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[選手権予選]“3年5組“で磨かれた重圧打破と信頼、國學院久我山がPK戦制して全国へ:東京B

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[11.14 全国高校選手権東京都Bブロック決勝 帝京高 0-0(PK5-6)國學院久我山高 味フィ西]

 14日、第94回全国高校サッカー選手権東京都Bブロック決勝で帝京高國學院久我山高が激突。0-0で突入したPK戦を6-5で制した國學院久我山が3年連続となる全国選手権出場を決めた。

 今年の國學院久我山はここまで一度だけPK戦を経験していた。東京代表を決める全国高校総体予選の準決勝。その時は5人全員が決めて、見事に全国切符を勝ち獲っている。逆に言えば、今年の久我山はその5人しかPK戦を経験していない。今回も5人目までは前回と全く同じ5人の3年生がボールを蹴ることになった。「キッカーは昔から自分たちが決めていますけど、基本的には3年生が蹴るんですよね」と明かしたのは清水恭孝監督。延長も含めて100分間の終わりを告げるホイッスルが鳴った時、ピッチに立っていた3年生は7人。6人目と7人目は今年に入ってからPKを蹴ったことのない2人の3年生だったが、キャプテンの宮原直央はまったく心配していなかった。なぜならその2人も宮原と同じ『3年5組』のクラスメートだったからだ。

 ゲームがスタートすると、その構図は戦前の予想通り。ボールを動かす久我山に、きっちりブロックを敷いて耐える帝京。ただ、清水監督も「前半はボールを持てる時間が長かったと思うんですけど、フィニッシュに対しての強引さはちょっとなかったかなと思います」と認めたように、パスこそ回るもののスピードアップするポイントを創り切れず、ポゼッションがフィニッシュに繋がらない。11分には右サイドから内桶峻が折り返すも、フリーの鈴木遥太郎が放ったシュートは、帝京の右SB平井寛大がきっちりブロック。27分にも名倉巧が2人を外して枠内へシュートを収めたが、帝京のGK渡辺聖也がファインセーブで応酬。「もうちょっとシュートを振って欲しいというのが正直ありました」と清水監督も振り返った前半のチャンスはこの2本くらい。両チーム通じてシュート4本という40分間はスコアレスで折り返す。

 後半開始早々の2分にスタンドを沸かせたのはカナリア軍団。マーカーと競り合いながら浅見颯人が右スミを狙ったミドルはクロスバーを直撃。「決勝戦での緊張度で言うと、ウチの方がアガっていましたね」と日比威監督も感じていた帝京も、このワンチャンスで息を吹き返すと、途中出場の大庭健人と浅見が中央で基点を創りつつ、右サイドに張り出すキャプテンの長倉昂哉をシンプルに使う攻撃で徐々に相手陣内へ侵食。一方、「後半になるとだんだん帝京も前に出てきて、右サイドから上げて点を取ろうという意識は感じた」と宮原も話す久我山は相変わらずボールを握りながらも、シュートを打ち切れない時間が続く。27分に山本研が左から直接狙ったFKはクロスバーを叩いたが、これがようやく後半のファーストシュート。ブラスバンドがお馴染みのテーマソングを奏でる応援団の勢いにも乗せられて、帝京のイレブンも足が止まらない。35分の決定機は帝京。至近距離から大庭がヘディングを狙うも、ここは「自分がゴールマウスに立っている限りはチームの勝利に貢献することが一番重要だと思っていた」という久我山の1年生GK平田周が抜群の反応でビッグセーブ。両者譲らず。ゲームは延長戦へともつれ込むことになった。

 迎えた延長戦もペースはやや帝京に。それでも「『気持ちが折れた方が負ける』と延長戦では思っていた」という宮原の想いを久我山イレブンも共有。「ゲームを80分間、今日で言えば100分間コントロールするのは不可能だと思うので、そういう時間帯でもよく踏ん張れるようになったなと思います」と清水監督。双方が最後まで走り切った100分間でもスコアは変わらず。全国切符の行方はPK戦へと委ねられる。

 どちらも1人目が失敗して、迎えた久我山2人目は『3年5組』の鈴木遥太郎。左スミを狙ったキックは渡辺に触られたが、ポストを叩いて何とかゴールに転がり込む。3人目の野村京平、4人目の山本と続けて『3年5組』が成功し、5人目の宮原もきっちり左上スミへ成功。帝京も2人目以降は全員が確実にゴールを奪い、PK戦でもなかなか決着の時は訪れない。

 久我山6人目は小林和樹。この局面で小林は左上スミの難しいコースにシュートを突き刺す。久我山7人目は試合終了間際の100+1分に交替で入った比留間公祐。ほとんどファーストタッチに近かったはずのキックを、比留間も渡辺に触られながら左スミにねじ込んで見せる。その直後、帝京7人目のキックがクロスバーの上に外れた瞬間、久我山の選手権予選3連覇を告げるホイッスルが西が丘にこだました。

 インターハイ予選準決勝ではPK戦で勝利を収めたものの、昨年度の選手権では全国の3回戦で京都橘高にPK戦の末に敗れており、清水監督も「ウチは元々PK戦の勝率が物凄く低かったので、そういう意味ではPK戦をやりたいとはまったく思っていませんでした」と苦笑交じりに話したが、「自分たちはPK戦で負ける気はしなかったです」と胸を張った宮原は「自分たちは“5組”というスポーツクラスで、そのクラスの人は例えばPKや抽選のように、メンタル的にプレッシャーの掛かることをホームルームとかで指導してもらっているんです。2人目の鈴木のキックはポストに当たって入りましたけど、触られても入るというのはプラス思考ということを普段の生活から意識しているからだと思います」と続けて口にする。サッカー面だけではなく、日常からプレッシャーにさらされる状況を『3年5組』で意識的に経験してきたことが、この土壇場でのメンタルコントロールに大きな作用をもたらした。ちなみに唯一外した1人目のキッカーは『3年5組』ではなかったそうだが、「外しても『大丈夫、大丈夫』と笑って帰ってきました」(宮原)とのこと。決してメンタルが弱かった訳ではなさそうだ。

 前述したように3年連続で挑む全国の舞台。一昨年のチームは攻撃型で、昨年のチームは守備型と評された中で、「今年はバランス型かなと思っています」と話す野村は「このチームは自信を持つというのが課題になっていますけど、自分たちらしいサッカーをやっていければ絶対に強いので、それができれば去年や一昨年を超えられるチームになると思っています」と今年のチームへの自信を覗かせる。「したたかさや粘り強さや試合巧者ぶりがちょっとずつ出てきたかなと思います」とは清水監督。昨年と一昨年を超えたその先には、偉大な先輩たちも届かなかったまだ見ぬ頂が待ち受けている。

(取材・文 土屋雅史)

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