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[SEVENDAYS FOOTBALLDAY]Tリーグのススメ2016

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 日本の首都・東京。そのユースサッカーシーンでは1月の選手権で準優勝した國學院久我山高や選手権優勝6度の名門・帝京高、15年全国高校総体4強の関東一高}}、都立の雄・三鷹中等教育学校駒場高東久留米総合高など300を超える高体連加盟校に加え、FC東京東京ヴェルディFC町田ゼルビアという3つのJクラブのユースチーム、そして三菱養和SCユースや東京武蔵野シティFC U-18、FCトリプレッタユースをはじめとした街クラブの強豪たちが切磋琢磨しています。その東京のユース年代のチーム、選手を「定点観測」する(株)ジェイ・スポーツのJリーグ中継プロデューサー、土屋雅史氏の新コラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」がスタートします。Jリーグが開催されない平日、そして時に土日も高校グラウンドなどへ足を運び、取材する土屋氏に東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントを紹介してもらいます。また、時には中継と取材の両面から関わりの深いJリーグにまつわるトピックスに関しても触れつつ、サッカー自体の魅力についても伝えてもらう予定です。

 先日の高校選手権で全国準優勝に輝いた國學院久我山高の清水恭孝監督が「都県リーグで言えばもしかしたら日本で一番レベルの高いリーグなのかなと思います」と話してくれた言葉にも、頷きたくなる気持ちが大いにある。その國學院久我山が所属する『もしかしたら日本で一番レベルの高いリーグ』とは、通称“Tリーグ”。東京の2種チームからなる東京限定のリーグ戦である今シーズンのTリーグには、例年以上に注目を集める要素が揃っている。

 プレミアEASTが1校。プレミアWESTが1校。プリンス北信越が2校。プリンス関東が1校。プリンス四国が1校。そして、T1リーグが2校。これが第94回高校サッカー選手権大会で準々決勝まで進出した8校の所属リーグの内訳である。プレミアリーグ勢やプリンスリーグ勢に混じり、存在感を発揮した國學院久我山と駒澤大高の東京勢が所属しているリーグがT1リーグ。“T”とはもちろん『TOKYO』の“T”であり、4部まであるピラミッドの頂点に位置しているのがT1リーグということになる。

 ただ、選手権で躍進を遂げた2校のT1リーグにおける昨シーズンの結果は、國學院久我山が4位で駒澤大高が6位。そのリーグで他を寄せ付けずにタイトルを獲得したのは関東一高であり、こちらも昨シーズンの全国総体で清水桜が丘や大津、広島皆実などの強豪を相次いで撃破し、ベスト4まで勝ち上がった実力者である。つまり、昨シーズンのT1リーグには全国準優勝、全国ベスト4、全国ベスト8の3校が所属していたことになり、全国大会で上位に進出する高校の大半がプレミアやプリンスに主戦場を置いていることを考えれば、この結果は驚異的とも言える。

 2016年シーズンのTリーグは既に開幕している。開幕戦で名門の帝京高を3-0で撃破した試合後、駒澤大高の選手に話を聞くと、スーパーなFKを叩き込んだ左SBの村上哲は「他の県のチームも以前より結構意識するようになりましたね。他の新人戦の結果とかも見るようになったので、全国を意識できているのかなと思います」と語り、10番を背負って1ゴールを記録した矢崎一輝も「東京で一番になるというのは最低目標なので、トップレベルのチームを意識して、練習の質を上げていかないといけないと思います」と話す。そして、2人が声を揃えたのは「東福岡にリベンジしたいです」というフレーズ。0-1で惜敗した選手権の東福岡戦をピッチで経験した2人は、日本一のチームを自らの基準に置いていることが窺えた。

 それは國學院久我山の選手も同様だ。タレントを揃えるFC東京U-18(B)を逆転で下した試合後、選手権でその技術の高さから一躍脚光を浴びた名倉巧は「高校選抜で鍬先君とか藤川君と仲良くなったので、対戦するのが楽しみです」と笑いながらも、「彼らと対戦できるのはインターハイか選手権しかないので、日本一を目指す上では絶対に倒さないといけない相手です」と言い切り、1年生ながらレギュラーとして全国のファイナルを戦った上加世田達也も「選手権で対戦した中で一番強かった東福岡には、埼スタでリベンジしたいと思っています」と力強い。やはり日本一のチームを強烈に意識しながら日々のトレーニングと向き合っているようだ。

 印象的な言葉は日産スタジアムのミックスゾーンで聞いた。Jリーグの球春を告げるFUJI XEROX SUPER CUPの前座として、今回で7回目を迎えたNEXT GENERATION MATCH。日本高校サッカー選抜の一員に選出された駒澤大高の深見侑生は、この日の日産スタジアムのピッチに立った唯一のT1リーガーだった。そんな彼は駒澤大高の、そして“Tリーグ”の後輩たちにこうエールを贈ってくれている。「ウチの高校は今までだったら『東京の決勝で勝ちたい』という部分が目標だったんですけど、今年で目標とする位置のランクが1個上がったかなとは思います。これでTリーグ全体も強化されていけば、東京の高校サッカー界もどんどん強くなっていくと思うので、良い感じかなという風に思います。久我山も駒澤もそうですけど、今シーズンはTリーグから準優勝とベスト8のチームが出ましたし、他のチームの自信に繋がる部分もあると思うので、東京の高校サッカー自体がどんどん上がって行って欲しいですね」。

 選手権ベスト8へチームを導いた10番のキャプテンは、昨シーズンのT1リーグで大きな成長を遂げた選手の1人だ。リーグ開幕当初に決定機を外し続け、PKまで失敗してしまい、大きな体を丸めながら俯いていた彼の残像は、選手権で躍動した赤黒軍団のどこを探しても見当たらなかった。そして深見のように努力を積み重ねることができれば、大舞台で輝くチャンスはおそらくすべての“Tリーガー”に等しく秘められている。

 実はTリーグの“T”にはもう1つの意味が重ねられている。それは頂点を表す『TOP』という意味。Tリーグから全国のトップへ。例年以上に目線の上がった彼らの激闘から今シーズンも目が離せない。

[写真]選手権準優勝の國學院久我山などが参加している「Tリーグ」

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務し、Jリーグ中継を担当。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」



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