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「下を向くな、俺らが助けるから」…熊本GK畑に掛けたFW巻の言葉

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[5.15 J2第13節 千葉2-0熊本 フクアリ]

 特別な思いを胸に試合に臨んでいた――。「サッカーを『する』『しない』の話ではなく、サッカーを考える状況ではなかった。生きることに精いっぱいだった」。熊本地震によって実家が被災し、避難所で生活を送ったロアッソ熊本GK畑実は、震災直後の心境を明かした。あれから約1か月、畑とチームはピッチ上に戻ってきた。

 昨季第16節京都戦以来、リーグ戦での出場機会がない畑に先発起用が伝えられたのは、試合前日の移動中だった。「いつも準備はしているし、今日のような特別な試合でスタメンで出れるというのは嬉しかった」。久し振りの公式戦を先発出場で迎えた畑の後ろには大勢の熊本サポーターが詰めかけていた。「今日も大きな応援をして頂き、とてもうれしくて気持ちが高ぶったし、力をもらえました」とサポーターとともに試合に臨んだ。

 粘り強い対応でゴールを許さずに前半をスコアレスで折り返し、最後まで戦い抜いたチームだったが、千葉に2点を許して0-2で敗れた。2失点目につながるミスを犯してしまった畑は「ちょっと判断が遅くなり、ああいう形になってしまった。結果が伴わなかったのは残念だし、自分のミスでゲームを壊してしまったと思う」と肩を落とした。

 しかし、チームメイトは畑がどのようにして1か月間を過ごしてきたのかを知っている。「彼は自分の家もなくなり、避難所で生活していて、特別な思いの中で試合に臨んでいた。誰よりも精神的にも肉体的にも難しい準備の中でピッチに立ったことは皆が分かっていた」。そう語ったFW巻誠一郎は、2失点目の後に畑の元に寄って言葉を掛けていたようだ。

「下を向くな、俺らが助けるから前を向こう」と――。特別な思いを持って試合に臨んでいる畑が下を向けば、チームが下を向くことになる。巻はそう感じたからこそ、「前を向こう」と声を掛けた。「何度も彼がゴールを守ってくれたし、救ってくれた。支え合いながら、助け合いながらプレーできたと思う」。

 1か月前はサッカーを考える状況ではなかった。だからこそ、「試合をできるのは当たり前ではない。試合をできる喜びを感じる」と噛み締めた畑。「試合が再開できたのは一歩だと思う。そして勝つことが二歩目、三歩目になっていくと思うので、勝つことを考えて頑張っていきたい」と視線を上に向けて答えた。

(取材・文 折戸岳彦)
●[J2]第13節 スコア速報

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