をかける際にイメージしたのは、関西学院大時代に指導したFW呉屋大翔(来季からG大阪入団内定)。「自己主張の塊」と評する彼のような選手たちが、おとなしい湖北の子どもたちとプレーすることで、化学変化が起きることを期待している。

 目指す選手の理想像も明確。「サッカーだけでなく社会に出ても、パワーのある人間でないと通用しない時代。誰でも出来る仕事は、これから機械に任せられるし、学歴がよくてもダメ。仕事や未来を自分で切り開ける子どもたちを育ててきたい」。自身は中学時代、県トレセンにすら入れなかったが、草津東でサッカーと真剣に向き合うことでプロの座を掴んだ。わずか2年で清水から戦力外通告されてからも、それは同じ。海外まで視野を広げ、プレーの場所を求めた。指導者を志してからも、サッカーへの熱は変わらない。「誰かの助けを期待するのではなく、自分が動くから、誰かが助けてくれる。自分で思いを持って行動してくれるから、誰かが手を差し伸べてくれる」。そうした選手をともに目指すため、高校サッカーに打ち込み、燃え尽きることが出来る人材を近江でも求めているという。

 現在近江にいる部員は高校からサッカーを始めた選手も多く、サッカーが楽しめれば良いという選手が多いため、今年の指導は前任である顧問の先生に任せている。選手権予選の初戦は、2011年度に選手権の代表校となった守山北高。決して楽な戦いでないことは、よく分かっている。番狂わせを目指すものの、第一目標は「今いる子たちの頑張っている姿が見られると良い」。今年は、まだ“強化ゼロ年目”という状態ではあるが、滋賀の高校サッカーを変えるだけのポテンシャルを秘めたチームであるのは間違いない。近江が踏み出す一歩目に注目だ。

(取材・文 森田将義)
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