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「東京五輪への推薦状」第29回:リベロ、司令塔、点取り屋。薬真寺孝弥は最強の超マルチロール

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 2020年東京五輪まであと4年。東京五輪男子サッカー競技への出場資格を持つ1997年生まれ以降の「東京五輪世代」において、代表未招集の注目選手たちをピックアップ

 リベロをさせれば守備の要、ボランチをやらせれば司令塔、トップ下なら点取り屋。「『やれ』と言われれば、別にどこでもやりますよ」という言葉をサラッと言ってのけるオールラウンドプレーヤーが九州にいる。長崎総合科学大附高のMF薬真寺孝弥だ。

 国見高を指揮していた時代から選手にマルチロールであることを求めて来た小嶺忠敏監督だが、薬真寺もそうした起用をされてきた。「ドリブルも上手いし、パスも出せて、守備もいい。将来的にはボランチかなと思っている」(小嶺監督)としながらも、今年の春まではリベロで起用。守備時の視野も広く、マンツーマンベースで守るチームにあって生まれがちなスペースを巧みにケア。奪ったボールを的確に繋ぐ、あるいは一気呵成に前線を走らせるロングパスからピンチをチャンスに変えるプレーで異彩を放った。最終ラインからボールを持ち上がるプレーもできるため、“リベロの薬真寺”は十分に脅威だった。

 だが、シーズンが始まってから主に猛威を振るったのは“トップ下の薬真寺”である。FW陣と得点を競っているというほどの攻撃センスは九州舞台で大いに発揮されており、プリンスリーグ九州ではMFながら現在得点ランク8位につける11得点。高校選手権長崎県予選でも得点王に輝いてみせた。タイミング良くペナルティーエリアに侵入していくセンスの良さと、正確なキックによってゴールを量産してきた。U-17日本代表FW安藤瑞季ら強力な3トップを擁する長崎総科大附だが、その攻めの中心に10番を背負う薬真寺がいることに異論は出まい。

 オフ・ザ・ピッチでの存在感も確固たるものがある。主将の重責を担いつつ、「明るくいこうとはいつも思っている」と笑うように、高圧的な雰囲気でまとめるのではなく、前向きにチームを引っ張ってきた。そんな薬真寺については大ベテランの指揮官も「明るく優しい子だけれど、言うべきときに厳しいことをちゃんと言える。なかなかいないキャプテン」と全幅の信頼を置く。「自分の指導歴でもちょっと記憶にないくらいに学年間の仲が良い」(小嶺監督)という今年のチームだが、そうした雰囲気が醸成された理由の一つに、主将の立ち居振る舞いがあったことは想像に難くない。

 高校総体ではブレイクし損なった印象も否めない長崎総科大附だが、今年の九州大会では東福岡を破って優勝を飾り、プリンスリーグ九州も圧倒的強さで制した実力は伊達ではない。「新夢追う坊主の物語」という小洒落たスローガンの下で夢を追う隠れたビッグチームが躍進を遂げる可能性は十分にある。そうなれば、来年から本格スタートとなるU-18日本代表のリストに、早生まれのため資格を持つ薬真寺の名前が挙がっても何ら不思議はない。大志を胸に秘めるキャプテンが注目を集める日も、そう遠くはないかもしれない。

執筆者紹介:川端暁彦
 サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』元編集長。2004年の『エル・ゴラッソ』創刊以前から育成年代を中心とした取材活動を行ってきた。現在はフリーランスの編集者兼ライターとして活動し、各種媒体に寄稿。著書『Jの新人』(東邦出版)。
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