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全日本を牽引する、新チームのキャプテン務めた阪南大MF重廣の変化と覚悟

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[3.6 デンソーカップチャレンジ宮崎大会5・6位決定戦 全日本3-2関東B]

 今までに無い大役にめげそうなときもあった。それでも責任を持ってやりとげた今は、「楽しい大会でした」と笑顔で言い切る。MF重廣卓也(阪南大2年=広島皆実高)は全日本大学選抜の主将として、ピッチ内外で役割を全うした。

 銅メダルを獲得した昨年度のユニバーシアード競技大会。重廣は2年生でただ一人、ユニバーシアード日本代表(全日本大学選抜)メンバー入りを果たしていた。当初は「知ってる人もほとんどいないし、アウェーで辛いです」とこぼしていたが、徐々に先輩たちと打ち解けると、チームへ馴染み、戦力となった。

 そして今年に入って結成された2017年のユニバーシアードを見据えた全日本大学選抜。1・2年生を中心に編成されるなか、重廣は“ただ一人の前回大会経験者”に加え、“主将”という立場を任された。

 宮崎合宿2日目の2月16日、全日本の宮崎純一監督(青山学院大)から呼び出され、「今回のキャプテンはシゲでいくから」と伝えられた。しかし、その後にチームスタッフが選手たちを前に“キャプテンは重廣”と明言することはなく、「自分から“俺がキャプテン”とは言いにくいし、キャプテン誰なの?と言われる度にどうしようかと思ってました」と笑う。

 それでも、デンチャレ開幕前日のミーティングで、指揮官が「シゲでいく」と発表。晴れて“公認”の主将として、大会へ臨むことになった。

 しかし、待っていたのは厳しい船出だった。初戦となった北海道・東北選抜戦。先発した重廣は3-0の後半33分に交代。するとチームは重廣の交代から1分後に1点を返されると、立て続けに失点。攻守に渡る舵取り役を失い、相手の勢いに呑まれると、3-3に追いつかれ、PK戦の末にPK4-5で敗れた。重廣は「途中で交代したとか、自分がいない時間の失点とかは関係なく、出ている時間帯にもっとやるべきことがあった」と悔やむ。

 今回の選抜チームは選手たちの自主性を重視しており、ミーティングもスタッフが仕切ることはない。敗戦後の夜にも、選手主体のミーティングは行われた。「これまでは試合に負けたら何も喋らないで黙るタイプだった」という重廣だが、「キャプテンだから少し無理をするような部分はあったんですけど、責任を感じていたのでやりきることにして、話しました」と明かす。

 そんな場では挙手制のなか、ほぼ全員が発言。それぞれが全日本大学選抜への熱い思いを口にし、大学代表としてあるべき姿を語りあった。一丸となったチームは続く順位決定戦と5・6位決定戦に連勝。重廣も2連連続フル出場し、大会を2勝1敗で締めくくった。大会を終えた選手たちは「ミーティングで共通意識が生まれた」と声を揃える。

 ピッチ外でも責務を果たした重廣は、主将に就任したばかりの時を思い出しながら、「最初は俺が何かを言うと、シーン……ってなるので、これは辛いとなっていたんですけど、今はそういうのはないです」と成長ぶりを語る。チーム立ち上げから迎えた最初の大会。厳しい船出となったが、重廣主将の下、チーム全員で乗り越えると、より団結した。

 教え子の姿をスタンドから見守っていた阪南大の須佐徹太郎監督は「しっかりと自分を見せていて、ゲームに落ち着きを出しているし、動くことで活性化もさせている。なかなかキャプテンシーを発揮していたんじゃないか。しっかりやっていたと思います。攻守の貢献度が高く、素晴らしかった」と奮闘振りを称える。
 
 なお、重廣を主将に任命した理由について、宮崎監督は「前回のユニバを経験しているということもあるし、チームを引っ張る資質はあるけれど、基本的にはそういうのをあまり表に出さないタイプ。出来ればこういうことをきっかけにして、チームをまとめ、引っ張るのを表に出す選手になってほしいなと思った」と明かす。

「このチームには、何もしなくてもキャプテンっぽい雰囲気を持っていたり、チームをまとめるという子はたくさんいる。そうではなく、そうしなければいけない人がなることが大事。そういう理由です」

 指揮官の思いは重廣も理解。「僕なりに宮崎さんの思いを感じたつもりだし、前回のメンバーに入っているという以上は、前回のチームのいいところをこのチームに還元していく責任もあると思う」と話すとおりだ。監督の思いに応え、仕事を全うした。

 小学生以来となる主将という経験を経た重廣は「今回をきっかけに、もっと自分に自信を持ちたい」と言う。ユニバーシアード日本代表にも選出され、大学サッカー界の先頭集団を走るMFだが、意外にもネガディブ志向。これまでは「変に自信を持ってミスするよりも、元から自信を無くしてやって、成功したときの方が、“おっ、できるやん”ってなるので」という考え方だった。

 しかしながら、そんな考え方とも別れる時がきた。「今回の経験を自信にしたい。堂々とできたし、メンタル面も強くなったかな」と微笑む。胸を張るだけの経験は積んだはずだ。

 主将として臨んだ大会を終えたMFは今後へ向けて「キャプテンではなくても、中心になって引っ張っていきたいと思う」とキッパリ。「今回キャプテンをやったことを少しでも阪南に還元したい。この姿勢を貫いて、阪南でも引っ張っていけるように」と誓った。

 元々、内側には熱い思いや闘争心を秘めながらも、ポーカーフェイスを貫いていた重廣。しかし今大会を通じて、言葉や態度で示すという自己表現を身につけた。大学3年生になるのを前に、選手としてのステージを上げるいいきっかけになったに違いない。まだキャプテンマークに違和感があるようだが、慣れるのも時間の問題。胸を張って全日本大学選抜を率いる重廣に、迷うことなく皆がついていくはずだ。

(取材・文 片岡涼)
●第30回デンソーカップチャレンジ宮崎大会特集
●2016年全日本大学選抜特集

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