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[MOM425]日本体育大GK福井光輝(3年)_“我慢”でPK正面キャッチ、遅れてきたヒーロー

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PKストップの活躍をみせた日体大のGK福井

[12.12 全日本大学選手権準々決勝 関西学院大1-1(PK3-4)日本体育大 町田]

 ヒーローは遅れてやってきた。日本体育大のGK福井光輝(3年=湘南工大附高)は1-1で迎えたPK戦で関西学院大最終キッカーのシュートを正面で止めた。4人目までは、ことごとく逆のコースへ飛んでいたが、最後の最後でしっかりとキャッチ。1-1(PK4-3)での勝利の立役者は「ラッキーです」と謙遜する。

 今季の日体大で福井は関東リーグの前期こそ、11試合中8試合に出たものの、その後はベンチで過ごす日々。GK長谷川洸(3年=東京Vユース)の後塵を拝し、第2GKとして過ごす時間が長かった。総理大臣杯予選のアミノバイタル杯では5試合中1試合に出るに留まり、総理大臣杯本選ではチームが4強入りするなか出番はなかった。対照的に長谷川は全日本大学選抜にも初めて招集されるなどステップアップ。後期リーグが始まっても状況は変わらず。長谷川が先発するなか、福井の出番はないままに時間は過ぎた。

 それでもリーグ最終節の流通経済大戦(2-0)で、ようやくチャンスはやってくる。インカレ出場に加え、3位以内が決まっていた日本体育大にとって、最終節は“消化試合”。ここで「やっときたか」と福井が先発。2-0の完封勝利に貢献したことが状況を変えた。

 そして12月に入り、開幕した全日本大学サッカー選手権(インカレ)。日体大にとっての初戦・2回戦の静岡産業大戦で先発に抜擢されたのだ。日体大の鈴木政一監督は福井を起用した理由について「高さ対策とクロス対策。高さはフクの方が全然ある。何かを取れば、何かを捨てなきゃいけない。それがはっきりしていた方がいい」と説明する。

「初戦(静岡産業大戦)のところで高さと相手のシステムを見たときに、フクの方が落ち着くかなと。ぱっと見たときに高さがない。それもあって福井を選びました。ハセ(長谷川)もハセのいいところも悪いところもあって。フクもいいところも悪いところもある。うちはパーフェクトGKはいないので」

 初戦に続き、4強入りのかかった関西学院大戦も先発。1-1で突入した今大会初のPK戦。「自分が止めなきゃPKは勝てない」という思いは守護神にとってプレッシャーになったという。

 特に相手の情報はなかったが、後攻の関西学院大1人目であるエースFW出岡大輝(4年=G大阪ユース)は2回戦でゴール左へPKを決めていたため、「そこは止める気でいました」。しかし狙って左へ飛んだものの、出岡のシュートはゴール右。完全に逆を突かれた。

「これはもうあてにならねーな……」。余計なことを考えず、目前の選手のみに集中することにした。しかし、そんな思いは裏目に出る。止めるはずだった1人目に決められたこともあり、はやる気持ちを抑えきれず。動き出しが早くなってしまったのだ。2人目、3人目もいずれも逆を突かれて決められた。4人目はクロスバーに当たったため事なきを得たが、実際に飛んでいたのは違うコースだった。

 この時点でPK3-3。自分自身では動き出しが早い実感はなく、なぜ逆を突かれているかわからなかった。救いを求めた視線の先にいたのは百戦錬磨の指揮官。鈴木政一監督は、第2GKの長谷川へ口頭で伝えると、“伝令役”となった長谷川が福井へ向かって「落ち着け、落ち着け」とジェスチャーを送った。

 第2GKを担っていたときはベンチで鈴木監督の言葉に耳を傾け、「あれ、速くないか?」と言われれば、長谷川に伝えていた。今度はそれを受け取る立場。指揮官からの“伝言”で冷静さを取り戻した。

 先攻・日体大の5人目が決め、PK4-3で迎えた関西学院大の5人目は、10番を背負うMF徳永裕大(4年=G大阪ユース)。落ち着きを取り戻した守護神は「10番で技巧派という感じがあったので、普通のことはしてこないなと。それで結構、我慢できました」。5人目にして、ようやく我慢し、正面で動かずに耐えた。はやる気持ちを抑え、キッカーをじっと見た。

 徳永の選択はチップキック。緩やかに正面に飛んできたボールを福井は難なくキャッチした。この瞬間に日体大の勝利が決定。殊勲の守護神はボール片手にガッツポーズで味方と歓喜した。

 一躍ヒーローとなったGKだが、理想の筋書きとは違ったようだ。「正直、キャッチか……みたいなのがありましたよ。ドーンと止めたかった。そういうのがかっこよくないですか? でもそれを我慢したから止めたと周りが思ってくれたら、自分はそれでいいです」とおどけて話す。

 耐える時間が長かった今シーズン。インカレでの活躍は「想像していなかったです」と正直に語る。それでも「このままだとやばいなと思いながら悔しい部分はありました。けど、チームのことだけを考えてということでやってきたので。そしていざ試合になったら、自分がやってきたことは間違いではなかったんだと思えました」と胸を張った。

 キャリア初の全国舞台でヒーローとなる活躍をみせた。鈴木監督は「今のところはフクでいく」と今後の試合でも福井を起用すると明言した。悔しさを乗り越えつかんだ日体大の正守護神の座。簡単に長谷川へ譲るわけにはいかない。

「長谷川に出会ってなかったら、今の自分はいなかったと思うくらいに尊敬しています。リスペクトしないと自分も上手くなりませんし、ハセにはハセのいいところもあって、自分には自分のいいところがある。そこをお互いが刺激し合えば、二人でプロにいけるかなと思っているので」

 たった一つの椅子を巡るチーム内での熾烈な争い。そこを制してヒーローになった守護神。日体大のために身を挺し、この椅子に座り続けるつもりでいる。

(取材・文 片岡涼)
●第65回全日本大学選手権(インカレ)特集

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