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誰かのためにプレーすること、明治大GK服部主将の“改革”と日本一への道

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[8.14 総理大臣杯決勝 明治大1-0順天堂大 ヤンマースタジアム]

 誰かのためにという思いは、限界の一歩先へ足を突き動かした。明治大順天堂大を1-0で下し、総理大臣杯全日本大学トーナメント初優勝を遂げた。2013年、2015年と二度も準優勝に泣いていたが、悲願の戴冠となった。

 今季の明治大は、これまで以上にチームのために戦うという意識がそれぞれの中に深く刻み込まれていた。先発した11人は、起用してくれた監督・スタッフへ応えるため。後輩は悔しさを経験してきた先輩のために。上級生は過去に涙を流して卒業していったOBのために。様々な立場で各々が誰かを思って戦った。その先にあったのが日本一だった。

 チームを率いるGK服部一輝(4年=札幌大谷高)主将は「今年は三冠というものを目標に掲げていて、今日の試合で勝てなかったら、今年立てた目標が消滅してしまっていた。そういう中での責任感と、主将としてチームを日本一に引っ張っていかないといけないという思いを感じていました。日本一になるという責任を果たせて、ホッとしています」と笑顔をみせた。

 昨季の明治大はFW和泉竜司(現・名古屋)や当時3年生のDF室屋成(現・FC東京)を擁しながらも、総理大臣杯準優勝。全日本大学選手権(インカレ)では準決勝で敗れた。“黄金世代”の先輩たちでも日本一を取れない現実に、当時3年生だった服部たちは「まだ何か足りないものがあるんだ」と考えさせられたという。

 そして新チーム始動直前の2月、服部ら新4年生はまずミーティングの“改革”に着手した。これまでは4年生や主将のみが前に出て話す方式だったが、大幅にやり方を変更。毎週ひとつの議題を設定し、全員を6グループに分けて、仕切るのは下級生の役割にした。そしてグループ毎でのディスカッション後、まとめた内容を代表者が全員の前で発表する方式にした。

 DF小出悠太(4年=市立船橋高)は「下級生がミーティングから意見を出せれば、ピッチでも先輩へはっきり言えるようになるんじゃないか」という狙いだったと説明。服部は「全員に話す機会を与えたこと。それを毎週積み重ねたことが“考えること”へのアプローチになったかな」と言う。

 “新ミーティング”を重ねる中で、チーム内の風通しはさらに良くなった。学年関係なく、想いや考えを分かち合えるようになり、ピッチでの意思疎通もスムーズになった。下級生は戦術理解度が進んだとともに、上級生のこの1年へかける思いを強く感じとった。上級生は下級生のリアルな心境を知った。互いをさらけ出し、ぶつかることで組織としての円熟味は増し、各々の思いに応えたいという気持ちが芽生えた。

 実際にこの日の決勝・順天堂大戦。学年関係なく、ピッチ上では声でのやり取りが頻繁に行われたが、萎縮した態度を示す選手はいなかった。先発したMF小野雅史(2年=大宮ユース)は「(先発を外れた)大阪体育大戦で4年生のプレーを見て、責任感や戦う姿勢をすごく感じて、勉強になりました。この試合は4年生のためにも戦うことを考えてやりました」と言い、MF柴戸海(3年=市立船橋高)は「仲間と声を掛け合って、4年生のためにという想いがあった」と語る。

 4年生CB小出は「この大会では下級生がめちゃくちゃ声を出してくれたし、本当に成長してくれたなと思ったので、良かったです」と感謝を口にすると、「卒業していった先輩たちには、“借りを返しました!”と言いたいです。今日応援に来てくれたOBの方もいますし、山本アナ(OB山本紘之アナウンサー)からも“リオから応援しています”と連絡が来て。自分たちが想像している以上に沢山の人に応援してもらっているんだなと感じていました。そういう想いに応えることができて良かったです」と微笑んだ。

 主将の服部は「自分たちのやるべきサッカーを一人ひとりが理解したなかで、思っていることを伝え合って、徹底してできたことが勝利につながったんじゃないかなと思います」と胸を張る。

 また、今季の明治大にとってターニングポイントとなったのは“立正大戦”に他ならない。総理大臣杯開幕前の7月下旬に行われた天皇杯出場権獲得がかかった東京都サッカートーナメント・準決勝で立正大に2-4で敗れたのだ。服部や小出をメンバー外として、総力戦で臨んだ試合。東京都リーグ勢に負けた。この敗戦で遠い目標を見据えるよりも、目の前の一試合を懸命に戦い切る大切さを学んだ。

 栗田大輔監督は「このトーナメント(総理大臣杯)が始まる前に、痛い敗戦をして、チームが一つになった。やるべきことはなんだろうと、全員で戦おうというのが統一されて、ひとつのベクトルになった。今回のトーナメントも“一戦一戦を戦おうよ”というところがぶれなかったのが一番の勝因かなと思います。昨年までは“優勝したい”などの想いが強かったのですが、目の前の一戦一戦を大事にすることによって、結果がついてくることを知り、今年の大会には落ち着いて臨めたのかと思う」と語る。

 互いの思いを知るなかで、自然と誰かのために戦うようになっていった。目標に捉われすぎることなく、目の前の一試合に身を捧げた。そしてつかんだ日本一。明治大の守護神は、試合後こそ喜びを爆発させていたものの、時間とともに表情を引き締めた。

「日本一にはなれましたけど、楽な試合は一試合もなくて、ここから三冠を目指す中では、まだまだ実力的に拮抗する試合が多くなると思うので。一試合一試合、目の前の試合に向けてチームをつくっていければ」

 ここからまた明治大の新たな章は始まる。総理大臣杯初優勝という歴史を作った世代は、三冠という偉業に挑むのだ。紫紺の軍団は驕ることなく、謙虚に真面目に戦い続ける。

(取材・文 片岡涼)
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