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[選手権予選]洛北が2年ぶりの決勝進出、現校名で“最後の”選手権戦う伏見工振り切る:京都

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[11.7 全国高校選手権京都府予選準決勝 伏見工高 1-2 洛北高 西京極]

 第94回全国高校サッカー選手権京都県大会の準決勝、伏見工高と洛北高の一戦が11月7日に京都市西京極総合運動公園陸上競技場兼球技場で行われ、洛北がFW貴舩陸(3年)の2得点により2-1で勝利。2年ぶりとなる決勝進出を果たした。

 先制点は前半31分。カウンターで貴舩が自陣からドリブルで持ち込んで放ったシュートはDFに防がれるが、クリアボールを拾ったMF木村幸太(3年)とMF上崎走太(3年)とのパス交換から再び貴舩が仕掛けて左足のシュートを突き刺した。

 伏見工もすぐさま反撃に出る。37分、最終ラインからのロングフィードに反応したFW巌太斗(3年)が右サイドを突いてセンタリング。ゴール前に走りこんだMF古島蓮(2年)のジャンプはボールに届かなかったが、「僕がつぶれて、ファーサイドで味方がフリーになることは狙っていた」(古島蓮)という言葉どおり、その奥に走りこんだMF唐崎世成(3年)がカバーに来たDFを切り返してかわして右足のシュートを決めてみせた。前半は洛北がボールを持って仕掛ける場面が多く、シュート数も相手の倍となる9本を放っているが、伏見工としては想定内の展開。むしろ「もっと押し込まれるかな、と思っていた」(古島蓮)。守備で絶えてカウンターという形はできており、両チームが持ち味を発揮してハーフタイムを迎えている。
 
 後半、洛北の前田尚克監督が動く。右サイドハーフのFW秋津奏太郎に代えてMF島田潤也(3年)を投入。自ら「僕は途中からの男なんです」(島田)と話すスーパーサブがチャンスを作ったのは後半19分だった。相手DFのクリアがFW澤田健太郎(3年)に阻まれると、ボールは右サイドへ。それを拾った島田が縦に持ち出して鋭いクロスを相手GKとDFの間に供給し、走りこんだ貴舩が左足であわせて再びリードを奪う。その後、主導権は洛北が握り続ける。サイドから、中央から、攻撃を仕掛けてチャンスを量産していく。一方の伏見工は追加点こそ許さなかったが、前半と違って攻撃に転じた際に前線で起点を作れず、ボールを運べない。後半に入って、ようやくシュートを放ったのは残り5分を切ってから。左CKから、古島蓮と交代でピッチに立った双子の兄弟・MF古島海(2年)のシュートは相手DFに阻まれる。さらに今度は右CKのクリアボールを、交代出場のFW上村瑠哉(2年)がエリア外から左足で強力なシュートを放つが、ゴール前の選手に当たってGKを脅かすことはできなかった。

 勝敗を分けたのは後半のパフォーマンスの差だ。攻撃の手を緩めなかった洛北と、防戦一方となった伏見工。後者を率いる牧戸万佐夫監督は「前半は得点の形もよかった。ただ、うちの選手たちの能力からすると飛ばしすぎた」ことを敗因の一つにあげた。前半から守備で粘り強い対応を見せ、一人ではなく二人で挟み込んでボールを奪いにいく。ボールを奪えば長い距離を走ってカウンター。そうしたプレーにより運動量を消耗していった後半は前に出る勢いやプレー精度、判断力に陰りが見られた。ボールを奪う位置が自陣寄りだったことも、それに拍車をかけている。

