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「東京五輪への推薦状」第21回:「得点王になりたい」夏を沸騰させる市船スーパールーキー郡司篤也

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 2020年東京五輪まであと4年。東京五輪男子サッカー競技への出場資格を持つ1997年生まれ以降の「東京五輪世代」において、代表未招集の注目選手たちをピックアップ

 ギラギラの1年生が広島の夏を沸かせている。2回戦までを終えた高校総体で、市立船橋高は3回戦まで進出。危なげない戦いぶりを見せているが、チームの記録した4得点すべてが1年生によってもたらされている。地元の強豪クラブJSC CHIBAから入学してきたばかりのMF郡司篤也は、大抜擢に大活躍で応えている。

 全国大会で高校のAチーム公式戦初先発を飾る選手というのが、そもそも珍しいだろう。高円宮杯プレミアリーグEASTで途中出場したことはあったが、大事なトーナメントの1回戦で朝岡隆蔵監督は郡司を先発の11人に選んだ。さすがに予想外だったようで、メンバーの張り出されているボードを観たときは「『えーっ!?』という感じ」だったと笑うが、主将のDF杉岡大暉は「練習からそれだけのものを見せていたので、みんな納得していたと思います」と言う。監督から送られた言葉は、「ビビらず、遠慮せず、ガンガンやって来い」。それに応えるように秋田商高との1回戦ではいきなりハットトリック、関東一高との2回戦では貴重な決勝ゴールを流し込んでみせた。

 もっとも、高校入学直後から順風満帆というわけでもなかった。入学直後の関東トレセンリーグでもボールを持てば非凡なプレーを見せていたが、U-16千葉県選抜の監督でもある朝岡監督からは「戦術面でまだまだ足りないものが多すぎる。(市立船橋で起用するのは)まだ厳しい」と評されてもいた。本人も「(JSC CHIBAは)ドリブルのチームで、戦術とか言われたことがなかった。市船では(ミーティングなどでも)正直、『何を言ってるのか全然わからねえ』という感じだった」と、笑いながら振り返る。

 ただ、変に知ったかぶることなく、「わからねえ」と言えることこそが郡司の良さでもあるのだろう。「わからないことは先輩が優しく教えてくれた」と本人はあっさり言う。朝岡監督も「今年の3年生はちゃんと(1年生を)引き込んでくれる。教えてあげることができている」と目を細める。そう評された杉岡主将のほうは「それは(郡司が)ああいういいキャラをしているので」と笑いつつ、「3年とも自然と一緒に絡んでくる」と、郡司の前向きなパーソナリティーあってこそだと話した。関東一戦で奪った決勝戦は、オフ・ザ・ボールの動きでフリーになってからのワンタッチシュートで、一つの成果が見えたゴールでもあった。

 もちろん、今でも攻守の戦術的な動きをマスターしたとは言いがたい。ただ、それが良い意味での異分子、アクセントになっている面もある。相手にしてみると、洗練されたオートマティズムの中で、たまに突拍子もない動きをしてくる郡司は何とも対応しづらい相手なのだ。「ドリブルからの得点能力は高いと思っている」と自負する伝統校のルーキーが、夏の大会におけるキーマンになっているのは間違いない。

「点取り屋がいない」と朝岡監督がシーズン当初から何度も嘆いていた今年の市立船橋。だが、この夏に突如として異能のスコアラーが台頭してきた。1回戦終了後、「得点王になりたい」と無邪気に笑っていた郡司篤也の存在は、日本サッカー協会の関係者の視線も自然と集めつつある。恐らく日の丸の候補メンバーになるのはそう遠い日の話ではないだろうが、“もっと先”まで期待したくなるスペシャリティーを持ったプレーヤーだ。

執筆者紹介:川端暁彦
 サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』元編集長。2004年の『エル・ゴラッソ』創刊以前から育成年代を中心とした取材活動を行ってきた。現在はフリーランスの編集者兼ライターとして活動し、各種媒体に寄稿。著書『Jの新人』(東邦出版)。
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