beacon

[総体]堅守速攻の伝統に加えた「一工夫」、中津東が7年ぶりに夏の大分制す!

このエントリーをはてなブックマークに追加

[6.6 総体大分県予選決勝 情報科学高 0-2 中津東高 大分スポーツ公園サッカー・ラグビー場サブA]

 平成28年度全国高校総体「2016 情熱疾走 中国総体」サッカー競技(広島)への出場権を懸けた大分県予選決勝が6日に行われ、中津東高が2-0で情報科学高に勝利。7年ぶり2回目の全国大会出場を決めた。

 就任わずか2か月で頂点に立った中津東の軸丸耕平監督は「選手の中で考えながら、良くやったと思います」と選手たちへの賛辞を繰り返した。2か月間で何かを変えた訳ではない。中津東は松田雄一前監督(現鶴崎工)の指導の下、堅守速攻を武器に12年度から14年度まで選手権県予選で3連覇を果たし、14年度は全国大会で北の名門・青森山田高を撃破してベスト16まで勝ち上がっている。ベースが構築されているチームに新指揮官が加えたのは「一工夫」だけ。「堅守速攻という伝統があるので、プラス『一工夫』できれば、と。堅守速攻を維持しながら、攻撃面でワンクッションつくって、もうひとつスピードアップすることができればと考えていました」。決勝では危ないシーンをつくられながらも、無失点。中盤でタメをつくり、またそれに伴ってよりコンパクトになった守備など「一工夫」も十分に効果を発揮しての栄冠となった。

 決勝は序盤、準々決勝で優勝争いの大本命と目されていた大分高をPK戦、準決勝でも古豪・大分工高に延長戦の末に勝利して勢いに乗る情報科学が押し気味に試合を進める。12分にはこの試合を通して存在感を発揮していたレフティー、MF塚崎仁志(3年)の右FKからMF森田来輝(3年)が打点の高いヘディングシュート。さらにMF岩本翔太郎(3年)が詰めようとするが、中津東はいずれも5バックの中心・DF黒川涼太(3年)が身体を張ってブロックする。情報科学は15分にも塚崎がドリブルで仕掛けて右ポスト直撃の左足シュート。試合会場隣に位置する同校から駆けつけた大応援団の後押しを受けた情報科学が、立ち上がりから積極的にゴールを目指していった。

 対する中津東は相手エースのFW高田渓太主将(3年)をDF堂上敦司(3年)、FW和田翔(2年)をDF楠木裕二(3年)がマンマーク。中盤のポジショニングのズレを修正した中津東は、2人のストッパーや1年生DF上杉理貴も球際で強さを発揮するなど、前半半ば以降、相手に攻撃の起点をつくらせない。その中でベンチの軸丸監督からは再三、「声を切らさない」ことが求められていた。集中力を維持するため、またベンチの感じている部分と、ピッチ内で起きていることに対して選手がどう感じているのかを共有し、修正するため。指揮官が「こっちの要求に応える対応力がある」と評するイレブンは、試合の中で修正を加えて立て直すと、この後は完全に主導権を握って攻め続けた。

 中津東は今春にリベロからボランチへ転向した大黒柱のMF佐藤剛主将(3年)が攻撃のポイントに。これまでややロングボール中心で間延びしてしまうことの多かった攻撃は彼が中盤で起用されることによってひとつタメが生まれた。今大会は注目の2年生MF後藤文太が長期離脱から復帰したばかりでベンチスタートが続いたが、この日も主軸不在を感じさせない攻撃を見せた。佐藤や抜群の運動量を誇るMF橋本絋希(3年)を経由してボールをハイサイドへ展開する中津東は、左DF曽我大樹(3年)らDFラインの選手も積極的に攻撃をサポート。厚みのある攻撃で逆に情報科学を押し込んだ。26分に橋本の右足ミドルのこぼれを10番FW原田誠也(3年)が右足で狙う。決定的な一打はGK橋村航輝(2年)のファインセーブに阻まれたが、28分にも高い位置でインターセプトした上杉からのパスを受けたMF澤村幸宜(3年)がカットインから左足シュートを打ち込む。

 ハーフタイムにはケガをおして出場していた原田に代えてFW松尾洸陽(3年)を投入。佐藤が「前半頑張ってくれた。交代して泣いていましたし、彼の分までしっかりと勝たないといけないと思っていました」と振り返ったように、涙を流して悔しがった10番の思いを背負って後半に入った中津東は開始直後の1分に先制点を奪う。前線を活性化した松尾がポイントとなった攻撃からFW小野輝(3年)の左クロスをファーサイドのDF楠木裕二(3年)が「中見てくれていたし、良いボールが上がってきていたのであとは合わせるだけだった。めちゃくちゃ嬉しかったです」と頭で流し込んで先制点。情報科学が後半開始から長身FWディック達也(2年)を投入したことによって、空中戦に強い橋本と入れ替わってポジションを上げていた楠木が見事にゴールを破った。

 さらに12分には左サイドで存在感を発揮し続けていた曽我がDF間を見事に破る突破から強烈な右足シュート。こぼれ球を「自分は上手くないんで、泥臭くシュートのこぼれ球を狙って行こうと思った」という澤村が押し込んで2-0とリードを広げる。対して、ベンチから「取りに行け」と声の飛ぶ情報科学は21分、交代出場FW渡邉元太(2年)とのワンツーで相手の最終ラインを攻略した塚崎が左足シュートを放つが再びポストを直撃。33分にも左CKから森田が放ったヘディングシュートが外側のサイドネットとゴールに見放された情報科学に対し、GK田中椋大(3年)や黒川中心に集中して守る中津東は交代出場した後藤が攻撃力を発揮し、終盤も橋本が抜群の運動量を示すなど、走り切って夏の全国切符を獲得した。

 普段の試合前は部室や校内の清掃をしてから出発するという中津東。この日も宿泊していた宿舎の部屋を「凄く綺麗になっていた。彼らは手抜きがなかったです」(軸丸監督)と清掃にも全力で取り組んでから決勝のピッチに立った。「サッカーだけ上手くてもダメ。20人がユニフォームを着ているけれど、その下に50人いる。応援団含めて70人が人として成長できるように」と願う指揮官の下、新たなスタートを切って早くもタイトルを獲得したチームは全国8強入りを狙う。3年生は2年前の選手権16強を見ているだけに佐藤は「本当に格好良くていい経験をさせてもらったので、後輩たちにもいい経験をさせてあげたい。選手権ではベスト16だったのでベスト8が目標」と語り、澤村も「ベスト16を越えられるようにプレーしたい」。伝統に「一工夫」を加えた大分の強豪が、目標達成に全力で挑戦する。
 
(取材・文 吉田太郎)
▼関連リンク
【特設ページ】高校総体2016

TOP