 なぜ、前半がオーバーペースだったのか。ひとつは個の能力で勝る洛北と渡り合うには、最初からフルスロットで挑まなければならなかったこと。もう一つは準決勝という舞台、京都を代表するスタジアムである西京極での試合というシチュエーションからくる高揚感だ。「この舞台で張り切る気持ち、それが選手にとっていい緊張感になっていたが、はりきりすぎた」(牧戸監督)ことは否定できないだろう。ただし、先に述べたように洛北と渡り合うためには必要な要素であったことも事実。牧戸監督は「あそこで足がつるのは鍛えきれていないから。特に夏場、追い込みきれなかった」と悔しそうな表情を浮かべた。伏見工は02年度の第81回大会で全国大会出場を果たすなど実績があるが、近年はベスト8にすら入れないことが続いていた。入学してくるのも中学時代に実績のあるような選手は少ない。「(ここ数年は)厳しいトレーニングを課しても、やりきれないことが多かった。だから、今年は選手に合わせるというか、少し僕が目線を下げて取り組みました」(牧戸監督)。とはいえ、総体予選でベスト4に入り、選手権予選でも上を目指そうかというチームのトレーニングだ。夏を乗り越えて選手権予選に挑んだ選手たちは、厳しさと向き合いながら懸命についてきていた。ただ、それでも府内トップレベルのチームに勝つには、何かが足りなかったということだろう。

 キャプテンのDF村田光一は「思ったより、伏工(フシコウ)のサッカーができた。悔いはない」と話した。伏見工は来年度から洛陽工と統合され、京都工学院高となる。移行は段階を踏んで行われることになっており、現在の1、2年生は来年度も伏見工として活動を行う。再来年度からは伏見工が完全に無くなって、その年に最終学年を迎える生徒(現在の1年生)は京都工学院に移ることになるという。サッカー部については来年度から伏見工と洛陽工、そして京都工学院との合同チームとして公式戦に参加する予定だ。つまり、伏見工が単独で戦うのは、この選手権予選が最後だった。“最後に伏見工業の名を全国に知らしめたい”という思いは誰もが抱いていたが、かといってそれが過度のプレッシャーになることはなかったようだ。「西京極へ来れたのも13年ぶり。楽しもうと思っていました」(村田)。願いは適わなかったが、準々決勝で立命館宇治高を下すなど、伏見工としての最後の大会に華を添えるベスト4進出だった。

 一方、勝利した洛北は優勢だった後半に追加点を決められなかったのは課題だが、実力を見せ付けての決勝進出となった。ただ、前田監督は「厳しい試合だった。伏見工業はそうした(最後の大会という)思いを全てこの試合にぶつけてきた」と振り返る。実際に試合中、PK戦になれば出番となる控えGK神田翔一郎(3年)の投入準備を進めていたという。そうした相手に対して結果を残せるのは、洛北もまた、チームが一体となって今大会を勝ち進んでいるからに違いない。キャプテンの大川聡一郎(3年)は「(4回戦の)東山戦が山だった。あそこで勝てて自信がついた」。MF山岡宏明(3年)も「(ベンチ外の)1、2年も含めて、あれでチームが一つになった」と語っている。退場者を出しながらも優勝候補の一角をPK戦の末に破った試合が、今の洛北の原動力となっているのだ。

 今季は長年、チームを指導してきた山岡宏志・前監督が転任。公立校なので人事異動は避けられないとはいえ、他校の指導者たちも驚く青天の霹靂からのスタートだった。新たに就任した前田監督は、前任者のスタイルがチームに浸透していること、自身の合流が新人戦を終えた3月末からとなったことも考慮して当初は下の学年の指導に当たり、Aチームは以前から在籍して選手のこともよく把握している吾郷隆平コーチらに任していた。転機が訪れたのは6月。総体予選で久御山に1-4と大敗し、チームは自信を失いかけていた。周囲からの声や後押しもあって、そこから前田監督が本格的に指揮を執ることになる。当初は選手から反発する様子も伺えたが、夏の遠征で「失点が減っていった」(大川)など手応えを感じる試合を積み重ねていき、徐々にまとまりが出てきた。同時に右SBだった山岡をボランチへ、FWだった藤八鴻我をCBで起用するなど、「選手の持ち味をより発揮できるように」(前田監督)大胆なコンバートも実行。準決勝のスタメンの約半数が、夏以降に新たなポジションでプレーしている。紆余曲折を経てたどり着いた決勝戦の舞台。“京都橘有利”の下馬評を覆してやる――そんな雰囲気が今の洛北には充満している。

(取材・文 雨堤俊祐)

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