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大分出身・熊本育ちの筑波大MF野口、“故郷”への思いを胸に「記憶に残るゴール」

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[4.17 関東大学リーグ1部第3節 専修大1-1筑波大 味フィ西]

 故郷への思いを胸に決めた一撃は、自身の中へ深く刻まれるものとなった。様々な感情が渦巻くなかで揺らしたゴールネット。あの瞬間を一生忘れることはないだろう。筑波大のMF野口航(3年=大津高)は専修大戦に先発すると、0-0の後半2分に2戦連続となるシュートを決め、静かにガッツポーズをみせた。

 14日に熊本県を震源とする最大震度7の地震が発生。その後も最大震度6強を含む強い余震が相次ぎ、家屋の倒壊や火災が発生するなど、死者や多くの負傷者が出ている。

 野口は大分県大分市出身で大津高(熊本)育ち。今回の震災では「家族とは連絡を取って、食器が割れたくらいで大きな被害はなかったのですが、大津高の寮は結構な被害も出ているみたいです。ほとんどの友達や知り合いが避難している状況でした」という。

 安否を気遣い、“故郷”の人々と連絡を取る時間が続いたが、被災した家族や友人たちは「みんな週末に自分の試合があるのを知っていたので、『大変な状況だけど頑張って』と逆に僕が激励されました」と話すように、皆が遠く離れた地で奮闘する野口を思いやった。そんな優しさに触れ「僕が頑張らないとと強い気持ちがあった」と明かす。

「地元が地震で友達や知り合いが大変な状況でも、自分はサッカーができる状況にあるので、今日の試合はいつもとは違う特別な気持ちでした」

 また前日16日には、大津高の先輩であり、鹿島アントラーズのDF植田直通が試合後のインタビューで故郷を思って涙するシーンを目にしていた。「高校時代に一緒にプレーさせてもらった先輩だったので。あの涙を見て思うことはたくさんありました」と明かした野口は「(植田は)涙もろいけど我慢するタイプ。でもあの直通くんがあそこまでなるというのは、それぞれみんな強い気持ちがあるんだなと。やっているカテゴリーは違うけれど、自分も負けずに頑張ろうと思いました」と話す。

 故郷を含めたゆかりある地が被災するという今までに経験の無い状況。それでも一人のサッカー選手として、やるべきことは明確だった。地震関連のニュース映像などを目にするなかで不安もよぎったが、「僕だけじゃない。(地元が被災した)同じ状況の人もいたし、いつも通りに試合には入る準備をしました」とあくまでも平常心を保ち、リーグ戦へ臨んだ。

 そして迎えたこの日の一戦。4-2-3-1システムの2列目左で先発した野口は果敢に仕掛けてゴールを目指し、後半開始直後のワンチャンスを逃さなかった。

 MF西澤健太(2年=清水ユース)の右クロスからゴール前混戦。ニアサイドに飛び込んだFW中野誠也(3年=磐田U-18)が足先で触れたボール、最後は詰めた野口が「冷静にGKの位置を見て、空いているところに押し込む感じでした」とスライディング気味に右足で押し込んだ。

「素直に嬉しかった。この試合にかける思いがあったので。今までの試合のなかでも自分のなかで“記憶に残るゴール”だったと思います」

 様々な思いが渦巻くなかで決めた一撃。「得点できたのは本当に良かった」と話したMFだったが、一選手として反省も忘れず。チームは後半39分に追いつかれて1-1のドローだったことから「勝ちきれなかったのが本当に悔しい」と唇を噛んだ。

「今、自分は大学サッカーを頑張るしかないので」と表情を引き締めた野口。関東の地で戦うMFは“故郷”へ明るいニュースを届けるために、ピッチで結果を残し続ける。そのひたむきな背中は必ずや遠く離れた家族や友人の笑顔につながるはずだ。

(取材・文 片岡涼)
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