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巻、感涙…敗戦に複雑な感情も「胸を張って熊本に」

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[5.15 J2第13節 千葉2-0熊本 フクアリ]

 試合後のスタジアム。360度を囲んだ1万4163人のサポーターは、敵味方関係なく、場内を一周するロアッソ熊本の選手たちに温かい拍手を送っていた。目に涙を浮かべながら感謝を語ったFW巻誠一郎は、「これからどれだけ前に進んでいけるかが大事」と力に変えた。

 試合前から異様な雰囲気に包まれていた。熊本地震の発生以来、リーグ戦の延期を余儀なくされていた熊本の初戦。熊本の選手たちが試合前練習でピッチに登場すると、それだけで涙を流すサポーターの姿が見られた。報道陣もJ2では異例の160人が詰めかけ、再開初戦に注目した。

 試合は前半こそスコアレスで折り返したが、徐々に懸念されたスタミナ面の不安が顔をのぞかせる。すると後半11分、こぼれ球をジェフユナイテッド千葉のMF町田也真人に蹴り込まれて失点。同29分にはGK畑実が町田にクリアボールをブロックされて、追加点を奪われた。

「結果が物語っていると思いますけど、勝負は甘くなかったと感じた」と声を落とした巻。それでも震災から1か月、リーグ戦再開を無事迎えることが出来た安堵感にも似た感情が入り混じっているという。そして熊本で頑張る被災者の姿が励みになっていると続ける。

「非常に苦しくて何度も足が止まりそうになった。何度も諦めそうになった。でも僕を含め選手みんなが思い浮かべたのは、やっぱり熊本で家がなくなったり、今も苦しい思いをしている人たちの顔だった。それに比べたら、僕らが苦しいというのは小さなことだと思うし、そういう思いが足を動かせてもらった」

 リーグ戦の戦いを再開させた熊本だが、ホーム戦を熊本で開催することはいまだ困難な状況にある。次節、5月22日の水戸戦は日立柏サッカー場、5月28日の町田戦も熊本以外で開催することが決まっている。状況がすぐに好転することはないが、ただ、大きな一歩を踏み出せたことには間違いはない。

「正直、勝ち点1でも熊本に届けたかった。1ゴールでも、1本でも多くのシュートを届けたかった。今も無力感、悔しさなどいろんな思いがありますけど、誰も責めることは出来なくて、ゴールを目指して、足を動かしていたし、最後までどんなに足がつっても、どんなに苦しくても足を前に運び続けた。そういう意味では胸を張って熊本に帰れる。もう一度いい準備をして、次の試合に臨みたい」

 東日本大震災の時にはベガルタ仙台が快進撃を見せて被災者に勇気を与えた。熊本の復興に向けた動きもこれから本格化することになる。ロアッソ熊本がその旗手となるためにも、歩みを止めることなく顔を上げ続けるしかない。

(取材・文 児玉幸洋)
●[J2]第13節 スコア速報

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