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東京V・FW高木大輔 「呼吸と一緒に涙が出てきた」、その背に負うもの

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[5.22 J2第14節 東京V2-1清水 味スタ]

 とめどなく流れた涙。その理由は本人にも分からない。10試合ぶりの勝利の喜びか、はたまた疲労のあまり身体が悲鳴を上げての涙なのか。90分間を通じて誰よりも走り続けたFWは、試合終了とともにピッチへ突っ伏すとその頬を汗ではなく、涙で濡らした。東京ヴェルディのFW高木大輔は「呼吸と一緒に涙が出てきて、止まらなかった」と言う。

 東京Vは清水に2-1の逆転勝利を収め、10戦ぶりの白星を手に入れた。3月20日のJ2第4節・徳島戦(1-0)以来、約2か月ぶりの勝利だ。前半6分に先制されるも、同44分に大輔のゴールで追いつくと、前半終了間際アディショナルタイム2分にはMF高木善朗が得点を挙げ、2-1。そのまま逃げ切った。

 試合終了のホイッスルが鳴った瞬間。両手を挙げてガッツポーズした大輔は、ピッチへ座り込み咆哮。右手で強く芝を叩いて、涙を流した。後輩のMF井上潮音に抱き起こされるも涙は止まらず。ユニフォームで目をぬぐって整列するも、再び膝に手をつき、感極まった様子をみせた。拭いても拭いても涙は止まらない。背負い続けてきた重い荷物は少し軽くなったようだった。

「試合が終わりそうなときから涙が出そうで。体力的にキツかったのもあって『もうやめてくれ! 早く終わってくれ! 勝ちたい!』という感じでしたね。もう試合が終わったら、呼吸と一緒に涙が出てきて、止まらなかった」

 昨季はキャリア最多の7得点を挙げた大輔。それ以上の結果を残すと強く意気込んでいた今季だったが、開幕前にハムストリングを痛めて出遅れた。第4節・徳島戦で後半途中からようやく今季初出場。その後はコンスタントに出場していたが、第9節の長崎戦で再び負傷。その後の3試合では大事を取る形もあり、ベンチ外となっていた。4月末からの連戦で勝負を賭けようと意気込み、コンディションも上がっていた中での悔しすぎる出来事だった。

 自身はピッチから離れ、チームは勝ちから遠ざかる日々。自分に出来ることは何かと自問自答した20歳は、まずはピッチ外でもプロ選手として“仕事”を全うすると覚悟。どんなときもチームを応援してくれるサポーターと向き合い続けた。負けが続くなかでも試合後には必ず『ツイッター』を更新。不甲斐ない試合をしたときには「申し訳ありません」とストレートに謝罪することもあった。

 自身が出場したときも変わらずに更新は続けた。毎試合どんなに疲れていても、心が折れそうになっても、東京Vを応援してくれている人々がクラブから離れていかないようにと考えてのもの。

「勝ったときはすぐに思いつくんですけど、負けたときは本当に難しい。どうやったら伝わるか、誤解があっても嫌だし、140字で伝えるのは難しい」と悩みながらも、発信を続けた。日々ホームタウンでの活動や、スタジアムの観客数を気にかけるなど、クラブ全体を思い続ける大輔らしい行動だった。

 ベンチ外となった試合では、スタジアムでサポーターを見送ることもあった。敗戦直後ということもあり、「暴言みたいな厳しいことを言われたら……」と不安もあったようだが、明るい態度に務めては「また来てください!」と敗戦に肩を落とすサポーターへ必死に言葉を送り続けた。「ベンチにも入ってないなら、そのくらいやらないと」と気丈に振舞った。

 そして、チームが8戦勝ちなしで迎えた金沢戦。戻ってきたFWは4戦ぶりに先発すると、今季初ゴール。昨季、大輔が得点を決めた試合は6戦6勝だったことから、勝利への希望が見えたかに思えた。しかし後半28分の交代直後、同30分にチームは失点。1-1で引き分け、またしても勝利はならなかった。

 試合後、サポーターの前へ挨拶にいった大輔は、幾度も天を仰いでは涙をこらえた。「勝てたなと思ったし、とにかく悔しかった。昨季から自分が点を取った試合は負けてなかったのに、今回も負けてないけど勝てなかったから。ただただ悔しくて」。そんな思いが頬を伝った。

 それでも、この悔し涙は無駄にならなかった。金沢戦から1週間で迎えた清水戦。大輔は2戦連続弾を決める。0-1の前半44分、左サイド深い位置からDF安在和樹が上げたクロス。ファーサイドの大輔が頭で叩き込んだ。この得点で勢いに乗った東京Vは前半のうちに逆転に成功。2-1で後半を迎えた。

 後半に入っても運動量を落とさずに駆け回った大輔は、後半ラスト20分の頃には両足全体が攣っていたという。それでも最後まで足を止めることはなかった。途中交代もよぎったが、「こうなったらやるしかない」と腹を括って、前線で走り続けた。

 後半45分には相手CBからGKへのバックパスを必死に追って、プレッシャーをかける。倒れそうになりながらもみせた気迫溢れるプレーにスタンドは沸いた。直後にはサイドライン際で激しい攻防。アディショナルタイムの4分間も必死にプレーし、最後のホイッスルが鳴るまで、文字通りに走りきった。今季二度目のフル出場を果たしたFWは「攣って倒れることもなかったし、90分間やり切れたことは自分にとって良かった」と手応えを語る。

 昨季は「ハードワークを90分間続けられる選手にならないといけない」と口にしていたが、1年経って成長した姿を示した。「これを基準にやっていかないと、僕らは勝てない。今日のプレーを続けるのはきついですけど、きついからこそ勝ったときの喜びはデカいと思うので。これをベースにやっていきたい」。夏の暑さが近づく中、ハードワークは身体に堪えるが、求められているものは分かっている。

 2-1で勝利した清水戦で流した涙。疲労から涙腺が崩壊したのかもしれないが、東京Vを背負うという思いの強さから、勝利による安堵で溢れ出たものにも見えた。そこには安堵や喜び、苦しさからの解放。様々なものが渦巻いていただろう。

 試合直後こそ、涙を流していた大輔だったが、その後はベンチに座って一呼吸つくと、ヒーローインタビューでは一切涙は見せず。ハキハキとしたいつも通りの口調でサポーターへの感謝を口にし、堂々とした立ち居振る舞いでプロ選手としての気概をみせていた。

「長いシーズン、どんなことがあるかわからないですけど、どんなときも前を向いてやっていくことが大事」。弱冠20歳のFWは、チームを背負う覚悟を胸にプロ選手としての日々を過ごしている。背負いすぎなのではと心配になるほどに、クラブのあり方にまで思いを寄せ、プロサッカー選手としての振る舞いを貫く。それを見て、応援を続けよう、応援しようと思ってくれる人が一人でもいる限り、大輔のやっていることに意味はある。

 そんな姿勢が報われないわけがない。今季2点目のゴールは勝利につながった。昨季からの通算で大輔が点を挙げた試合は7勝1分と無敗を維持している。ピッチ内外で自らに鞭打ちながら、あるべき姿を示し続ける。その先にどんな未来が待っているかはわからない。それでも涙を流した日々は、より強く自身のなかに刻まれていくだろう。それは血となり、肉となり、選手としての深みは増していくはずだ。

 緑のサポーターとともに泣き、ともに笑いあう週末。その先にいつか緑の時代がやってくると信じて、ただひたすらに走り続ける。

(取材・文 片岡涼)

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