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[EURO現地レポート]幕を閉じた祭典、テロの脅威とも闘ったパリの風景

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 ポルトガルの初優勝でEURO2016が幕を閉じた。聞けばエッフェル塔の下に設置されたファンゾーン会場はお通夜のような雰囲気だったという。私が仕事を終えて帰路に就いた深夜3時半ごろ、街中で見かけたのはポルトガル人ばかり。クラクションを鳴らし、窓から身を乗り出してはうれしそうにポルトガル国旗を振り回していた。だが、それ以外は急に日常に戻ったかのような静けさだった。

 負傷交代したFWクリスティアーノ・ロナウドが延長戦も終盤に入って、テクニカルエリアまで出てフェルナンド・サントス監督の後ろで身振り手振りをまじえて指示を出し、相手ベンチ前を堂々と横切ってピッチ内の選手たちを鼓舞している姿には思わず笑ってしまった。担架で運び出される際や試合終了後の涙を見ると、代表で勝つことにはこれぐらいの意味と重みがあるのだと、あらためて教えられた気がする。日本代表の選手にもこれぐらいの熱さがあってもいいのだなと思う。

 今大会を振り返ると、昨年起きたパリ同時多発テロの影響を感じることもたくさんあった。私はあくまで報道陣としての経験だが、大会側は特に決勝の入場には神経質だった。我々もマッチチケットのほかに一人一枚、シールを取材パスに貼られた。そのシールには個人を特定できるシリアル番号が入っており、個人名が記された取材パス、マッチチケットの計3点をそろえて持っていないと、プレスルームに入ることも許されない。スタジアム周辺では2度3度と手荷物検査を受けなければならなかった。

 大会中には悲しすぎる出来事も起きた。トルコ・イスタンブールのアタテュルク空港、バングラデシュのダッカ、イラク中部のバラドでテロと思われる事件が起き、多数の死傷者が出た。特にダッカの事件では多くのイタリア人が犠牲となり、翌日行われたドイツ対イタリアの準々決勝ではスタンドの観衆が追悼代わりの拍手を送り、イタリア代表の選手は喪章を巻いてプレーした。

 とはいうものの、パリ自体は努めて普段どおりであろうとしていたように思う。印象的だったのは街中の至る所に公衆トイレがあり、ゴミ箱があったこと。東京では要人の来日や大きなイベントとなると、爆発物などが仕掛けられることを警戒し、この手のものが使用禁止となることが多い。しかし、今大会中のパリは大小のゴミ箱がいつもどおりに置かれていた。その代わり、本当に大勢の警察官が街中を巡回し、怪しい車両はいちいち覗き込んで、時には中までチェックしていた。

 大会中、フランス人の観客に話を聞いた際、「まったく怖くないといったら嘘になる。でも、テロがあっても日常は続いていくから、変わらずに暮らしていくことが大事。それにフランスの警察には自信を持っているから大丈夫」と話していたことが何よりも印象的だった。そんな風に言える強さが、果たして自分にあるだろうか。ピッチ内外を問わずにいろいろなことを考えさせられる、貴重な大会だったように思う。

(取材・文 了戒美子)

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