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C・ロナウドの得点後のビデオ判定はVARのミスと認めたFIFA会長、W杯での導入にも意欲

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ビデオアシスタントレフェリーがモニターで確認する

 クラブW杯でFIFA主催大会では初めて試験的に導入されているビデオアシスタントレフェリー(Video Assistant Referees/VARs)について国際サッカー連盟(FIFA)および大会組織委員会は17日、横浜国際総合競技場で記者会見を行った。

 会見にはFIFAのジャンニ・インファンティーノ会長のほか、FIFA技術部門チーフのマルコ・ファン・バステン氏、FIFA審判部トップのマッシモ・ブサッカ氏が出席。インファンティーノ会長は「(VARを)使ってみた結果、とても勇気づけられている。とても良い結果だ。我々は学んでいる途中であり、検討しないといけないこともあるが、ここまでの結果は非常に良いもの。なぜなら、主審がいつも正しい決断を下し、正義と透明性を実行できるからだ」と、ポジティブな評価を下した。

 14日に行われた鹿島対アトレティコ・ナシオナルの準決勝で初めてビデオ判定が適用され、ビクトル・カサイ主審が見落としたA・ナシオナル側のPA内でのファウルをVARが確認。鹿島にPKが与えられた。15日のレアル・マドリー対クラブ・アメリカの準決勝でもFWクリスティアーノ・ロナウドが得点を決めた際、オフサイドがあったかどうかの確認のためにビデオ判定が行われ、結果、当初の主審、副審の判断どおりに得点が認められた。

 しかし、いずれのケースでもビデオ判定のために数分間、試合が中断。ピッチ上の選手にもスタンドの観客にも分かりづらく、さまざまな意見が出た。鹿島の石井正忠監督は「試合の流れが途切れてしまうのは僕としては少しどうかなと思う」と苦言を呈し、レアルのMFルカ・モドリッチは「私は好きではない。混乱を巻き起こすし、これが続いてほしいとは思わない」と、ハッキリと異を唱えた。

 こうした声に対し、インファンティーノ会長は「時間がかかる、何が起こっているのか分からないなど、いくつかの批判がある」と認めたうえで、「だから試験しているし、改善していく。(試合に対して)最小限の干渉で最大限のメリットをもたらすことができると思っている」と力説。ブサッカ氏も「時間がかかると言っても、20分、30分かかるわけではない。選手もCKを蹴るのに1分かけることもあるし、ケガで試合が中断することもある。(ビデオ判定で)58秒伸びたからと言って、大きな間違いがあったかどうかの確認にそれぐらいの時間を費やすことに大きな問題はないのではないか。レフェリーは満足している」と、審判部の立場でコメントした。

 鹿島がビデオ判定によりPKを獲得したシーンについてインファンティーノ会長は「レフェリーが目で見ることができなかったアクションがピッチで起きた。見なかったから、判断を下さなかった。そこを技術のおかげで訂正できた。数秒かかったが、そこは努力で短くできる。大事なのは正しい判断が下され、PKが与えられたことだ。もしPKが与えられず、そのチームが負けていたら批判されていただろう」と、その意味合いを強調。一方で、C・ロナウドのゴールのあとにビデオ判定による中断が起きたことは、VAR側のミスだったと認めた。

 説明によると、VARはレフェリーに助言する際、ボタンを押して主審と無線システムをつなぎ、コミュニケーションを取っているのだという。ところが、この場面では、複数人いるVAR同士でオフサイドがあったかどうかを確認し合っている際にボタンが押されて主審に無線がつながり、「主審は自分に通信が入っていると思って勘違いした」(ファン・バステン氏)ため、試合を止めた。インファンティーノ会長は「それは謝りたい。そこはコミュニケーションの問題で、改善できる」と陳謝した。

 ファン・バステン氏には元選手としてモドリッチの意見をどう思うかとの質問も出た。「モドリッチ選手は非常に良い試合をした。ただ、ちょっと混乱していたと思う。VARとレフェリーのコミュニケーションにミスがあったことは説明した。次はそんなことは起こらない。次は改善するように努力する。そうなればモドリッチ選手も理解してくれると思う」と、今後の改善を約束した。

 インファンティーノ会長は世界のトップレフェリーが間違いを犯す頻度について「統計的に6試合に1件発生するということが分かっている」と指摘。「我々は主審をしっかりと褒めないといけない。そこを忘れがちだが、主審は極めて難しい仕事をしている。彼らは本当にプロフェッショナルで、優れている。ミスをしたとしてもわずかなミスしかしない。しかし、ミスしたときに試合の結果を左右してしまう。そのレフェリーを助けることができれば、彼らのミスで結果が変わるようなことがなくなれば、それはサッカーにとって良いことだと思う」と、あくまでレフェリーをサポートするために存在するテクノロジーであることを強調した。

 ブサッカ氏も「判定は主審が下す。今後もそれは変わらない。ピッチにいる主審が考えすぎていたら、あらゆる場面を確認したくなる。主審は、外にいる人間(VAR)がサポートしてくれることを忘れないといけない。自分の中に疑問を持ったとき、外に問いかけることはできるが、ピッチ上の主審が毎回、外にVARがいると考えたらおかしくなる」と、重大な場面でのみビデオ判定が適用されると説明。ファン・バステン氏は「PK、レッドカード、ゴールのときだけだ。VARは、何かが起こったときしか干渉しない」と補足した。

「2つの状況でVARが役割を担う」とインファンティーノ会長。「1つ目は主審自身がピッチで疑いを持った場合。明らかにミスをしたかな、試合を左右するミスをしたかなと思ったとき、レフェリーからVARに確認を求めることができる。2つ目は大阪の準決勝であったケース。レフェリーが見ることができなかったファウルがあり、それが試合を左右するとき、VARがレフェリーに連絡する。C・ロナウドのゴールはコミュニケーションのミス。意図的なものではなかった」と具体的に説明し、今回のテスト結果をもとにW杯での採用にも意欲を見せた。

「テストの結果が前向きだったので、次のW杯では本格導入になっていればいいなと思う。(試合が止まる)30秒、1分の意味合いとは何なのか。正義を見せるために1分かかることが長いのか。選手も時間の無駄遣いをすることはある。もちろん、短縮する努力はするが、W杯のような大事な大会で正しい判定が下せる意味も考えないといけない」と、理解を求めた。

(取材・文 西山紘平)

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