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[東福岡×NB]新たなスタート切った“赤い彗星”が示す進化と新たな伝統

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「5-0」。1976年度の首都圏開催移行後の決勝最多得点記録にはあと1点届かなかったが、東福岡高(福岡)は15年度全国高校選手権決勝で世界を沸かせた「トリックFK」でのゴールを含めて5得点。また、その守備意識の高さで國學院久我山高(東京)を無得点に封じ、17年ぶりとなる選手権制覇を5-0という衝撃的なスコアで成し遂げた。高円宮杯プレミアリーグ開幕戦(4月)でセレッソ大阪U-18(大阪)に1-6で敗れたチームが選手権日本一に輝くことをどれだけの人が予想しただろう。だが彼らはひたむきに努力し、守備力を高め、自分たちのストロングポイントを公式戦で発揮。夏には史上7度目となる全国高校総体連覇、そして冬に史上6度目となる夏冬全国連覇を達成し、高校サッカーの歴史にその名を刻んだ。

 全国2冠を達成した“赤い彗星”こと東福岡の新シーズンが、ニューバランス製の新ユニフォームとともにスタートしている。4月9日の高円宮杯プレミアリーグWEST開幕戦では優勝候補同士の一戦と目されたヴィッセル神戸U-18(兵庫)との戦いで先制されながらも3-1で逆転勝ち。すでに東福岡の新チームは新人戦県大会、九州大会で優勝しているが、注目SB小田逸稀(3年)が「着心地がいいです。これは伸びるんで、引っ張られても大丈夫」という新ユニフォームの公式戦デビュー戦を会心の白星で飾った。

 全国2冠を達成した3年生たちが卒業。新主将のCB児玉慎太郎(3年)やいずれも日本高校選抜のエースMF藤川虎太朗(3年)と攻守の要・MF鍬先祐弥(3年)、そして小田と主軸を残すものの、昨年とは選手の特長が異なり、チームの目指すサッカーもわずかに変わっている。その中で新チームは早くも強さを発揮。選手たちは高校サッカーファン、関係者にインパクトを残した昨年からさらに進化した姿を示したいという意欲、姿勢をもって日々のトレーニングに臨み、一つひとつの結果を残している。

 森重潤也監督は言う。「全国制覇っていう目標がまずベースにある中でそこにたどり着くためにどうすべきか。選手も代わっているわけで、今年の選手のストロングポイントを繋いでいかないといけない。先輩たちに全国優勝させてもらった昨年からプラスアルファーの強さ、武器を持っていなければいけないと思うし、持たなければいけないと思う。今までのベースを含めた中で大きく何かを変更する必要はないと思うけれど、ないだけじゃ勝てない。何かを変えていかないと。ウチの伝統の中でのサッカーを積み上げていかないといけない」

 昨年度の全国2冠は、それ以前の世代の選手たちが持っていた守備意識や攻守の切り替えのスピードといった課題や、伝統のサイド攻撃などの特長が積み重なり、成果として現れたものだった。今年、東福岡の選手たちは昨年の成果にあぐらを組むことなく、「去年よりももっと自分たちが要求しあわないといけない」(FW藤井一輝)と1パーセントでもコンマ数パーセントでも積み重ねることを目指して個々のストロングポイントを磨き、それをグループ、チームで発揮するための努力を続けている。
 
 児玉はプレミアリーグの登録30選手全員で参加したニューバランス製スパイク試し履き会後、「去年の成績が高かったというのがあると思うし、(今回の試し履き会は)普段なかなか機会がないのでありがたいですね」と感謝。そして「サイド攻撃というヒガシらしさを示しつつも、自分たちの代は攻撃陣が去年よりも個性豊かだと思う。個性を活かしながら、ヒガシらしさを出していけるように、ということを心がけて練習しています。去年勝ったから負けることは許されないし、勝つことが当たり前になっている。それでも勝ち続けて自分たちの強さを証明したいと思います」と進化への思いについて語った。また、藤川は「自分たちは凄いプレッシャーがあると感じている。でも、そのプレッシャーを楽しんでいけるくらいにメンタルをコントロールしていきたい。結構みんなやんちゃだけど、サッカーになれば気持ちは去年以上に強くてマジメだと思う。謙虚にやっていきたいです」と楽しみながら、謙虚に戦い続けて結果を残すことを誓っていた。

 新人戦や春のフェスティバルで見られた光景だが、ライバルたちはいざ東福岡戦となると、いつも以上に目の色を変えて、打倒・東福岡へのエネルギーをぶつけてきている。ターゲットにされている中で勝ち続けることは容易ではない。だが、鍬先が「目の前の相手を絶対に倒すという気持ちでやればいずれ結果は出てくる」と語ったように、チームはそれを乗り越えていく覚悟。今年のキーマンの一人であるMF高江麗央(3年)は「3冠目指していく。インハイ(高校総体)も3連覇したら史上初。そこも取りたいし、選手権も取りたいし、まだプレミアは取ったことがないので取っていきたいですね」と3冠獲得へ意欲を口にし、また小田は「歴史に名を残したいという気持ちがありますし、2冠は去年やってしまったので、それ以上を目指している。(新しいユニフォームで)歴史に残るチームになる」と昨年超えを誓った。

 昨年、東福岡の選手たちは全国で勝つことの難しさを十分に体感してきた。だが、それをやり切ったからこそ見つめる「その先」。森重監督は「伝統」について「(今までと)同じことをやっていたら伝統にならない。新たなプラスアルファーをやっていかないといけない。勝ち続けてこその伝統じゃないかな」。また新たなものを積み重ねること、結果を残すことで、伝統校に「何か」を積み重ねる。東福岡は15年春からの1年間かけて総体の県大会と九州大会、全国大会、選手権の県大会と全国大会、そして新人戦(16年1月、2月)の県大会と九州大会とで獲得することのできる高体連大会の優勝旗全てを手にしてきた。今年のチームが日々の積み重ねの成果をどのような形で示すか。“新たな赤”をまとった東福岡が、決して簡単ではない目標に全員で挑戦する。

(取材・文 吉田太郎)

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