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憲剛の最新本を立ち読み!「史上最高の中村憲剛」(20/20)

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 川崎フロンターレのMF中村憲剛の南アフリカW杯から現在までの5年半を描いた『残心』(飯尾篤史著、講談社刊)が4月16日に発売となった。発刊を記念しゲキサカ読者だけに書籍の一部を公開! 発売日から20日間、毎朝7時30分に掲載していく。

表の顔と、裏の顔<下>

 伊藤宏樹にとって忘れられないのは、2004年5月に行われたJ2第10節のコンサドーレ札幌戦である。

 シーズンが開幕してもなお、ボランチのレギュラーは固定されていなかった。関塚隆は毎試合のようにダブルボランチの組み合わせを変えて、誰と誰を組ませるのがベストかを探っていた。候補は5人。鬼木達久野智昭山根巌相馬直樹、そして中村憲剛である。

 だが、そのコンサドーレ戦以降、ボランチのポジションのひとつは固定された。

 2度目の先発出場となったこの試合で、左足の鮮やかなシュートを決めた中村が、指揮官の心をがっちりとつかんだからである。

「チャンスをモノにする様さまがあまりに強烈で、“なんだ、コイツ、凄いな”って。そこからチームの快進撃も始まって――」

 チームの「ヘソ」にも「心臓」にもたとえられ、攻守をリンクさせるボランチが固定されたことで、チームの戦い方も自ずと定まった。いずれも長身だったため、のちに「川崎山脈」と呼ばれることになる伊藤、寺田周平箕輪義信の3バックが文字どおり、敵の攻撃を跳ね返し、中村に操られたジュニーニョ、マルクス、我那覇和樹の強力攻撃陣が面白いようにゴールを重ね、チームも勝ち点を積み上げていく。

 伊藤には、試合を重ねるたびに中村が成長し、自信を増幅させていく様子が手に取るように感じられた。だが、一方で、ボランチとしての中村に欠点がなかったわけではない。

「細かく言うと、ポジショニングとか、めちゃくちゃなんですよ。でも、言い過ぎると憲剛の良さが消えちゃうし、攻め残ってる憲剛がカウンターの起点になって、それがうちのサッカーになっていったから、周平さん、ミノさんと“大変だけど、俺らでカバーしてやろう、俺らでなんとか守りきろう”って話してました。周りに恵まれてたと思いますよ、憲剛は。あいつは、あのチームの末っ子。だから、あんなワガママに育っちゃって。フフフ」

 2006年10月以降、中村は日本代表に選出されるようになる。中村の選出は、新たな楽しみを伊藤に与えてくれた。

「自分のことのように緊張したのかなあ……。でも、日本代表って、めちゃくちゃエリート集団ってイメージがあるから、あそこまで叩き上げの選手が堂々と渡り合っていたのは痛快だったし、楽しかったですよね。結局、自分は選ばれず、残念でしたけど、憲剛が夢を見せてくれたし、何より嬉しかった。代表戦を見るのが楽しかったのは間違いないですね」

 伊藤は2005年からキャプテンを務めていたが、2006年に中村が副キャプテンに就任すると、より一層チームのことについて語り合うようになった。2007年からは伊藤がチームキャプテン、中村がゲームキャプテンとなり、ふたりでチームを引っ張ってきた。

「でも、憲剛ってキャプテン気質じゃないと思いますよ。表の顔っていうか、ピッチの中での存在感はピカイチだけど、裏のことには無頓着。逆に僕は裏でチームを回したり、いろいろ気にかけたり。だから、憲剛とも“ふたりでワンセットだな”ってよく話していたんです。互いに足りないものを補完しあって、うまくできてるなって」

 夢は、今もずっと続いている。

「昔からよく、将来の話をしてたんですよ、フロンターレについてのね。今考えたら、夢物語のようですけど、“こんなクラブにしたいよな”“こんなチームにしたいよね”って。それが、今も継続されてるっていうのがすごいと思いますよね。将来ですか? 憲剛はどう考えても現場ですよね。だから、僕は裏のほうで――」

 監督・中村憲剛と、GM・伊藤宏樹。表の顔と、裏の顔。

 いつかそんな日が来るとしたら……。

「でも、その前にタイトル獲得ですよね。憲剛が現役でいる間のタイトルと、引退したあとのタイトルとでは、価値が違ってくると思うんですよ。憲剛はJ2時代を知る最後の砦だから、僕らの想いも背負ってるというか、勝手に託している。本当は、僕やジュニ、もっと前の人たちの時代に獲れていたほうがよかったのかもしれないけど、憲剛ひとりになって獲ったほうが、ドラマチックなんじゃないかっていう気もしていて。憲剛がやめるまでに絶対に獲れると思いますよ。あいつ、“持ってる男”だから。宙に舞ってる画が見える」

 チームメイトに胴上げされる中村の姿が、彼の脳裏にはっきりと浮かんでいるようだった。

(今回が最終回になります)


<書籍概要>

■書名:残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日
■著者:飯尾篤史
■発行日:2016年4月16日(土)
■版型:四六判・324ページ
■価格:1500円(税別)
■発行元:講談社
■購入はこちら

▼これまでの話は、コチラ!!
○第19回 表の顔と、裏の顔<下>

○第18回 盟友のラストゲーム<下>

○第17回 盟友のラストゲーム<上>

○第16回 「なんで、ニッポンにいないの?」<下>

○第15回 「なんで、ニッポンにいないの?」<上>

○第14回 「トップ下に自信がなかった」<下>

○第13回 「トップ下に自信がなかった」<上>

○第12回 トップ下としての覚醒<下>

○第11回 トップ下としての覚醒<上>

○第10回 めぐってきたチャンス<下>

○第9回 めぐってきたチャンス<上>

○第8回 コンフェデレーションズカップ、開戦<下>

○第7回 コンフェデレーションズカップ、開戦<上>

○第6回 妻からの鋭い指摘<下>

○第5回 妻からの鋭い指摘<上>

○第4回 浴びせられた厳しい質問<下>

○第3回 浴びせられた厳しい質問<上>

○第2回 待望のストライカー、加入<下>

○第1回 待望のストライカー、加入<上>

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