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名将・大山監督とともに全国へ! 激戦区勝ち抜いて健在示し、「最後は武南だったと言われるように」

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 名門、10年ぶりのとなる冬への挑戦――。第95回全国高校サッカー選手権埼玉県予選は29日に3回戦が行われ、ベスト8が決まる。81年度大会で日本一に輝いているほか、全国大会で準優勝1回、4強3回の歴史を持つ名門・武南高は大宮東高と対戦。06年度以来10年ぶり15回目となる全国大会出場へ、一戦一戦勝ち上がる。

 今大会で1回戦から登場している武南は杉戸高との初戦を7-0、深谷一高との2回戦もエースFW加藤壮磨(3年)が一人で4ゴールを叩き出すなど8-0で大勝。ゲーム主将のCB柳田真志(3年)が「今のところ、1回戦、2回戦と順調に勝ってきているのでこのままいい感じで行けたらいいですね。練習からみんな気合入っていて、レベルも高くなってきているのでいいと思います」と評するように、好スタートを切ることができ、チームのムードも良い。だが、選手権はこれからが勝負。全国高校総体4強の昌平高などが待ち構えるトーナメント戦で先を見すぎることなく、一つずつ白星を重ねていく。

 今年の武南は埼玉県1部リーグで15勝1分1敗の成績で1試合を残して首位。リーグトップの57得点(17試合)を叩き出して2連覇を目前としているが、トーナメント戦では結果が出ていない。新人戦準々決勝でPK戦敗退したのをはじめ、関東大会予選準々決勝、全国高校総体予選では3回戦でいずれも1点差で涙を飲んでいる。柳田はトーナメント戦で勝てなかった原因について、「今よりは選手の勝ちたい気持ちというか、練習のムードが良くなかったことがありますね。一人ひとりの意識が低かったというのがあります」と指摘する。敗戦を経験し、各選手が「選手権こそは」と必死に日々を送ってきたことで確実に練習のムードや勝利への貪欲さは向上。その点も効果をもたらし、昌平や西武台高、正智深谷高など強豪揃うリーグ戦で首位に立っている。昌平には春のリーグ戦で2-0での勝利を収めているが、選手権予選の前評判は昌平の方が上。他のライバル校に比べても抜きん出た評価を得ることができていないのが現状だ。それでも、司令塔のMF奥村晃司(3年)は「リーグ戦だけ強いとか、トーナメント戦は弱いとか言われるのは悔しいので、最後は武南だったと言われるようにしていきたいです」と力を込める。

 今年の3年生は1年時の県U-16リーグで優勝している世代。今年で就任44年目を迎える名将・大山照人監督は以前に比べると、サッカーに力を入れる学校が増えたことによって中学時代に実績のある選手たちが入学してくるケースが減っていることを認めているが、「(戦力を維持することが困難で)『とても無理ですよ』といいながら、必死に食らいついている」と微笑む。ハーフコートの人工芝グラウンドでのトレーニングと環境にも決して恵まれていないものの、名門はどこにも負けない練習量で成長し、力を蓄えて選手権を迎えている。奥村や加藤を中心にMF玉上雅大(3年)ら個性ある選手を擁し、運動量を武器とするボランチMF冨沢尚輝(3年)が台頭。また、柳田や砂川洸介(3年)が最終ラインを支える。ずば抜けた選手こそ不在だが、それでも技術レベル高い選手たちが縦横にボールを動かすパスワーク、多彩な崩しなど彼らは選手権でも十分に埼玉を制す力がある。

 確かに、10年もの間、全国から遠ざかっているという歴史は重い。武南は過去5年で3度全国高校総体に出場し、12年度には全国準優勝しているが、その間も選手権の全国舞台に立つことはできなかった。大山監督は「何回かチャンスはあったんですけど、チャンスを活かせていない。ダントツの年っていうのはその間ありません。夏もそれなりに工夫しなければ勝てないですし、冬に勝つために図抜けた総合力を持てるチームにはなれなかった。エース格、ストライカー、困ったときに頼れるくらいの選手を育てないといけないけれど、届かないのが事実」。それでも全国大会に出場するために、武南の門を叩いた選手たちの目標は全国出場、そして日本一。歴史ある武南でプレーしているプライドもある。冨沢は「10年というのは凄く長い。10年前は自分も武南のことを知らなかったけれど、今若い人たちにどこ行っているのと聞かれて武南と応えたら知らないと言われて。同年代とかに武南でやっていると言ってもあまり分からないみたいです。そこは自分たちで何とかしないといけない」。選手権で武南の名をアピールするだけ。大山監督も「忘れられないように、『まだ、いるよ』と世間にアピールしたいですね」と語った。

 今年、武南は将来へ向けた移行の一年を送っている。大山監督が「夏から主たるメニューはコーチにやらせている。ボクは引き継ぎの時期に入っている。どうしても次の世代を考えると、(若いコーチ陣に)経験させるしかない。ボクは、いるっていうことで良薬になっているという立場」と説明するように、現在は武南OBで長年コーチを務めてきた内野慎一郎コーチが中心となって指導し、大山監督はわずかに引いて見守る側へ。トレーニングとトレーニングの間に緩みがある際に大山監督が選手に声を掛けるシーンや、コーチ陣に指示を出す姿も見られるが、我慢もしながら選手たちの動きを見つめている。

 ただし、勝利への情熱は変わらない。選手たちはもちろん今年、大山監督とともに全国に行くつもりでいる。加藤は「絶対に全国に出て優勝目指して行きたい。監督と一緒に全国に行きたいですね」。今までの武南の良いところを受け継ぎながら、中央からの攻撃など新たに取り組んでいることもいい形で表現できれば、攻撃を特長とする武南がよりバリエーションある攻めを展開するはずだ。全国屈指の激戦区を突破し、紫の風を再び選手権で吹かせるか。この冬、武南健在を全国で示す。

(取材・文 吉田太郎)
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