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[SEVENDAYS FOOTBALLDAY]:23連敗からのリスタート(都立三鷹中等教育学校)

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東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 GKの武田啓介がファインセーブを連発すれば、CBの湯浅辰哉を中心とした守備陣も必死に粘って水際で踏ん張り続ける。2014年12月30日。駒沢陸上競技場。絶対的な優勝候補と目されていた東福岡高校を向こうに回して、都立三鷹高校に通う“普通の高校生たち”は前半の40分間を無失点で切り抜ける。後半にセットプレーから2失点を許し、最後は0-2で敗れたものの、その大健闘と言っていい戦いぶりに1万5千人を超える観衆から大きな拍手が送られた。そんな先輩たちの姿を当時1年生の芝崎鉄平は「緊張とかじゃなくて凄く楽しんでいるというか、最後だからなのか自分たちが今までやってきたことを全部やれているみたいな感じがありました」とベンチとアップエリアから見つめていた。高校選手権という最高の舞台で全国にその存在をアピールしてみせた都立三鷹。ところが、その“1敗”はそれから強いられる悔しい日々の幕開けでもあった。

 選手権の躍進の熱も覚めやらぬ中、新チームで初めて挑んだ公式戦はT2リーグの開幕戦。このゲームで東海大高輪台高校に0-5と大敗した都立三鷹の歯車は、少しずつ狂い始めていく。リーグ戦5連敗で迎えた関東大会予選は初戦で0-1と惜敗。さらにインターハイ予選もやはり0-1で初戦敗退。「新チームが始まった時期も遅かったので、時間がない中で『やろう、やろう』と先輩たちが頑張ってくれていたんですけど、『自分たちが付いていけなかったんじゃないか』『もっとできたんじゃないか』と凄く後悔している所はあります」と芝崎が話せば、佐々木雅規監督も「いつ勝てるかなと思っていたんですけど、これが“負けグセ”なのかなと。見ていても『いつか点を取られるだろうな』という負のスパイラルは感じました」と当時を悔しげに回想する。1年前は “奇跡”とも言うべき東京制覇を達成した選手権予選。その“奇跡”を演じた先輩たちが多数応援に詰めかけた初戦も、後半に入って2点を先行される苦しい展開に。チームの中でただ1人全国のピッチに立った吉野秀紀が終了間際に執念で1点を返したものの、直後に3点目を叩き込まれて万事休す。残されたリーグ戦でも勝利を味わうことは叶わず、まさかの公式戦21戦全敗という結果で都立三鷹の2015年度は幕を閉じることとなった。

 この変化に予兆がなかった訳ではない。6年間の一貫教育に舵を切った都立三鷹にとって、選手権で全国大会を戦った3年生は最後に高等部から入学する生徒を募った学年に当たり、その1つ下の学年は全員が中等部からの持ち上がりとなっていた。メンバーリストを見ても、名の知れた3種のチームがずらりと並んでいた前所属チームは、ほぼ全員が三鷹中等教育学校サッカー部という状況に。さらに、前期(中学課程)から後期(高校課程)へ進学する際に、“前期”のサッカー部のレギュラーはほとんど他の部活へ移ってしまっていたという。「中学校ではボールを蹴れなかったような選手が最後にはレギュラーで出ていたので、そういう意味では6年間で頑張れるものがあるのかなと思います」と佐々木監督。その点を考慮すれば“後期”での成長には目を見張るものがあったようだが、現実は厳しい。21回の負けを突き付けられた彼らの心中は察するに余りある。

 ただ、明けない夜はない。芝崎をキャプテンに頂き、新たな気持ちで迎えた昨年11月の新人戦も初戦でPK戦負けを喫し、公式戦23連敗という状況で訪れた2016年度のT3リーグ開幕戦。「1週間ぐらい前から『絶対に勝つぞ。やってやるぞ」という気持ちがチーム全体にあった」と芝崎も口にした私立武蔵戦は、前半に早見俊紀が先制点を挙げると、後半にも辻良太朗が追加点を記録する。終わってみれば2-0の快勝。「素直に勝てて嬉しかったですね。『やっと勝てた』みたいな。今まで勝てなかったのがようやく楽になったというのはありました」と芝崎。全国の応援スタンドを知る3年生2人のゴールで掴んだ勝利は、都立三鷹にとって実に519日ぶりとなる公式戦の白星。「校内ではヒドいです(笑)とくに“前期生”には『泥沼20何連敗のサッカー部だぞ』と言われていたみたいで。学校内でも先生たちから『昨日はどうだった?』『負けました』『また負けたのか』みたいなことを言われ続けてきたので、勝って少しは見返せたのかなと。少しはですけどね。まだまだ足りないですけど」とキャプテンは苦笑いしながら自らの想いを明かしてくれた。

 既にインターハイ予選も敗退している都立三鷹の今年度に、残されているトーナメントは選手権予選だけとなってしまったが、大学受験を控えている3年生は18人全員が現役続行を決断した。「1人鎖骨の折れていたヤツが『折れていたら辞める』と言っていたんですけど、ソイツも治ったので全員が『じゃあやるよね』みたいな感じで、自然にやることになりました。高校に上がる時に10人ぐらいのチームメイトがサッカー部を辞めてしまったので、『今回もそうなったら辛いな』と思っていたんですけど、全員残ったので良かったです」と芝崎も笑顔で語る。

 そんな後輩たちを優しく見守る先輩に話を聞いた。昨年度も大学入学まで臨時コーチを務めるなど、人一倍強い“三鷹愛”を隠さず、今は首都大学東京サッカー部で高校時代と同じCBとしてピッチを走り続けている湯浅は、彼にとっての“1年生”たちにこうエールを送る。「僕たちも選手権前まではほとんど勝っていなくて、周りのサポートがあったからこそ、あの舞台まで行くことができました。佐々木先生も『周りに応援されるチームになれ』とよくおっしゃっていましたが、そのために日々の練習を全力でやるのはもちろん、サッカーだけではなく普段の生活にも気を抜かずに取り組んでいたことも、ああいう結果に繋がっていたのかなと思います。3年生は僕たちのことをあまり気にせず、自分たちのやりたいサッカーをやって欲しいと思いますし、目の前のボールを全力で追い掛けてプレーして欲しいです。僕も高校3年間があったからこそ、サッカーが楽しくて今でも続けているので、みんなに負けないように頑張ります。選手権に向かって頑張って下さい。応援しています!」。

 T3リーグの3試合を挟んで、もう8月には選手権予選が幕を開ける。2年前のようには行かないかもしれない。それでも、今できることに全力で向き合うことだけが、自らの未来を切り開く。「まずは1勝できるようにしっかり準備して、そこから頑張っていきたいです」と地に足の着いた目標を口にした芝崎。23連敗からのリスタートを切った都立三鷹の3年生にとって、最後の“夏のセンシュケン”はもうすぐそこまで迫っている。

[写真]昨年度の選手権予選も経験した芝崎。今年は三鷹の主将を務める

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務し、Jリーグ中継を担当。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」


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