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「なんで俺が縁の下の力持ち」…葛藤からの脱却で開花した慶應義塾大DF久保主将

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 DFというポジションが嫌な時期もあった。それでも悔しさをかみ締めて、ひたむきに取り組み続けたDFリーダーはJリーガーになるという幼い頃からの夢を実現させた。躍進をみせる今季の慶應義塾大でDF{久保飛翔(4年=済美高)は主将としてチームを牽引。活躍を認められると、来季のファジアーノ岡山入団を内定させた。

 幼い頃からJリーガーに憧れ続けてきた久保。かつてはFWとしてプロになる自分を描いていた。しかし、愛媛ジュニアユース所属時の中学3年生の冬に行われた高円宮杯U-15全日本ユース(U-15)選手権でFWからDFへコンバートされる。DFに初挑戦した当時を振り返った久保は「酷かったと思いますよ」と苦笑する。

 済美高へ進学後もDFとしてプレーすることがほとんどだったが、「高校2年生くらいまではFWがやりたかった。監督とすごいケンカとかもしましたし、『なんで俺がDFやらなきゃいけないの』くらいの勢いで思っていたので。僕も若かったので、その時期はCBに対して前向きに取り組めていなかったです」と明かす。

 花形ともいえるFWに対して、一見して地味に見えるDF。「FWが点を取ってチヤホヤされる。なんで俺がCBで縁の下の力持ちみたいな役割をしないといけないんだと内心すごく思っていたんです」と当時の心境を語った。

 しかし、高校3年間を通じてCBとしてプレーした結果、十分な自信もつき、主将としてプレーしていた久保にはCBに必要な素質である責任感やリーダーシップが誰よりも身についていた。自分自身も知らぬ間に、葛藤から脱却した先には成長が待っていたのだ。

 大学進学後、公式戦デビューとなった2年生時の前期リーグ第2節・早稲田戦は、先発するもハーフタイムで交代。「サッカーをやってきて、今まで色々な経験をして、思い出もありますけど。あれ以上に辛い経験はない」と苦笑して振り返るような試合もあった。それでも慶應義塾大の4年間で手応えをつかんだ今は、考えが180度変わったようだ。

 「今は誇りを持っていますね」とDFとしての自分に胸を張った久保は「一番面白いポジションなんじゃないかというくらいに思っています。チーム全体が見渡せて、自分が思うように周りの選手を動かして守備ができて。CKから点を取れるチャンスもありますし。すごい責任感もあるポジションで自分の性格にも向いているので」と力を込めた。

 慶應義塾大でよりフィジカルを鍛え、4年目の今季は主将として約120名の部員を率いる。責任感ある久保の人間性を象徴する出来事がある。前期リーグの第6節・明治大戦(2-1)。試合2日前の練習で脳震盪を起こした影響からメンバー入りを外れた久保は、ロッカールーム付近を何度も行き来しながら、「こういう時しか出来ないので」と笑顔でせわしなく、いつもとは違うピッチ外の“仕事”をこなしていた。

 須田芳正監督は「久保はキャプテンなのでチームをまとめる役割がある。部員が約120人いるので、全体を同じ方向に向けるというのを考えると、彼はトップチームの練習だけではなく、B・Cチ-ムの練習にも出て、指導したりしています。120人を同じベクトルに向けるために、彼は本当に一生懸命にやっていて。チームスローガンの『一丸』となって戦える集団になっているんじゃないかな」と評価を語った。

 その人間性は岡山からも高く評価されている。入団内定にあたり、クラブからは186cmの高さを生かしたヘディングの強さや対人プレーの強さはもちろんのこと、人間性の部分。中でも考えて練習へ取り組む姿勢や、試合中の辛いときにこそ声を出す姿が評価されたという。「プレーよりも人間性を評価してもらえたというのは嬉しいです」とDFは微笑んだ。

 愛媛という地でプロ入りを目指し続けていた高校時代を振り返った久保は「あまりスカウトの人とかに見てもらえる機会は少ない中で、少しでもその人たちの目に止まらないといけない。スパイクの色もできるだけ派手な色にしようと色々考えていました」と明かす。

 今回はオレンジ色にストライプ柄が目を引く、アンダーアーマー製スパイク「クラッチフィット」を履いたが、「履いた感じですごくフィット感があって。足にも合っていて。しっかりと踏ん張ることもできますし、無理な姿勢で踏ん張っても耐えてくれるスパイクですね。ボールを蹴ったときに飛んでくれるというか、インパクトもすごく良くて。足を入れた瞬間にあっ、すごくいいスパイクだなと。一気に一目惚れというか、これを履きたいなと思いました」と感想を口にした。

「FWをやっているときは軽いスパイクを好んで履いていましたけど、CBになってからは軽さとか重さよりも、プレースタイル的に踏ん張る機会が多いので。踏ん張りが利くものや、縦横無尽に走り回るプレーに適応できるものがいいと思うようになって、これはそれに適応しているなと思います」

 今季の目標を関東大学リーグ制覇に掲げる慶應義塾大。第18節を終えて、今季初の首位に立っている。「4年間、慶應義塾大でプレーしてきて、今季が優勝には一番近いかなとも思う」と手応えを語る主将だが慢心はなく、「一番危機感もある」と言う。

「チームはたしかに好調なんですけど、次で負けてしまえば優勝争いから遠ざかるかもしれないし、好調だからとチヤホヤされても、危機感のほうが強い。危機感を持って戦えているのが上手くいっている一つの要因なのかなと思います。チームメイトと話しても危機感しかないよねと。いい意味で危機感を持っている状況ですね」

 1952年大会以来となる関東大学リーグ制覇へ。慶應義塾大の荒鷲たちを久保主将が牽引していく。夢であるJリーガーとなる前に、まずは一仕事を果たすつもりだ。

(取材・文 片岡涼)
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