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「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第27回:不運を必然と捉える覚悟(駒澤大高DF佐藤瑶大)

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“ホットな”「サッカー人」をクローズアップ。写真1枚と1000字のストーリーで紹介するコラム、「千字一景」

 全国大会に出場して、名のある選手と対峙する。抑え込めれば、大きな手ごたえが得られる――1月5日、駒澤大高のレギュラーとして活躍していたDF佐藤瑶大は、全国高校選手権の準々決勝に出場し、大きな刺激を得るはずだった。しかし、当日のメンバー表に彼の名前はなかった。2日前の3回戦で首を負傷。「自分だったらどうするかと思いながら、試合のビデオは結構見直している。東福岡のFWの餅山(大輝)選手みたいに、フィジカルの強い選手とバチッと当たって勝つのが好き。だから、全国で優勝するFWを相手にどれぐらいやれるのか、知っておきたかった」と話す佐藤は、不運に阻まれた幻の対戦を何度も回想しているという。

 コンタクトプレーの多い選手にケガはつきものだ。佐藤は、その後も小さなケガを重ねた。戦列に復帰したのは、4月。関東大会予選の東京都大会準決勝だ。2日後には東京都1部リーグの東京実高戦に出場。最後のダメ押し点を奪うなど活躍し、8-1の大勝に貢献した。しかし、まだコンディションは上がっていない。試合後は、得点の喜びを見せることなく、守備者の距離を縮めないといけないと課題を挙げていた。プレーの課題は、成長するために必要だ。しかし、ケガとの付き合いが多いという課題は、成長の妨げになる。

 課題を解消するため、佐藤は意識を変えた。ストレッチ用のポールやマット、アミノ酸を摂取できるサプリメントを買い込み、練習以外の生活面の改善に着手。「ケガも実力と監督に言われた。ケガは偶然じゃなくて、取り組む姿勢が悪かったからじゃないかと考えるようにした。今は、定期的に酸素カプセルにも行っている。自分が変わらないといけない。練習ができることに感謝して、一つひとつを丁寧にやれば必然的に自分をコントロールできるようになって、間接的な効果だけどケガが減るんじゃないかと考えている。3年生になったし、プレーのことしか考えないのではダメだと思う」という言葉も、3か月前にはなかったものだ。

 いくら気を付けても、ケガを完全に回避することはできない。しかし、運命を手助けできるのは、最善の準備だけだ。選手権の会場だった駒沢陸上競技場は、東京実高と戦った駒沢補助競技場と同じ敷地にあるが、近くて遠い場所だ。佐藤は「まだ遠い。でも、絶対にもう一度、行きたい」と語気を強めた。今度こそ、晴れ舞台で最高の相手と戦いたい。日々の小さな努力から再挑戦は始まっている。

■執筆者紹介:
平野貴也
「1979年生まれ。東京都出身。専修大卒業後、スポーツナビで編集記者。当初は1か月のアルバイト契約だったが、最終的には社員となり計6年半居座った。2008年に独立し、フリーライターとして育成年代のサッカーを中心に取材。ゲキサカでは、2012年から全国自衛隊サッカーのレポートも始めた。「熱い試合」以外は興味なし」


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