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仕事は「つなげる」こと、先発唯一の4年生、筑波大ゲームキャプテンMF吉田直矢

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ゲームキャプテンを務める筑波大MF吉田直矢

[12.15 全日本大学選手権準決勝 筑波大3-0阪南大 NACK]

 タレント揃いの筑波大でゲームキャプテンを務めるMFは、ただひたすらに仲間へボールをつなげる。派手さはないが当たり前のことを当たり前にやる。そんな一番難しいことを澄ました顔でしているのは8番だ。全日本大学選手権(インカレ)で決勝進出を果たした筑波大のMF吉田直矢(4年=川崎F U-18)は「特徴ある選手たちがのびのびと、その特徴を活かせるようにやらせてあげたい」と言う。

 インカレ準決勝の阪南大戦。筑波大の先発で4年生は吉田ただ一人。この日もキャプテンマークを巻き、試合へ臨んだ。MF鈴木徳真(2年=前橋育英高)とダブルボランチを組み、的確なポジショニング。チームは押し込まれる時間が続いたが、冷静にボールを拾ってはさばき、相手の攻撃の芽を摘んだ。味方がピンチの場面はさりげなくカバー。むやみに上がることはせずも、決定機では鋭く攻め上がった。

 すると前半20分、筑波大は先制に成功した。後方からのボールを左サイドで受けたMF長澤皓祐(2年=FC東京U-18)がヒールで前へ押し出す。反応した吉田からリターンを受けた長澤が正面へ流れてパス。MF戸嶋祥郎(3年=市立浦和高)がはたき、PA手前正面へ詰めた吉田が後方へ返すと、フリーの鈴木徳がPA手前から右足を一閃。ミドルシュートを突き刺した。

 吉田と長澤の崩しから戸嶋を経由して生まれた鈴木徳のミドルシュート。アシストした吉田は「相手がついてこなかったのでサイドから裏へ出ました。長澤といいパス交換でスペースをつくれて、徳真がフリーなのはわかっていたので、パスを出したら決めてくれて良かったです」と振り返る。先制した筑波大は後半にも2点を追加。3-0の勝利で8年ぶりの決勝進出を決めた。

 吉田と鈴木徳のボランチについて、小井土正亮監督は「阿吽の呼吸というか、お互いに助け合うし、良さを引き出そうとやっている状況。彼らに“もっとこうしろ、ああしろ”とは、今シーズンを通して一度も言っていないくらいに、自分たちでやってくれる。手の掛からない選手たちでありがたい」と全幅の信頼を寄せる。

 ゲームキャプテンを務める吉田だが、リーダーシップを前面に押し出して引っ張っていくタイプではなかった。それでも他の4年生がピッチへいない状況ゆえに、責任ある立場を任された。今では、吉田のぶれないプレーや献身的な姿勢に自然と後輩たちはついていく。

 小井土監督は言う。「ピッチに立っている4年生で先発しているのは、彼だけ。もともとキャプテンキャラではなく、淡々とピッチで自分のプレーをするタイプ。キャプテンだからといって、キャラクターを変えて、自分をつくってやっているわけではなく、背中で見せるというかプレーでみせるというか一回り大きくなった。チームへの貢献というよりも、彼自身がたくましい成長をしてくれているなというのは思います」。

 吉田にゲームキャプテンを託すFW高柳昂平主将(4年=名東高)は「4年生があまり出ていないなかで、(ピッチで4年生)一人でやってくれている。僕らはベンチから声をかけたりしますが、ピッチのなかは直矢に任せたという感じです」と語った。

 筑波大には、全日本大学選抜にも選出されている中野や鈴木徳、FW北川柊斗(3年=名古屋U18)、注目ルーキーMF三笘薫(1年=川崎F U-18)らタレントが揃っている。そんななかでキャプテンとしてプレーする吉田に、彼らのような派手さはない。それでも目立たない場所で人一倍汗をかき、チームのために戦っている。

 “黒子”に徹するMFは「下の学年に特徴や力がある選手が多いので、そういう選手たちがバラバラにならず、しっかりチームとして戦えるように。というのは4年生として意識しています」とゲームキャプテンとしての覚悟をのぞかせた。

「自分も結果を出せればいいですけど……チームのためにと考えたとき、特徴ある彼らが決めてくれるので、そういう選手に“つなぎたい”という思いが一番ですね」

 決勝戦の相手は日本体育大。前期リーグでは2-2で引き分け、後期リーグでは2-3で敗れた。リベンジを誓う吉田は「リーグ戦で日体大に苦戦しているのもあるので、絶対に負けたくないです。チームでひとつになって戦えれば、絶対に勝てると思う。日本一を取りたいです」と言い切った。
(取材・文 片岡涼)
●第65回全日本大学選手権(インカレ)特集

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