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[選手権予選]ゲームプランハマッた大垣工が接戦に持ち込むも、選手層の厚さ示した帝京大可児が延長戦で勝利:岐阜

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[11.3 全国高校選手権岐阜県予選準々決勝 大垣工高 2-3(延長)帝京大可児高 各務原スポーツ広場]

 第94回全国高校サッカー選手権岐阜県予選の準々決勝、帝京大可児高大垣工高との試合が11月3日に各務原スポーツ広場で行われた。一進一退の様相を見せた試合は延長戦の末、帝京大可児がMF鈴木健斗(3年)の決勝点によって3-2で勝利。11月7日に行われる準決勝へ駒を進めた。

 県内で唯一、プリンスリーグ東海に参戦している帝京大可児。対する大垣工も県1部リーグで2位という好成績だ。実力校同士の対戦は、前半から白熱した攻防が繰り広げられた。大垣工は前線からのハイプレスを実行。最前線のFW高橋陸(3年)がスピードを生かしてプレスの第一陣となり、そこに中盤を務める双子のMF山本賢(3年)とMF山本怜(3年)らが追随することで帝京大可児のポゼッションを封じに掛かる。ただし、高い位置で奪いきれない場合は自陣に下がって守備陣形を敷く柔軟性も持ち合わせていた。そうしてボールを奪うと、今度は縦に速い攻撃で相手ゴールを目指す。高橋は県1部リーグ16試合で18得点という数字を叩き出している県内屈指のストライカーだ。自慢のスピードは攻撃面でも生かされており、スペースに走りこんでボールを引き出すなど、攻撃でも先鋒となっていた。

 ポゼッションスタイルを掲げる帝京大可児はボールを保持しながら攻撃を仕掛けたいが、相手の勢いに押される形となった。それでも21分、左サイドからの折り返しを受けたMF吉澤奨(3年)がエリア外からのミドルシュートで先制点をあげる。2回戦で19点、3回戦で9点を挙げてチームが大勝した試合でゴールの無かった男の「パスを受ける前にシュートコースが見えた。立ち上がりから良くない中で決められたのはよかった」(吉澤)という今大会初得点でリードを奪う。32分には大垣工のMF松岡和弥(2年)のミドルシュートがエリア内の選手に当たってコースが変わり、GKの頭上を越えて同点となったが、帝京大可児は39分にCKからDF矢崎合(3年)がヘッドで押し込んで2-1で前半を折り返した。

 後半、先にリズムをつかんだのは、またも大垣工だった。4分にCKからネットを揺らしたが、シュート前にホールディングの反則があったとしてノーゴールに。それでも前半同様、積極的なプレッシングと奪ってからの速攻で相手ゴールを脅かす。後半途中にこう着状態となる時間帯もあったが、28分に相手FWに抜け出されたピンチをGK猩々和輝(2年)が好セーブで切り抜けて反撃の時を待った。そして33分、左サイドをドリブルで仕掛ける高橋からのパスを受けたMF今岡杏介(2年)がサイド深くまで侵入して放ったシュートがネットを揺らす。アグレッシブな姿勢を貫き続けた大垣工が再び追いついて、2-2のスコアで試合は延長戦へ突入する。

 延長戦では、互いの選手層の差が浮き彫りとなった。両チームとも中盤から前線にかけて選手交代を行ったが、リザーブにもスタメンと比べてそん色ない実力を持つ選手が控える帝京大可児に対して、大垣工は交代選手が攻撃面でチャンスを作るまでには至らない。激しくプレッシングを仕掛けるスタイル故に運動量の消耗は避けられず、延長前半3分に2-3となったスコアを、三度イーブンとする力は残されていなかった。試合後、大垣工の大野聖吾監督は「延長戦に入る前、後半で勝負を決めたかったね」と胸のうちを明かしている。

 それでも、大垣工が見せた健闘は観衆の胸を打つものだった。9月末に組み合わせが決まると、準々決勝で帝京大可児と対戦することを見越してシステムを4-2-2から4-3-3へ変更。「相手はボランチがいいので、自由にさせたらいいボールが出てくる。少しでも制限をかけたかった」(大野監督)と1か月前から準備を進めてきた。帝京大可児のダブルボランチ、MF杉原諒省(3年)とMF福田航希(2年)は攻撃の起点となる存在だ。そこで、中盤をアンカーを配置する逆三角形にして、「あの二人が(この戦い方を)支えてくれた」(大野監督)という山本賢と山本怜をマッチアップさせてパスの出所を封じる作戦に出た。

 結果、帝京大可児は多くの時間帯で持ち味であるポゼッションサッカーを展開できずに苦戦を強いられている。福田も「僕と杉原さんがボールを受ける時間が少なくなって、センターバックから大きく蹴ることが多かった。(ポゼッションスタイルの)ベースを突き詰めることができず、総力戦になってしまった」と反省を口にしている。

 大垣工はゲームプランがはまって接戦に持ち込んだが、勝利をつかむために足りなかったのはチャンスを生かしきる力か。攻守に躍動して相手の脅威となっていた高橋だが、チャンスでわずかなコントロールミスが起こるなど、得点源としての役割は果たせていない。試合終了のホイッスルが鳴り響くとピッチにうずくまり、大野監督に抱きかかえられて応援席へ挨拶に行くときも顔を上げることができなかったのは、エースとしての自覚、そして悔しさがあったからだろう。他にも涙を流す選手が多い中、大野監督は「選手権は終わった。でも、みんなの高校サッカーは終わっていないし、みんなの人生だって終わっていない。(県1部リーグの)あと2試合、後輩たちに最高の置き土産を残してやろうじゃないか」と言葉をかけた。大垣工は県1部リーグで残り2試合を残して2位につけており、勝ち点4差の首位・中京高との直接対決も残している。1位になればプリンスリーグ東海参入戦へ進むことができる。大野監督が話したように、まだ彼らの高校サッカーは終わってはいない。

 勝利した帝京大可児の志津健一監督は「まだ、昨年の良さは出せていない。選手は勝ったことはうれしいだろうが、そこ(ポゼッションスタイル)へのこだわりは他の年代より人一倍あるんです」と選手の気持ちを代弁した。攻撃が機能する時はダブルボランチの杉原や福田を含めた味方同士が適切な距離感を保ってパスを回し、時には彼らの正確なロングキックを生かした大きな展開を織り交ぜることでアクセントも作っている。だが、多くの時間では距離感が遠くなっていたり、相手のプレスでボールを失わないために大事にいこうとするあまり、適切なタイミングを逃してしまっていた。また、消耗戦に持ち込まれたことで後半から延長戦にかけては守備で「相手のランニングについていけなかったり、(ボールを持つ相手に)むやみに飛び込んではずされるシーンがあった」(志津監督)と振り返っている。

 この試合は指揮官同士の対戦という側面でも興味深いものだった。今年から帝京大可児を率いる35歳の志津監督は岐阜工高出身で、岐阜県代表が全国高校総体で初めて準優勝を達成した時の主力選手だが、その時にチームを率いていたのが大垣工の大野監督だ。楽しみにしていた恩師との初対決を終えた志津監督は「さすが大野聖吾。シンプルだけど、そつのないチームでした。正直、やられた感じしかない。でも、ここを乗り越えられたのは大きい」と話している。一発勝負のトーナメント戦で次の試合へ駒を進め、なおかつ課題を突きつけられた。自分たちが理想とするスタイルを実践する上で、何が必要なのか。それをこの試合から洗い出し、中京との準決勝に生かすことができれば、全国への道もおのずと開けてくるだろう。

(取材・文 雨堤俊祐)
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