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[MOM1956]正智深谷DF田村恭志(3年)流血で「スイッチ入った」炎のストッパー。連続完封はならずも、決壊は許さず

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[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[11.20 全国高校選手権埼玉県予選決勝 正智深谷高 1-1(PK4-3)浦和南高 埼スタ]

「CK、FK、それにロングスロー。もう怖くて怖くて」

 そう言って破顔一笑したのは、正智深谷高のDF田村恭志だった。試合中は痛々しい包帯が巻かれていた左目の傷口は少し腫れている。「明日になったら、ひどいことになっているかもしれない」なんて軽口も叩きながら、しかし充実した表情を浮かべて試合を振り返った。

 高校サッカー選手権埼玉県予選決勝は、「埼玉の決勝は甘くない」という小島時和監督の言葉どおりに何ともタフな展開になった。シンプルにロングボールを多用してくる相手に対しては、まず防空戦で負けないことが第一になる。その任を主に担ったのが、CBを務める田村だった。相手のFW陣やセットプレーで上がってくるCBはいずれもタフに競り合える好選手たち。「浦和南の選手はみんな腕が強い。体では勝てないところが出てくるけれど、戦いをやるつもりで少しでも食い下がれればと思って挑んだ」と真っ向勝負。相手の肘が顔面に直撃して流血することになったが、そこからむしろ「顔を切ってスイッチ入った」と、むしろ猛然と競り合うようになり、特に後半からは空中戦でたびたび競り勝ち、相手の勢いを折ってみせた。

 最終盤、「ほぼCKみたいな精度で飛んでくる。頑張ってCKを回避してサイドに出しても同じ(笑)」という相手のロングスローにチームとして手を焼き、まさかの失点。だが、「そこから崩れることなく立て直せた」と胸を張ったように、チームとして崩壊することはなかった。失点後は、GK戸田海斗の提案を受けて相手のロングスローに対する守り方を修正。戸田を飛び出させてゴールカバーに2枚のDFが入るやり方に変えたことで、相手の脅威を減殺することに成功した。「最初からそうしておけば良かった」と笑うが、試合中の窮地にも動じず修正できた点こそ、正智深谷の勝因だろう。延長前半10分には、ロングスローからGKが競り勝てないピンチもあったが、ここは田村がゴールライン上で魂のクリア。これも偶然のカバーではなく、戦術的に必然のカバーだった。

 迎えたPK戦では「田村は大丈夫と思っていた」(小島監督)という全幅の信頼を受けて3番手のキッカーとして登場も、痛恨のミスキック。「自分でも(PKは)上手いと思っていたんですが」と苦笑を浮かべるしかない凡ミスだったが、仲間のカバーに助けられて全国切符は逃さなかった。

 全国での目標はまず準決勝から使用される埼玉スタジアムに戻ってくること。この巨大スタジアムの雰囲気を把握していることは「自分たちに有利に働く。まずそこまで勝ち上がりたい」と、全国舞台での飛躍を誓っていた。


(取材・文 川端暁彦)
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