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泥沼はまる東京V…今だからこそMF安西へかかる期待、監督解任は「絶対にあってはいけない」

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[5.7 J2第12節 東京V0-4松本 味スタ]

 長いトンネルへ入ってしまった。まるで勝ち方を忘れてしまったかのように、前半で2失点したチームは沈黙を続け、後半にも2失点。反撃の狼煙を上げることなく90分間を終えた。東京ヴェルディは松本山雅FCに0-4で敗れ、今季2度目の2連敗で8戦勝ちなし。最後に勝利したのは3月20日の徳島戦(1-0)と約1か月以上も白星がない状況だ。

 ここ2試合でSHとしてプレーしているMF安西幸輝は「率直に相手との実力差が出た」と振り返ると、「相手は上手くいかないときでも次のパターン、次の次のパターンなど、攻撃のバリエーションがあるなかで、自分たちに置き換えてみるとそれがすごく少ないと思う。去年の終盤の流れが今季につながっている。得点を取れていないのをどうにかしないと、後ろの選手にも申し訳ない」と反省した。

 今季は終盤に負傷交代した群馬戦を除き、全試合にフル出場している安西。開幕からフルタイム出場しているGK柴崎貴広とDF井林章に次いで、チーム内で3番目の出場時間を誇っている。開幕当初は昨季同様に右SBとしてプレーしてきたが、ここ2試合では攻撃力を買われる形でSH起用。「1年ぶりのSH。難しいポジションですけど、やりきらないといけない」という心意気で2列目右で先発している。

 この日の松本戦では、後半途中にはSHからSBへポジションを変えつつも、積極的に前へ仕掛ける姿勢はみせた。惜しくも得点にはつながらなかったものの、FWドウグラス・ヴィエイラへ決定的なクロスを供給するシーンもあった。それでも安西は「結局、得点もアシストもしていない。監督に申し訳ない」と肩を落とす。

 この日の試合後、冨樫剛一監督は「チームとして自信を無くしているような雰囲気をピッチのなかで漂わせてしまったのは、自分のマネジメントだと思っているし、責任だと思っています」と話したが、安西は「冨樫さんではなく俺らの問題。どんな悪い状況でも冨樫さんはプラスな言葉をかけ続けてくれているのに……監督に申し訳ないとみんなが思っていると思う」と指揮官をかばった。

 今季の開幕前には、同期であるFW高木大輔やMF澤井直人と3人で「俺らでヴェルディを(J1へ)上げよう」と強く誓っていた。互いに思いの丈を話す中、高木大が「冨樫さんは“いい人”とみんなから言われているし、本当に“いい人”。でも俺らは冨樫さんを“ただのいい人”で終わらせたらいけない」と言えば、安西は「自分はキャプテンキャラではないのに、冨樫さんのおかげでユースのキャプテンをして成長できた。その恩返しをしないといけない」と話していたという。

 しかし、蓋を開けてみると開幕からの12試合で2勝4分6敗と、恩返しには程遠い、あまりにも不甲斐ない結果。直近8試合で勝ちが無い状況では、監督解任という“劇薬”が近づいてくる音もする。

 安西は「このまま勝ちがないと、冨樫さんもそういう最悪な形になってしまうかもしれない。それだけは絶対にあってはいけない。そうさせないためにも、ずっと小さいときから教えてもらった人に恩返しするためにも、教わっていたメンバーの俺たちが中心になって、もっとやらないといけない。それに自分は試合に使ってもらっている以上は結果を出さないと。やるべきことはたくさんある」と表情を引き締めた。

 この日は前半で0-2に突き放され、東京Vは攻めるしかなくなった。それでもチームは開き直ることもなく、徐々に自信を失っていくかのように消極的なプレーに終始した。こんなとき、いつもならば“東京Vの元気印”として声を張ってチームを鼓舞する高木大はベンチ外。沈んだ雰囲気のままにずるずると時間は過ぎていき、無得点のまま試合は終わった。

 闘志を押し出し、チームを引っ張っていく選手がピッチ上に一人でもいれば、流れはまた変わっていたかもしれない。チームが下を向きかけたとき、自信を失いかけたとき、奮い立たせることができるような存在が欲されている。そして、その役割を担うだけのポテンシャルを持ち、期待を寄せられるのが安西だ。

 実際にFW平本一樹からは「お前が中心になって、やっていくくらいに我を出せ。まだまだ遠慮してる」と指摘もされたという。東京Vユース時代には冨樫監督からキャプテンに抜擢され、大きく成長したと自認している安西は「やっぱり俺がもっと前に立ってやらないといけないですよね……」と自身に矢印を向けた。

「高校のときはどちらかと言えば“茶々”をいれるキャラクターでしたけど、キャプテンになってからはチームを束ねる力というか、そういうのをずっと考えてやっていた。その経験をトップで活かせているかといわれると、出来ていないので。今までの経験を無駄にしないでやっていかないといけない」

 チームが長いトンネルに入る中、今が安西にとってのターニングポイントになるかもしれない。チームを背負うなど大きなプレッシャーを感じる必要はなく、ただピッチ上で本来の自分自身をさらけ出したプレーをすれば、それこそがリーダーシップにつながる。安西が遠慮なく我を出したプレーをみせたとき、それはポジティブな要素となってチームに還元されていくはずだ。

(取材・文 片岡涼)
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